レスリングの仕方2
昼前くらいで陽は真上に達していない。
アデルとプヨンは並んで町の出口のほうに向かうが、ちょっと思い出したことがあった。
「ねぇ、アデル。今日行くところって危険なとこなの?」
「いやー、まぁ、まず問題ないよ。なんだよ、怖気づいたのかよ」
「いや、そうじゃないんだけど・・・、もし、もう1人行きたいってのがいたら、ダメ?」
「え?友達か?まぁ、かまわないと言えばかまわないけど、すぐこれんのかよ。あんまり待てないぞ」
プヨンは呼んでも良いという返事をもらって走り出す。
「じゃぁ、今すぐ聞きにいってくる。町の出口を出てすぐの川の橋のところで待っててね」
アデルは走り去るプヨンを見ながら、町の出口に向かって歩いていった。
プヨンは約束の場所でフィナを連れて待っていた、それを見てアデルは笑っていた。
「こらーー、プヨン、お前、連れてくるのは女の子かよ。お気楽デートじゃないぞ」
「い、いや、2人とも町からでたことなくて・・・、あははー」
照れながら返事したら、いつもの恰好でいたフィナはおどおどしつつも
「フィナです。よろしくお願いします」
一応挨拶を返す。フィナとアデルも意思疎通ができるようだ。
「まぁ、いいけどよー。こいつらは・・・。ちゃんと守ってやれよ」
アデルは呆れたような、ちょっと羨ましそうな感じで了承してくれた。
その後、3人は目的地に向かってのんびりと川沿いを進む。
川は幅が2mくらいで両側は高く土手になっていて、土手沿いに歩けるようになっている。
フィナはどうかわからないが、プヨンは実際に町から大きく離れて歩いていくのは初めてで、かなりドキドキしている。初めて見るまわりに興味津々だ。
見るものはすべて初めて見るものばかりだ。道中ずっとプヨンは周りを見回してあまり会話していない。フィナも楽しんでいるようだ。
しばらく歩くと川向うの草原に着く。何種類か生き物が見えていた。空には鳥などもけっこうな数が見えている。
「アデル、けっこういろんな動物がいるんだね。危険なものとかはいないの?」
「おー、あっちから襲ってくるようなのはいねーなぁ。こっちから不必要に寄っていかない限りは、まぁ大丈夫だよ。でもいくつか気を付けたほうがいいのはいるかなぁ」
アデルはまわりを見渡しながら、子供くらいのサイズのうさぎのような動物を指さす
「あそこを見てみろよ、2匹見えるだろう。左の狼のような動物が、右の子供位の動物を狙ってるように見えるだろ。あれはけっこうやばいんだ。右側は肉食の弾丸うさぎってやつだ」
立ち止まってじっと見ていると、2匹は見合っていたがそのうち、
ガスっ
突然うさぎが跳躍した。それもかなりの勢いで10m近い距離を一息に飛び込んだ。狼側もすきあらばと狙っていたんだろうが、まともにくらって動けなくなっていた。その間に、首をかまれ、とどめをさされている。
「お、あいつやったな。見たか、プヨン」
「・・・見た。一撃だ。弾丸かぁ、わかる気がするなぁ」
フィナはもしかすると普段から見たことがあるのかもしれないが、何も言わない。
「あいつは跳躍もすごいんだが、頭が岩のように固いんだ。あれをまともに食らうとかなり危険だ。肉は柔らかくてうまいんだ。ただ、人はまず襲ってこないけどな」
そういってアデルは、今度は上空を見上げて上空の鳥を指さした。
「あそこや向こうに大きめの鳥がいるだろ。1、2、・・・15羽くらいは飛んでるか。あいつらはサンダーバードだ。50㎝くらいで大きくもないし、肉食といってもちっさいネズミや魚を取ったりする程度なんだが、危険になったり獲物を捕るときには電撃を使うんだ。くらっても死にはしないがけっこうきつい」
(電撃か。旧世界での電気ウナギみたいなやつか・・・)
プヨンがそんなことを考えていると、
「でもなー、あいつはうまいぞ。高級肉だ。捕れるんなら、狙うのもいいぞ。トゥルガーって町じゃ、ヨパケンっていう、名物料理になってるくらいだ。もちろん、返り討ちにあってもしらんけどな」
アデルが追加で教えてくれた。
やがて川沿いをはずれ、森の方向にすすみ、2時間弱で目的地の森の入口までたどり着いた。一度休憩し食事をした。フィナは特に何も口にせず水だけ飲んでいた。アデルにフィナはいつもこうだと説明したら、特に何も言わなかった。
森の中に入ると猫程度の小動物はちょくちょく出くわす。時々は、狼のような獣を遠くに見たり、子供より小さい程度の猿のような生き物が樹上を飛び回ったりしていた。
特に攻撃してくることもなく、こちらからも何かすることもな。そのまま進んでいったが、アデルが方向を確かめようとしているのか、
「たしか、こっちだったと思うんだけどな。ちょっと見てくるわ」
そう言うと、高さ3mはありそうな高さの木の枝に飛び移った。
「おっ、アデル・・・」
予想外の高さの枝に飛び移ったアデルを見て、アデルすげぇと思っていると、アデルは、上から周りを一通り見まわして、
「おー、こっちだこっち。あってるわ」
そう言いながら飛び降りてきた。
「なーなー、アデルってなんであんな高さまで飛び上がれるの?自分じゃ、こんくらいが限界だよ」
といって飛び上がって見せた。いいとこ、80㎝くらいだ。
「飛び上がりって今の上にあがったやつか? なんでって言われても困るけどな。なんて言うか、こう、気合を入れるんだよ。高いところに飛び上がるぞとか、すごいスピードで走るぞとかな。人によってかなり差があるんだが、できるやつはけっこうな高さまで飛び上がれるぞ。俺ももうちょっと上までいけるからな」
「気合?気合で、限界が変わるってこと?」
「あとな、なんていうか魔法が使えるやつは、案外もともと体力的にも優秀なやつが多いんだ。さらにけっこう肉体も強化できるらしいぞ。俺も理屈はよくはわからんが、自分の体を強化したりするのは、肉体派も魔法派もそれなりにできるはずだ。他人には作用できんらしいけどな」
(なるほど、これもマジノ粒子の影響なのか? 強く念じると、物質、すなわち肉体にも影響がでるのか。根性とかとはまた違うんだろうが、似たような効果が出るのかな)
そう思えた。
そうこうするうちに、無事に目的地である、草の群生地までたどり着いた。木が少なく小さな池と岩山があるようなところで、少し開けており腰丈くらいのヒマワリのような草がびっしりと生えている。その葉を3人でひたすら取ったが、いくらでも生えている。持って行った布袋がいっぱいになるまでたいして時間がかからなかった。
「よーし、こんだけ取ればいいだろう。そろそろ戻るぞー」
アデルがそう言うと、2人は帰路の準備を始めた。




