石の売り方 2-3
「うふふ。プヨンじゃないなら、最初に言ってよね。もう」
高圧だが電流が少なかったのだろう。甲高いいい音がした数分後、ヴァクストは腕周りに樹状の電流跡がついた程度で無事に帰ってきた。
「生きていたようで何より」
「人の意見はよく聞こうと思った」
ヴァクストはプヨンの意図がわかったようだ。迅速な行動が良い結果をもたらすとは限らない。
幸い、ヴァクストもなかなか魔法耐性が高いようだが、それでもかなり痺れたようで、ダメージも大きく足元が覚束ない。
ヴァクストは戻ってきたが、椅子に座ると動けなくなったようで、しばらくユコナの様子を窺っている。ユコナは勘違いを主張しながら、がんばって治療をしていた。
ユコナは結局プヨンが氷の潜水艦を作ったように、自分で氷板の小さい小屋を作り、その中で温水シャワーを出して体を洗ってきたらしい。
氷に温水とはすぐに氷が融けそうなもんだが、エネルギーの供給ではプラスマイナス0になるから、そこまで大変でもないはずだ。グルグルとエネルギーをリサイクルさせて循環させるだけですむ。
「水を半分は氷にして、半分はお湯にするのよ。そんなに難しくはないわよ」
「なるほどな。俺のアキラクンの逆バージョンみたいなもんか」
そんなことができるのかと一瞬思ったが、よくよく考えると作用反作用と同じだ。自分でもアキラクンと称して氷と炎をぶつけて消滅させる練習をよくする。
当然エネルギーの流れを作るため、魔法としては負担がまったくの0ではないが大きいものではない。
逆にいうとお湯だけを作るほうが大変なはずだ。ユコナがいつそれに気づいたのかのほうが興味があった。
シャワーの間ユコナの足は相当冷たかっただろうが。
ユコナはヴァクストには初めて会うわけだが、同じ時期に学校に入ろうとしていたことを伝えると親近感を持ったようだ。
同い年で店を持とうとしているということにも興味を持ち、どんなものを扱おうとしているのかいろいろと物色していた。
せっかくだからと、プヨンも開店祝いを兼ねて、目くらまし用の閃光弾を見つけ買ってみた。
閃光弾、単純に木製の器にマグネシウム粉末を入れたものだろう。
投げつけて火をつけると、カメラのフラッシュを何十倍にもしたようなまばゆい光が発生して、相手はしばらく視力を奪われる代物だ。
魔法でも出せなくはないが、保険として持っていても悪くはないかと買うことにした。
1個100グラン。高級品だが戦闘屋なら危険時に使える脱出アイテムとして、常備道具の一つだった。
一通り買い物も終わり、やることがなくなる。そろそろ行こうとユコナに声をかけると、
「なぁ、お前らほんとにこの森経由で帰るのか? この先に何があるのか知っているのか?」
ヴァクストがそれとなくやめた方がいいと促してくる。心配してくれているのだろうが、
「問題ないと思うよ。初めてじゃないし。なんならこれ買い取ってもらってもいいよ」
そう言うとストレージに残っていた黄色い尖晶石、以前カンデイルから取り出せた石を2つ出した。
ヴァクストはこのタイプの石を見たことがあるようだ。カンデイルの自我、ほとんど食欲のみでできた尖晶石を見て、
「な。これは、湖のヤバい魚の石じゃないのか? こ、これをどうやって取ったのか?」
「ふつうに湖を歩いて。これは噛みついてきたのを捕まえたんだけど、今ならもっと簡単に取れるかも」
「湖を歩く? 簡単なのか? 俺はこっからちょっと奥に行くだけでも寒気がするというのに?」
ヴァクストはあきれるやら疑うやらしていたが、目の前に石があることから、嘘でないことは理解してくれたようだ。半信半疑ながらも納得してくれた。
結局ヴァクストはこの2個の石を買い取ってくれ、石を売った金でヴァクストの店にある閃光弾用のMG粉末を購入して店を出た。
「気を付けていけよ。今度はいっぱい買い取れるようにたくさん持ってきてくれ」
ヴァクストはそう言って見送ってくれた。
その後はフィナツーの案内で進む。
さすがにユコナが2度目のピーマン攻撃を受けることはなかったが、なかなか森に受け入れてもらえず、何度もつまずいたり滑ったりしていた。
ほっぺを虫に刺されたあとが痛々しい。赤くなっていた。
しかし、それでもフィナツーのおかげなのか、大きな怪我などはなく例の巨木『モアナルア』までたどり着いた。
そばまでいくとフィナツーが出ていき、これも前回と同様に、指示に従って木の周りに薬を撒き、作業は無事に終了した。
あれから休憩、歩きを何度も繰り返していた。
「ねぇ、プヨン、さっきからえらく集中しているようだけど、一体何をしているの?」
「あぁ、これか。大した事ではないんだけど、威力アップできないかなって思って」
モアナルアのところで植物栄養剤を撒いた後、身軽になったプヨンは道中は時折休憩しながら移動する。
休憩のたびにユコナは虫対策を施している間、プヨンはヴァクストの店で買った閃光弾をばらして、なんとかさらに改良できないかを画策していた。
その手始めに微粒子化の練習として、比較的安全な炭を使う。方法自体は微粒子化するだけで簡単だ。
炭を水の中に入れ、水晶製の刀を利用して発信子代わりに使い、超音波破砕を試してみる。より細かく微粒子化したほうが、粉塵爆発のように一気に燃焼させることができるからだ。
MG粉末の微細化ができると威力が格段にあがるはずだった。
「ランジュバン」
超音波破砕を利用した微粒子化だが、木炭カスすぐできた。すでに細かく砕いたあと木の入れ物にいれ、手投げ用として数個分の弾は完成させている。
しかし、サラリスへのおみやげ用に買ったMG粉末は厳しかった。
ピカッ、パパーーン
「な、何事なの? まぶしっ」
「な、なんでもない。ちょっと失敗した」
超慎重にびくびくしながら少しずつ微粒子化していたが、思った以上に難しい。
MG粉末は水に入れると可燃ガスが出るためか燃えてしまったり、ちょっとした静電気で破裂したりなかなか思うようにはできなかった。
微細化しては、水魔法「ヴェポラップ」で気化して水分を飛ばし、容器から粉末を回収する。
それを繰り返してようやく2発分貯まったころには、もう学校のそばまできていた。すぐそこには湖面の石が見え演習場の近くまできていた。
その頃、サラリスは学内のはずれを徘徊していた。
とくに約束していたわけではないが、週末はきっとユコナかプヨンが何か楽しいプランを持ってくるだろうとの期待があった。
もしくは今日明日のおやすみは上級生有志の学校案内もある。みんなで一緒に参加してもいい。
学校案内の予定では、今日は屋内メインで明日は少し遠回りもすると案内されていた。
しかし、結局二人はどちらもこなかった。サラリスは置いていかれたようだ。
「あの二人はどこに行ったのかしら? まさか二人だけで校内探検してきましたーとか? 私を置いていくことはないと思うけど……怪しい」
プヨンと相部屋のメサルは朝から礼拝をしている。手持無沙汰のサラリスは少しひがんでいた。
結局、一人でうろうろしている間に何人かと出会い、そのメンバーで時間を潰す。
サラリスは昼から学校の西側にあるドライビングレンジ、言わゆる打ちっぱなしにやってきていた。
ちょうど岸から一定間隔で湖面状に岩礁が出ている。これがいい放射系魔法の的になっていることからそう呼ばれている。
「今日は連弾魔法 ホチキス1914を試してみよう。24連射に挑戦よ。プヨン、今日一日私を放置した罪を受けるがいい」
サラリスは仮想ターゲットプヨンに連射弾を喰らわせることを想像する。
ふぉぉぉぉーー
下腹に力を入れ大きく息をすると、目の前にターゲットプヨンの顔を思い描く。にくったらしい顔だ。
この顔にピンときたら110発。
そのくらい火球をくらわせたくなる。サラリスはそれだけでいつもより3割増しくらいの威力が出せそうな気がしていた。
サラリスは打ちっぱなしの位置につき連射する。
弾道は50m、飛ばすものでも70、80mくらいだ。
最初こそ景気よくパッパッと打ち込んでいたが、みんな50発も打ち込むとすぐにへたってしまい、校内に戻っていく。
まだ夕方には間があるが、もう人影はほとんどなかった。
サラリスは連射しつつ、すでに200発近く湖に向かって打ち込んでいたが、プヨン怒りパワーもそろそろ限界になってきたころ、
「サラー、何してるのよ?」
聞きなれた声が聞こえる。
サラリスが振り返ると、プヨンとユコナが歩いてくるのが見えた。




