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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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軟棘条約の仕方 2

 二人組のうち男性側が威嚇するように睨んでいる。


「先に仕掛けたのはそっちだからなぁ。このまま黙っていては、評判にも関わるから諦めてくれよ」


 まぁいいじゃないのと横の女性はなだめているが、確かに護衛を生業にしていて、いたずらされたら納得はできないだろう。


「そ、それは、えーっと……」

「僕は助手です。なんのことかわかりません」

「え?」


 ユコナが戸惑っている間に、プヨンは先手を打つ。本体は箒を持つユコナだと指で示してアピールする。


 ユコナは何してるのと一瞬面食らっていたが、最近は多少の修羅場にも慣れてきたのか、狼狽してなす術がないということが減っていた。


 すぐに落ち着きユコナは切り返す。


「ねぇ、プヨン。せっかく外に出たんだから、戻る時、サラリスにはお土産を買った方がいいよね?」

「な、なに? いったいなんの話?」


 プヨンは慌てて聞き返す。ユコナの意図が見えない。そんなプヨンを無視して、


「話がまとまりました。私にはどうしてもなさねばならない用事ができてしまいました。私がお相手して一瞬で方がついてしまうのでは面白くないでしょう。当方は助手がお相手しますので、遠慮なさらず存分にお楽しみください。お二人同時でどうぞ」


 一方的に喋るだけ喋ると、ユコナは左の建物を指差しながら小走りで去っていく。


「じゃあプヨン終わったらきてね。あそこのお土産街で待ってるね」


 プヨンは凍りついていた。もちろん相手の二人も。


「な、なんだありゃ」


 向かいにいる男が呆れたように呟く。


 数十秒経ちユコナの姿がかなり小さくなった頃、ようやくプヨンと二人はユコナの凍結魔法が融けた。


 逃げてもよかったが、衝撃のあまり大幅に思考力も低下している。ユコナの言ったサラリスへのお土産が頭に残り、お菓子リストが頭に浮かぶ始末だ。


 ただ、プヨンもアデルが教えてくれた軟棘の件から、こういう場を体験してみたかったのもあり、まだ引くには早いと思った。


 相手の二人はボソボソと話し合っていたが、


「逃げる気はないみたいだし、ちょっとこっちにいきましょう。ここでは目立つしね」

「お前も相当苦労しているから、手加減はしてやろう、ガハハ」


 たしかに苦労している。詳しく話したいこともある。先方の提案に、これもいい機会とばかりにプヨンは大人しくついていった。


 まだ朝早いからか、少し外れた倉庫裏などにいくとまったく人通りがなかった。


「最初に聞いておくことがある」


 男性側は剣士のようだ。


 筋肉質で防具らしいものはあまり身につけていないが大剣を背負っている。


 女性は手に何も持っていないところを見るとサポート役か。女性側も落ち着いている。それどころか、存在感がなく、気配も感じないくらいだ。


「もう一人はお前を置いて行ったが……一人で俺ら二人と話し合える自信があるのか、あいつがひどいやつなのかどっちだ」


 横の女性も腕を振り回したかと思うと、いつの間にか細身の剣を持っている。ストレージができると見せることも十分威嚇になる。



 チラッとカバンの中のフィナツーを見ると、ワクワクして目を輝かせているのが見えた。


「フィナツー、お前は・・・・・・」

 

 フィナツーに呆れるが、ここはやはり対抗しておくべきだろうか。


「もちろんあいつがひどいやつなんです。やつは美を司るよりは馬ですね。馬。馬化委員」

「そ、そうか。お前も大変そうだな」


 『も』ときた。なぜかはわからないがわかってくれるようだ。

 なぜか遠い目をしている男剣士は横の女性をちらちら見ているが女性は気づいた様子がない。

 プヨンはこれといっていい返事が思いつかないので黙っていた。


 しかし、プヨンはうっかりと、


「なるほど。剣士さんも女性に苦労されてるんですね」

「バ、バカっ、せっかく穏便に済ませてやろうと思ったのに」


 女性側が自分のことと剣士を見る。プヨンはしまったと思ったが、遅い。

 暴言を履いたプヨンは睨まれている。横にいた女性が、目でやれと合図するのがわかった。


 仕方ない。プヨンも相手に合わせて腕を振り回す。ストレージから手を使わずに盾を出し、それを空中に浮かべて軽く動かしてみせた。


 一瞬二人はギョッとしたが、この程度はよくあるのだろうか。焦りもなく、落ち着いた様子で身構える。

 

 もちろん、プヨンもうまくできた自分に笑みが止まらない。


 ほどよい緊張感が漂う中、


「じゃあ軽く腕一本で勘弁してやろう」


 武者震いなのか、少し声がふるえたようにも見えたが、剣士はそう言うと背中の大きな剣を構え、そろそろと近づいてくる。



「見せてあげましょうか。連報群の中継とやらを」


 フィナツーがフィナに報告しているのか、プヨンから少し離れた安全サイドから実況中継していた。



 プヨンは軟棘って見せ合いだよねと思い直す。きっと寸止めでもするのだろうが、これからどう見せられるのかドキドキする。


 だがそれじゃダメだ。

 安全な見せ合いでは練習にならない。


 プヨンはそう思いながら殺気を放ってみるが、殺意がこもっていないのが見え見えなのかあまり効果がない。大して怯んだようにはみえなかった。


 仕方なく防御に気を配りつつ、どう自分の能力を見せつけるか考えていた。やっぱり倒せないと思わせることが良いはずだ。


 ただ戦闘となると怪我をする場合が多い。


 そうなると痛みをどうするかが常々悩みの種だった。もちろん治してしまえばほぼ痛みはなくなるのだが、そう割り切れない。


 例えば大怪我で腕が切り落とされたとしても、その直後は痛いが、傷が癒えて切断面が覆われると、もう痛みは感じない。


 

 それに痛みは感情でかなりコントロールできた。

 戦場で必死だと痛みは感じないのはよく知られている。プヨンはこれを見せてみることにした。


 プヨンは必死に戦うところを想像する。現実的な怖いもの、目の前にいるものよりも怖いものと戦うことを想像する。


 ブルっ


 思わず身震いした。ユコナと抜け出したことがサラリスに知られ、剣で追い回される様子が思い浮かぶ。


 よし今だ。戦闘中をイメージするところで、アドレナリンも高まり準備ができた。一度こちらから仕掛けてみる。


「ブラインドスラッシュ」


シュパッ、シュパッ、シュパッ


 以前、フィナが自分の体の硬い成分を利用して刃を作り、岩を切っていたことがあった。それを真似てみる。目的は自分の体に切り込みを入れるためだ。


 プヨンも自分の体の一部をよく硬質化させていたが、同じ方法で髪の毛の粉末を使ってみた。フィナがやっていたように、粉末を使ってグラインダーのように切る。


 思い切って一気にやるが、流石に骨は間を通して硬い部分は避ける。傷口は即座に治療するからほとんど血は出ないが、しかしけっこう痛かった。


「サーナサーナ・コリータドラーナ」


 痛いの飛んでいけとばかりに暗示をかけていく。


 それでも若干痛みは残る。興奮すると痛くないと言うがゼロではなかった。


 同時に神経部分を強く圧迫するとずいぶん痛みが和らぐこともわかる。


 もちろん痛すぎたらやめるつもりだったが、痛くないとの強い意思なのか、プヨン流・無の心なのか、なんとか、そう苦痛もなく準備ができた。


「へっ、今頃ビビっても許さねーよ」


 もう少しで切り離せるというところで止めていると、剣士は威力を見せびらかすように大剣で打ち込んできた。


 剣士はかなりの速度の打ち込みだったが殺気はない。最初だからか威嚇のようだ。


 しかしプヨンは切ることと無痛化に意識して対応が遅れてしまい、剣の動きに対して反射的に切れかけの手で受け止めようと腕を伸ばしてしまった。


ブチッ、 ボテッ


「あいた」


 残っていた部分が勢いでちぎれ、軽く悲鳴が出る。地面に落ちるところを慌てて魔法で受け止めた。泥がつくと綺麗にするのが面倒だ。これで予想通りだ。ホッと笑顔が出た。


「ゲッ」「あぁっ」


 一方で手首から先がちぎれて飛んでいくのを目のあたりにした二人は、軽く声を出したあと硬直している。


「バ、バカっ。斬っちゃダメでしょ。やり過ぎよ。なんでちゃんと止めないの!」


 女性側は慌てふためき、ひとしきり剣士を罵倒した後、


「ち、治療よ。ミュウを呼んでくる」


 治療できるものでも呼びにいくのか、どこかに走って行ってしまった。


 腕を落とさずにすんだプヨンが、にやけながら手首を持ったまま剣士を見ると、


「お、おう。大丈夫か?」


 青ざめーておかしな心配をしてくる。


 自分で剣を振ったくせにと、さらに笑みが溢れてしまうが、魔法で出した純水で軽く洗い治療魔法でくっつけてみた。

 

 いつものことだが、手を握りしめて動かしてみる。

 

 ビクッ


 剣士に向かって手を突き出すと慌てて避けている。ゆっくりとにじり寄ると、同じ距離だけ下がっていった。


 腕は何百回も治療してきているから、元の状態が良ければ接合面だけ一度剥がしてくっつければすぐに治る。5秒もあれば元どおりにできる自信があった。


 もう一度剣士を見て、どう穏便に済ますか考える。


「さてと、次はこちらのも見てくれる?」

「え?あ、えっと。はい」

「やった。ちょっと見せたかったんだ」


 そう言うと、プヨンは二酸化炭素から取り出した集積光を地面に向けて照射する。


ジジジィジジー


 花火で地面に字を書くかのように、光が当たったところが熱で焼け焦げ、白く跡が残る。


「ち」


 よし、うまく書けた、とプヨンはさわやかな笑顔で


「知ってる? 掃除すると『ち』って書くらしいよ」


 こくこくとうなづきながら、少しうつろな目で剣士が女性の走っていった方を見ている。


「じゃあこのくらいで引き分けってことで、いいですか?」

「は、はい。ありがとうございました」


 プヨンは引き分けに持ち込んで剣士を置いて立ち去る。もちろん追いかけてこなかった。


 予想以上にうまく治療でき、結果も残す。無事トラブルも回避でき、プヨンは大満足だった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  この感想書いてから少し別の小説、別の作者さんで恐縮ですが「蜘蛛ですが、なにか?」を読み始めてしまいまだ先を読めておりませんが、やはりそういう役割を与えないと現実と違い『物語』とならないため…
[気になる点] 百害あって一利なしの女ユコナ……いや、ほんとここまでで全然良いところがないというか、完全に悪女化している気がする……。 そういえば、いつかの蜂の仲間認定と蜂蜜くれる約束って本編中何の…
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