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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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脱出の仕方 2-3


 プヨンはなんとか一撃を加えて石像破壊の方法が見えたが、その喜びもつかの間、同時にプヨンが浮かべていた防御用の鏡もヒビだらけになって砕けそうになっていた。


 どうもガラス製の鏡ではあるが安物だからか透明度や反射率が悪かったようだ。

 女神像から何度か光子砲を受け、反射しきれず吸収してしまった光のせいで融けて変形していた。


 ボロボロ鏡は念のため回収し、もう一枚の鏡を出して交換する。


 これでまた数発は耐えることができるだろう。


 もう少し時間を稼ぎつつ、まずは周りの手下を片付けてしまおうと思った。


「ガル・パンミラー」

「そのまま焼ききれないの?」


 ユコナはプヨンの光点が生み出す熱の威力に驚いていたが、今一つ原理はよくはわかっていないようだ。


 プヨンはいろいろ試して見るが、この光波の方法では長焦点にできず、なかなか石像の深いところまで溶かしきれなかった。厚みのあると、刀のようにスパッとは切れない。


 思ったより溶けた石や蒸気、飛び散った溶融物などのスパッタにも邪魔をされる。


「ちょっと難しいな。もっと改良がいるのかもしれない」


 表面が融けて液体や気体状になると、それが邪魔をして光が奥まで届かない。

 最初から満点は無理だが、まぁ、最初としてはいい出来だ。もちろん、まだまだ改良が必要そうだとプヨンも渋い顔をしていた。


「やっぱり、私がいないとダメみたいね。とりゃ、『フラウズン・レッヒェルン』」


 ユコナも何度か繰り返し、冷却効果が高まってきているのか、一瞬で凍るようになってきた。


 瞬間冷凍に近くなり自信がついたのか、不敵な笑み浮かべるユコナ。


 一瞬それを見たプヨンは、氷の微笑女に背筋に冷たいものを感じてしまった。


 結局プヨンの光学魔法を利用したパンミラーキャノンによる光熱とユコナの急速冷凍を交互に繰り返す熱衝撃で、石像の石の亀裂を発生させ破壊するのがてっとりばやく効果的だった。


 それを使って石像の関節部分を徐々に砕いて解体していく。


 石像は再生しようともがいたりもしていたが、ユコナはさらにばらした部分を氷で閉じ込めて封じていく。このまま押し切れそうに思えてきた。


「いいわよ。プヨン。なんか、光が見えてきたわ」

「そうか、もうすぐ夜明けかもしれないな。そろそろ終わらせないと」


 ユコナは『は?』という顔をしていたが、かみ合わない会話も状態が好転してくると気にならなくなってくる。


 時折、動かない女神像から光子砲が放たれているようだが、撃ち筋がわかりきっている。

 それも鏡でなんとかしのいでいるうちに、周りにいた石像はかなり解体されていた。


「よし、次は、女神像の攻撃を封じてしまおう」

「わかったけど、どうするのよ」

「そんなに難しくないよ。打てなくすればいいんだからさ。面倒だから氷漬けにしちゃおう」


 サラリスの時と同じように霧を発生させて減衰させようかとも思ったが、光の全反射を使うことにした。 

 水と空気の境界面を適度な『ノ』の字のようなゆるやなか円形に保ってやる。飛んできた光を『ノ』の面で反射を利用し、少しずつ角度を変えていくことで、曲げてやれそうな気がする。


 水を利用した即席の光ファイバーのようなものだ。


 水面部分が多少波打っているが、乱反射してしまうのであれば、それはそれで威力を削げそうに思った。


 ただ、もちろん目的は出口から出ることだから、残った2体の女神像両方を相手にする必要はない。相手にするのは出口側だ。


「よし、出口に向かってダッシュだ」

「え?ちょっと待ってよ」


 プヨンは出口に向かって走り出した。


 しばらく、といっても前庭に入ってまだ10分は経っていないと思うが、戦ってみてわかってきたことがある。

 

 当たり前といえばそれまでだが、石像はあまり複雑な動きはしてこない。


 行動速度の変化でこちらが思うように動けないこともあるが、相手も基本同じような動作しかしないからパターン化して避けやすい。


 魔法もほぼ抵抗らしい抵抗はないので、効果はほぼ全開で発現していた。

 

 もちろん昨日のサラリスや他の生徒の動きを見ていた限りは、そのふつうに動くというのが難しいのだろうが。


「それっ。最後にこれでもくらいなさい」


 白い女神像、アササラスに思いっきり水をぶちまけ、それを凍らせ氷の塊を作り、その中に閉じ込めた。これでしばらく時間は稼げるだろう。ユコナはプヨンの後に続いて走っていく。


 前後に女神像に挟まれた形になるが、これまでも本体はあまり動こうとしていなかった。

 

 像が諦めたとは思えないが、深く考えずそのまま出口側に居座る黒っぽい石の女神像ヨルカクスに向かう。


 うまく迂回しながら出口にたどりつければ言うことない。

 全部を動けなくする必要はないはずだ。ただ、残っていると出てからも追いかけてくるのかは気になったが。


「ユコナ、あれにも水だ。凍りつかせよう。たっぷりと」

「わかった。たっぷりね」


 ユコナの目が、最初からそれでもよかったんじゃないのと訴えている気がしたが、そんな単純なものであればすでに試してきた人も多いだろう。


 何かありそうな気がする。


 

 プヨンを追い抜き少し前を行くユコナが、はぁはぁと息を切らしている。


 すでに動き回って疲れている上に、出口に向かいながら全力で走ったのでかなり息が切れている。


 こんな状態で魔法が使えるのか心配していると、


「ひゃうっ」


ズシャッ


 ユコナはバランスを崩したのか、突然地面を転がっていく派手な音がする。


 なんらかのダメージを受けているようで、攻撃を受けたのは間違いなかった。


「どうした、つまづいたのか?」


 どうも顔からダイブしたようで、手もうまくつけていなかった。


 追いつきざまに手を差し伸べたが、プヨンも急に地面が回転するような不思議な感覚に襲われた。酔っぱらったような、地面が上にあるようなおかしな感覚になる。


 ちょうど女神像2体に挟まれた位置だが、ユコナはまともに立ち上がれずふらふらとしている。プヨンも両手を地面についてしまった。


「ひどい、めまい、がする」


 ユコナが絞り出すような声で呟いているがとても小さい声だ。


 周りが静かだから辛うじて聞き取れたが、どうも耳に何か起こっている。

 おまけにバランス感覚がなくなっているから、鼓膜から三半規管あたりまでやられたようだ。


「聞こえているか?返事しろ」


 大声を出したつもりだが、ユコナからは返事がない。かすかに耳にキーーンと甲高い耳鳴りだけが聞こえている。

 

 ユコナは完全に歩けなくなっている。地面に膝をついて立ち上がれないだけだが、石像をバラしておいて良かった。


 この状態で襲われたらひとたまりもないところだ。白い女神像の光子砲も防げないだろう。


「音響兵器か。超音波か何かか」


 思わず口に出てしまったが、とりあえず思いついた対応策を試して見るしかない。


「ヴァッサーバリエール」


 辛うじて意識を集中して自分の前後に液体の水を出してみる。


 先ほどの光子砲を屈折させようとしていたものと基本は同じだ。


 形はどうでもいいからバシャバシャと波打っているが、なんとか壁として維持できた。これで指向性の高めた超音波なら水で反射され、こちらに届かなくなるはずだ。


同時に、


「リパリーマイステン」


 鼓膜はなんとかくっつけられたようだ。ただ、それなりに複雑な器官だからか、耳は聞こえるようになっていたが平衡感覚はまだ戻ってきていなかった。


「うぅく。吐きそう」


 ユコナのうめきが聞こえる。


 まずい。大急ぎで2歩下がり、ユコナの口から放たれる物理攻撃をなんとか回避した。

 

 酔った状態で危ないとも思ったが、平衡感覚が狂っただけで内耳が破壊されたわけではなかったからか、数秒で感覚が元に戻ってきた。


「ユコナ、立てるか?」


 もちろん近づくと危険かもしれないから、声だけかけたが返事がない。すぐに耳を聞こえるように治療してやりたいが、まずは像をなんとかする。

 

 せっかく出した水だから、このまま壁ごと出口の黒女神像に浴びせかけ、さっきユコナがやったように凍らせてしまおうと思った。


ザバァッ


「フェストケルパー」


 浴びせながら水を固体化、氷にすることで、女神像を包んだ大きな氷の塊に封じ込めることができた。


 突き破って出てくるかと身構えたが、氷はちょっとした大木並みの太さになっている。


 どうやら氷の強度の方が高いようだ。超音波も氷で遮断されたのか問題ないようだ。この隙にとプヨンは出口に向かって走り続ける。


「さっさとこいよ」


 酔っぱらっているユコナを魔法で無理やり持ち上げ軽くしつつ、半分引きずるように出口を通り過ぎようとした。


 その時、校舎の時計台の鐘が急に鳴り出した。


カーンカーンカーン


 3回鳴るとすぐなり止んだが、まだ夜明け前だからか妙によく聞こえた。同時に、前庭の山手側から一つ、蠢いている小さな影が見えた。


 新たな石像かと身構え、ユコナをひきずるように大急ぎで門を出た。脱出成功だ。

ただ、その感動に浸る間もなく、そのまま港の物陰に隠れ様子を窺う。


 残っていた女神像をチラッと見るが、氷にひびが入ってきているように見えるがまだ少し時間が稼げそうだ。ただ、奥から出てきた黒影はまっすぐこちらに向かってくるように見えた。



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