レスリングの仕方
また1つ歳を取りました。
9歳になって行動範囲も広がってきていた。
プヨンはいつものお祈りで瓶詰薬を作ったあと治療部屋に行こうとした。最近は正規品ではないけど、多少の効果があるのか、ダメ元でいいからほしいと言われるようになっていた。
副作用があっても知らないよといいつつ譲ったりもしている。
メイサとかも薄々は知っているようだったが、特にトラブルも起こっていないようで黙認してくれていた。
今日は治療部屋に入る手前にアデルがいた。しかも怪我をしていない。
院長と話をしていたようで、ちょうど終わったところのようだ。
「アデル、怪我してないのにいるなんて珍しいね。もしかしたら、治療はおわって帰るとこ?」
「お、プヨンか。今日は、仕事だよ。仕事」
「院長とお話ししてたの?お仕事ってどんなこと?」
「たいしたことじゃねーよ。ちょっと他の連れの治療に寄ったら、お前がいつも瓶詰しているもとの草のミメモム草の在庫がなくなりそうだったから、ついでがあったら取ってきてほしいってさ」
「へー、遠くまで行くの?」
「そーでもねーよ。町から2時間ほど歩いた森の中とかにけっこうあるから、夕方までには帰ってこれるさ。今日は暇だし、なかったらなかったで俺たちも困るしな。安く手伝っておこうと思ってな。もっともできあがった薬を高く買わされるわけではあるが。ははは」
アデルは自分のために頑張るのに、それを買わないといけないので釈然としないようであったが、
「だから、いますぐ行ってやるから、取ってきた分の1割はただで薬にしろと約束した」
アデルは緊急対応ではあるが、ウィンウィンであると言ってきた。
「へー、じゃぁ、お得ではあるんだ。危険なの?」
「まぁ、生えてるところにまとめて生えてるから、取ること自体は短時間だな。生えてるところはなぁ、草がエサになるってのとは違うんだが、なんかいろいろと集まりやすいんだよ。それにある程度森の中にいくし、まれに狼とか肉食系のに出くわすこともあるしな」
怖がらせようとしているのか、肉食系動物の真似をしながらアデルがからかってくる。
「女子供が1人で行くのはちょっと無理があるかな。まぁ、ちっさい森ながら多少は大型の動物もいるからな。襲われるとやばいが、こっちから仕掛けない限りは、あっちからくることはないな。特に夜行性がいない昼間なら、まぁ、まず危険なことはないだろーよ。くるか?」
いろいろというのが気になったが、めったにない機会でもあり即答する。
「連れて行ってくれるの?うん、もちろん、いく」
「よっしゃ、連れて行ってやるよ。でも、ヤバいときは逃げろよ」
逃げろよと言われて一人で逃げたら次何かあったら致命的だ。連れていってもらうことにした。
メイサに行っていいか聞いたところ、いつもの草の収集場所でアデルが一緒だというのもあって許可をもらえた。
そういうところからも特別な危険はなさそうだ。
特に準備というほどでもないけど、丈夫そうな厚手の服に着替え簡易な食料とか食器あたりをカバンに入れた。
準備はすぐに終わり、アデルのところに戻り、一緒に教会を出て歩き始めた。
すぐにアデルが話しかけてきた。
「プヨン、ちょっと寄るところがあるから行きがけに寄るぞ」
「どこに行くの?」
「あー、レスルによって、仕事の依頼を登録していくんだよ」
との返事だ。初めて聞く言葉もあってアデルに確認する。
「さっき、草を取ってくれって依頼を受けたけど、あれは正確にはなんていうか仕事を仲介してくれるところを通して受けたんだよ。だから、ちぃっと手続きがな。その仲介所をレスルっていうし、そこの仕事をすることをレスリングって言うんだ」
アデルが詳しく教えてくれたことをまとめると、どこの町にもこういったいろいろな依頼を仲介している仕事斡旋所のようなものがあるそうだ。
個人間でやると支払いや期限、仕事の出来具合など、ごまかされたり脅されたりいろいろとトラブルが出るため必須なのだそうだ。
国を超えるような仕事や、複数の地域、グループなどがかかわることもあり、そうした調整もしてくれる。
逆に依頼するほうも安心料と思えばいい。高くても優秀な剣士や魔法使いがほしいのに、報酬につられた未熟者がきてしまったりすると、最悪命の危険などが出る場合もある。それなりの条件を満足していることを証明する資格提供も兼ねていた。
これは需要と供給を確実に支える上でも合理的なシステムということらしい。
アデルは説明を続けた。
「俺は剣士でベテランだからな、剣BBBになるんだ。すげぇだろ」
アデルは金属製で名前と『剣BBB』と書かれた、小さな金属板を見せてくれた。
この場合Bは武器系の能力を意味し、数が増えるとよりできる人を示すらしい。アデルの場合は剣が得意分野になる。
人によってここが槍になったり弓になったりする。
レスルで申請すれば、B1個は誰でももらえ、BBになると試験でそれなりにできることを示す必要があり、BBBになると教官レベルだそうだ。
Aは特殊な能力系で魔法とかはここになるらしい。火魔法が使えるなら火A、水なら水Aとかになる。
CはAやBがない非戦闘な能力系一般、例えば文化的なものや商業知識を意味するそうだ。
「プヨン、前に俺の皮膚をなおしてくれたことあったろ。今日終わったらちょっと登録してみたらどうだ」
アデルはそう言うが、けっこう真顔で言っている。そんな話をしているとレスルの事務所にたどり着いた。
アデルは入口のドアを開けて中に入り、プヨンもそのあとに続いた。
中は30m四方くらいの広さの部屋になっている。椅子やテーブルが何組かおいてあり、そこで話し込んでいるグループもいた。
奥はカウンターになっている。アデルはカウンターにまっすぐ歩いていくと、そこにいた受付らしい女性が気づきアデルに話しかけてきた。
「あら、アデルさん。御用ですか?」
「おー、ヒルマ、ちょっとな。いつもの依頼の手続きだけしてくれ。教会のやつだ」
アデルはヒルマと呼ばれた受付の女性と話し、教会から草を採取する依頼を受けたと説明した。
毎度のことらしく確認はすぐに終わり、また出ていこうとしたが、
「そうそう、ヒルマ、この子は教会のとこにいるプヨンって言うんだけど、ちょっと回復魔法が使えるんだ。あとで見てやってほしいんだ」
そう言われたヒルマはちょっと驚いている。
「え? 回復魔法ですか? まだ子供に見えますがほんとですか? レスルに登録するということですか?」
「あぁ、そうだ。頼むわ。あとそこのぼろい木剣ももらっていいよな?」
そう言うと、隅にあった樽の中に何本か入っていた古そうな木剣から短く細いのを取り出し、プヨンに投げてよこした。
「プヨン、護身用に一応持っとけよ。ちょっとは、さまになるだろう」
プヨンは、木剣を持って構えてみる。なんとなく誇らしくなったのか、うれしくてにやけてしまう。
「じゃぁ、いってくるわー。夕方には戻る」
「いってらっしゃーい」
アデルとプヨンはレスルの事務所を出ていった。




