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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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防御魔法の使い方 7


 みんな学校に入った直後で気分が高揚しているからか、厳選された試験を受けて学びたいという意識の強いものが集まったからなのか、あまり遊んでいる者はいなかった。


「プヨン、みなさい。究極奥義、ケーキ1ホールアタック」


 バクッ


「なぜに奥義を、俺に見せようとするのか?」

「しまった。こんなあっさり奥義を見破られてしまうとは」


 みな、これまでできなかったことにいろいろと挑戦しているようだ。


 本気でくやしがっているサラリスは、もちろん放置したが、暇を見つけると自主学習という名のもとに今までやってみたかったができなかったものができる。


 最大火急で火球をはなったり、手当たり次第に乱射してみたり、危険な術式について記載された書物を読んで知り合ったもの同士で試し合っているのがそこかしこで見られた。


 ここでは、危険なものの認識があまい。従来危険と言われるものがふつう、それはやめとけというものでも、場所さえわきまえていればよほどでない限り制限されることもなかった。


 もちろん結果は自分に返ってくるので、髪の毛を焦がしたり怪我をしているのはご愛敬だが、そのあたりについてのサポートも充実していた。



 3日目以降も変わらず防御系の授業が続く。


 今日も適当に相手を変えながら練習をする。単純な投げ合いよりは、お互いの投げ合いのほうが面白いのか、地面に円を書いてそこから押し出したら勝ちなどのゲーム方式がはやっていた。


 サラリスが棒切れを投げてよこす。


「ちょっとプヨン。その棒切れを持って、打ち込んできなさいよ」

「これでいいのか? うりゃ」

「スクートオーバー」


 剣に右寄りに力がかかるが、当然、プヨンも剣に反対方向の力をかける。


バシィ


 サラリスの頭に命中する。


「いったー。なんで? なんでよ?」

「そりゃ、俺だって、ぶれないようにしっかり支えるだろ」

「は、反則よ。ここは避けるところでしょ」


 同じ動きをとめるにしても、石などの意思を持たないものから、人のこぶしなどの相手の意思によって抵抗を受けるものになる。相手の体を投げたり、腕を動かして自分で自分を殴らせるなどもはやっていた。


「プヨン、私が勝ったら、授業後の演習場整備は、あんたがやるのよ」

「くくく。望むところ。俺が勝ったら、額に墨で『プ』と書いてやろう」


 最初は力ずくで持ち上げてやろうとしたが、持ち上げて放り投げるのは何か違う気がした。サラリスの力と同程度くらいにあわせ、お互いの隙をつき、読みあいのようになってくる。当たり前ではあるが動こうとする方向に力を加えてやると押し出しやすい。



 自分のまわりの地面に足で線をひき、半径1mくらいの円の自陣をつくる。一種の相撲のように、プヨンとサラリスはそこから押し出し合いをしていた。


「よく言ったわ。私は軽いから不利だけど甘く見ないでよ」


 さりげなくアピールするサラリスには返事しない。いっそ、動けないようにしてやろうかとも思うが、


「そこで、流さないでよ」

「くくく。くたばれ、尻軽めっ」

「いたっ。ここはナイスボディよ」


 まわりでも昼の食事調理や授業準備の担当の役割をかけたシビアな戦いをしている者達もいた。


 すでに、サラリスを9回追い出し、プヨンも9回追い出されていた。最後の10回目だ。


「あっ、しまった」

「あははー、まいった? ねぇ、まいった? 10-9で私の勝ちよ。今日の整備はプヨンっと。まぁ、当然の結果よね」

「あー、なんたる不覚」


 着地する瞬間を狙われて足を払われ、プヨンは円を踏み越えてしまった。


「ほーら、最敬礼の5連発祝砲よ。ぽひゅぽひゅぽひゅ」

「くっ。ちゃんと5回言えよ」


 サラリスが指先から小火球を出す。効果音付き祝砲5連発を眺めたあと、プヨンがサラリスの代わりに今日の演習場整備をすることが決定した。




 黄昏時、プヨンは沈みゆく夕陽を見ながら演習場の中央に立ち、向こうに見える食堂と前庭の方を見ながらたたずんでいた。


 演習場は1辺1kmほどはあるだたっぴろい草地だ。一部には大きな壁やのぼり棒のような障害物も見える。その向こうは切り立った岩山になっているようで、転げ落ちてきたのか、大きな石が転がっているのも見えた。


 今日の上級生の授業では何をやったのだろうか。魔法によって演習場が穴ぼこができていた。ふつうはならすだけですむはずだがひどい状態だ。

 主に下級生である1、2年で毎日交代で整備をするが、今日の当番だったサラリスに負けたプヨンが演習場の整備をしている。力で土を運ぶもの、魔法で土をならすもの、みなそれぞれ好きにするが、最後に魔法を使うのはしんどいのか、ひーひー言っていた。


(サラリス、今度は必ずぼこってやる)


 夕陽に報復の誓いを立てようとしたが、


「おい、こら、そこの一年、さっさと整備しろ。さぼってんじゃねーよ」

「は、はい。戻ります」


 指導教官の怒鳴り声が聞こえてきたため、誓いを立て切る前に呼び戻されてしまった。


 まわりに他にも3人ほど一年生がいる。今日は、他にも上級生が使った藁人形の燃えカスを集めないといけないが、あと20体ほど片付けねばならなかった。

 



 今日の演習場整備は思ったよりハードで、陽が沈んで暗くなっている。その後もプヨンは適当に演習場の外周をぶらぶらしている。

 遠くの前庭では、夕方からがんばっている元気な生徒が石像と戯れているのが見える。もしかしたらサラリスも今頃やっているのかもしれないと思っていると、マウアーが探していたようで呼びかけてきた。


「こんなところにいたのか? さっき、演習場整備を変わったって話が聞こえてな。今日も付き合ってくれよ」

「例のこんにゃくシールドか?」

「こんにゃくって言うな!」

 

 マウアーは初日からというか入学前から空気を利用した防御に一生懸命取り組んでいるようだ。試験時に同部屋だったよしみで、すっかり練習相手にさせられてしまっている。


 マウアーはどうやら空気中の分子同士をくっつける魔法を使っているらしい。学術書がどうの合成がどうのと詳しく聞かされたが、興味がないからさっぱり頭に残っていなかったが。


「よし、1、2、3秒だ。ここで、強く念じる」


しかし、マウアーが思い描く方法では、なかなか思う強度にはならないようだ。


「くっくっく。我が無敵の人差し指」


プシュ


「くそっ。突き指しろ」


 サラリスの件でのうっ憤もあって、マウアーで少し留飲を下げたところでまじめに付きあってやる。


「指では一応弾力は感じるが、ちょっと棒切れで突くとすぐに打ち壊されるだろうな」


 感じたことをそのまま伝えてやる。たぶん、これじゃ物理的な防御として使うには難しいかもしれないが、水などの液体なら防げそうだ。マウアーはまだ学校にきてからはそれほど長い時間が経っていないが、朝昼の空き時間も一生懸命研究している。今のところ一番勉強家なのかもしれない。



「空気ども。もっと、こう、しっかりと密着せんか!」

「ぎゅーー」


「絶対はなすんじゃないぞ」

「わかった。わたしをはなさないでー」

「なんだと」


 端から聞かれると怪しい会話のような気もするが、マウアーも別にまじめな返事を求めているわけではないだろう。適当におちょくった返事をしておく。

 そんなすぐに画期的に変わるわけでもない。まだ数日なんだから。


「接着剤だ。奥義、クールなグルー」


ボシュ


「あっ」

「思い入れが足りんな」

「くそっ。ふー休憩だ」


ドカッ


 プヨンがもう何度目になるのか、指で突き崩してやる。さすがに心が折れたのか、マウアーは椅子に座り込んでしまって汗を拭った。


 マウアーは考えるモードに入ったようで、なぜダメなのか考えているようだが、そう簡単にわかれば苦労はない。しばらく無言が続く。プヨンもプヨンなりに空気をくっつける方法を考えていた。


 前から1つ方法を思いついてはいた。実際に試そうと思ったことはなかったが、読んではいないがマウアーの言うユーカワンの書の説明でなんとなく思いついた方法だ。


 その物質は、中間子。


 原子内の陽子をくっつける核力を維持するための接着剤だ。


(なんとか、こいつを生成して、まわりのものをくっつけられないものか。やり方自体は、水を作るときと同じ、光エネルギーをぶつけて物質を生み出す対生成を使う方法でできるはずなんだがな)


 この中間子を密着させて板状にし、それになんらかの形のある物質、例えば空中の窒素を圧縮してくっつけてやれば思うようなものが出来そうな気がしていた。


 だが、この接着力は比類ない中間子にも、デメリットがあることもプヨンにはわかっていた。


 対生成である以上必要なエネルギーが多い。しかも届く距離が短い。


 1個あたりでは、ごく短い距離、原子核1個分も届かない。


 作っても気を抜くとすぐに消えてしまう。


 要するに威力を出し続けるには、膨大な魔力を注ぎ続ける必要があった。


「試してみるか、パイオン」


 俯いて考え事をしているマウアーに聞こえないように呟き、魔力を集中させ中間子を生成するためパイオンシールドを作ってみた。


 スカッ


(あれ、このあたりにできたつもりだったが)


 ある程度気合を入れて作ってみたが、特段何もできたように感じない。手にも触れなかった。


「なんだ?何してるんだ?」

「い、いや。なんでもない」


 手を振り回しているプヨンを不審に思ったマウアーが聞いてくるが、手を振ってなんでもないと遮ると、マウアーは再び集中モードに入ってしまった。


(対生成で壁の種はできていると思ったが、力が足りないのだろうか)


 うまくいかないので、先ほど以上で力を入れるが感触がないのは同じだ。そんなことを何度か繰り返すがいっこうに壁ができたようには見えなかった。無駄にエネルギーを使い、疲労度が一気にあがる。


(思った以上に魔力が足りないのか、気を抜いているのが悪いのか)


 もうあまり何度もする余裕もない。ものを結び付けるイメージをするが、そもそも中間子の実物は見たことがないから、丸い球体が集まるイメージをする。そういう仕組みがあることは知っているが、知っているからできるのであれば、ずいぶんらくだ。あとはひたすら試すしかない。最後にこれまでの数倍の力を振り絞って、


「パイオン」


コンコン


「おっ、これは」


 目の前に小さい接着剤の板を作り、それに空気、特に窒素をくっつけてみた。確かにそこに物理的な硬さの感触を感じた。ただ、目の前には何も見えず、素通しで地面が見えている。一定の位置で手の動きがとまるだけだ。


(ものは通るけど、光は通り過ぎるのか)


 コンコン


 指でそっと確認すると、固さのあるのは5cm四方くらいだ。そこからは急激に不安定な形になっているようで、すぐ固さはなくなってしまった。


(しかし、こいつは、維持するのが精いっぱいだ)


 防御壁にはできたが、想像以上のエネルギーがいる。


 ちょっと気を抜くとすぐに崩壊してしまうのか何も感じなくなってしまった。確認のためでもあったが、何度試してもふーっと一息つくだけでも結合範囲が一気に小さくなってしまうようだ。


(できなくはないけど、まいったな。これじゃ、どのくらい維持できるのか)


 プヨンは何度か全力で水を生成したことがあったが、この疲労感はそれに近いものを感じていた。


 水は全力ではあるが力を出すのは一瞬だけであった。一方で、この防御壁の場合は全力まではいかないが、おそらく維持し続ける間魔力も出し続ける必要があるはずだ。


 大きさもまだまだ小さい。授業の疲れとさっきまでの連続失敗の疲労感もあって、いったん保留にすることにした。


(まぁ、できただけで、よしとするか)


「ふーー」

「どうした? 何かできたのか?」


 一気に疲労して大きく息をつき、マウアーに怪訝な顔をされてしまった。


「いや、なんでもない」


 マウアーにできたというのは、もっと本当にできてからにしよう。これでどの程度の強度がだせるのか、どの程度維持できるのかをもっと試さないと人には言えないなとプヨンは思った。


 その後も、マウアーの試行錯誤を、プヨンの非情の指が容赦なく一刺し撃破し、マウアーが疲労困憊した頃、2人は部屋に戻っていった。


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