魔法研究の始め方2
ある程度状況が整理され、少し落ち着いてきた。もう少し身近なことを聞いてみる。カタロも最初に感じていた緊張感が薄れ、口調も自然になっていった。
「女神マジノって今まで何してたの?」
「特に何も。自分の感度が届く位相のエネルギーのやり取りや状況をぼーっと眺めてるだけよ」
「眺めてるだけなの?ちょっかい出したりはないの?」
「うーん、ものすごく強い意識だと感じたり感じさせたりはできるけど、距離の問題もあって簡単ではないのよね。何かしたいことがあるわけでもないから気まぐれかなー。あなたたちも同じ次元の遠くの星を見たり、通信文を送ったりはしてたけど、その星に何かしたり、会話したりは難しいでしょ。位相が変わると、さらにいったりきたりは難しいかな。そんな感じ」
カタロはなんとなくイメージはできた。多次元の宇宙のようなものか。距離もあるし、相の障壁もあって、見たり感じたりはするけど一方通行。そんな感じなのだろう。
「なるほどね、なんとなくわかるかも。複数の透明なシートに絵をかいて重ね合わせて見てるような感じかな。違う位相にいるからお互い見えるけど相手を触れられないみたいな」
「そうね。そんな理解でいいと思うかな。ただ非常にまれにだけど何か思いが届くことがあるわ。そういうときは気まぐれに反応することもあるよ」
「へー、会話?声が届くこともあるんだ。じゃー、どのくらい見えるの?」
「望遠鏡と同じね。うまく感覚をあわせると、あなたたちのいう銀河系くらい届くけど、1度に感じられるのは星1個くらいだよ。」
「ふーん。ちょっとよくわかんないけど」
「遠くまで見ることはできるんだけど、あっちこっちいろんなところをいっぺんに見えるわけじゃなくて、1度に注意して見えるのはそんなに広くないってこと」
そんな会話をしながら、けっこう、寂しいんやなーとか、もしかしたら、自分らのいたところも見てたことあるのかなーっなどと考えていた。
「なー、俺ってこれからどうなるの?こうして会話相手してたらいいの?」
「それは楽しいけど、たぶんね、ずっと一緒にいると混ざるわよ。聞かなくても最初からわかっちゃうようになって、体の境界というのもあってないようなものだから、そのうち1つになっちゃうような。そんな気がする。」
「え、吸収されちゃうってこと?」
「吸収というか、一緒になるといえばいいの?どちらでもない2つで1つ。そうなると一人会話みたいになるわね」
少なくとも、他人と意識が混ざってしまうというのはまっぴらごめんだ。それに会話相手もいなくなって、最終的に独りというのも楽しい未来ではない。
「他の選択肢はないの?」
「一緒になっちゃうってのも確証はないんだけどね。ただ混ざり始めてからじゃ手遅れよね?」
想像で言われてもなんだが、たしかに半分くらい混ざって体が半分なくなってから、どうすると言われても後戻りできないかもしれない。
「そばにいたらそのうちいなくなるとしたら、遠くに離れて楽しむってこともありよ」
「遠くで楽しむって、どうやって?そんなことできるのかな?」
それから、しばらく考えてみたが、どうしたらいいかなんて決められない。結局、もう一度相談するような形で、女神マジノに聞いてみる。
「もともと僕はマジノ粒子で、どんな物質にどんな影響を与えられるか調べてみたかったんだ。なるべくもといた世界に近く、濃いマジノ粒子が物質に強く影響するとこってないのかな?そんなところにいけたら面白そうだけど」
自称女神様は少し考えている。何か思いあたるところがないか思い出そうとしているようだった。しばらくして、
「そういえば、あるわ。粒子濃度が周りに比べて特に濃くて、新しい自我でも生まれるんじゃないかって思っていたわ。そのせいか、生物の思念がマジノ粒子を通じて物質に影響しやすいの。環境もあなたがもといたところに似てると思うよ。それに、そのあたりでは以前からおかしなマジノの流れを何度も感じるの。何かが起こっているんだろうとよく観ているの。ここでいろいろ試してみるっていうのはどう?」
「へー、マジノ粒子でいろいろ物質を変えたり、制御したりできるんだね? 面白そうだけど、そんな気軽に行っていいのかな?」
「じゃぁ、あなたが行ったあと様子が気になるから、目印をつけとくね。これで、たぶん探すときに見つけやすくなるはず」
こちらの反応はあまり待たず、そう言いながら、女神マジノは何かをしているようだったが、特に何も変わったところはなさそうだった。
「それから、あなた自身も相当濃縮されているから自力でもできそうだけど、あなたがマジノ粒子を操作するとき、より働きやすくできると思うの。私の見える範囲限定だけどね。私が直接意識した時の1割くらいだけど、うまくサポートできるかもね。この能力をわけてあげるね」
(なるほどー、同じ何かするにしても、強化してもらえるのかな。たしかに、そのほうがより効果がはっきりわかる。どういう原理なのかはわからないけど、くれるというならもらっとくかな。いい限界試験になりそうだ)
「あ、あそこで、意識が途切れた人間がいるわ。あそこにあなたをくっつけてあげるね」
唐突に女神マジノが叫んだ。
(え?くっつける対象が見つかったのかな?そこまで急がないといけないの?でも、ちょっと待って。意識途切れたってどういうこと?なんか、ヤバい状態じゃないの?)
急に事態がかわりそうで、いろいろ気になった瞬間、
「じゃぁ、がんばって試験して、わたしを飽きさせないでねー」
「ま、待って。俺の返事は待たないのか?ちょっと、もうちょっと詳しく説明してよぉぉぉ・・ぉ・・・・」
意識が遠のいていく中で、
「切符は片道。帰りの分はないからねー」
という思念が伝わってきた。