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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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防御魔法の使い方 2

 ニードネンは、ノビターンに報告をしていた。聞いているノビターンは厳しい表情をしている。


「最近、ツメが甘い気がしませんか? さほど難しいこととも思っていませんでしたが」

「おっしゃる通りで、返す言葉もございません」


 ノビターンは先ほどゴスイからも報告を受けていた。


 現在、ネタノ聖教内は大きく二派にわかれている。ニードネン達のいる大陸北側の転生許容派と南側の断固拒否派だ。


 先日の託宣の儀式を通じて、大陸北側の国々のまとまりは確認できた。


 自分たちの意識を他者の意識とすり替える秘術。この転生の秘術を行った同志たちをいくつかの国の首脳に送り込み、実効支配する計画がいよいよ始まろうとしている。それも永遠の支配だ。



 メサルが度々襲われる原因の一つが、その反対派の中核人物たちの一人にメサルの身内がいるからだが、ニードネンは今回そうしたメンバーを懐柔し、やむを得ない場合は邪魔されないように次善の策を手助けする実行部隊を指揮していた。


 反抗者の大半は説得するか、次の旅先である来世に旅立ってもらったが、ゴスイに任せた司祭メサルの件だけが失敗に終わってしまった。

 身内からの懐柔と人質を兼ねた方法で実現性が高いはずだった。


「アサーネが一時期捕縛されたとの情報もありましたが、ゴスイと共に脱出し、こちらに一度帰還するとの連絡がありました」

「秘密が漏れる最悪の事態は避けられましたが、申し訳ありません。引き続き監視します」


 報告を一通り終えると、ニードネンはしばらくノビターンの反応を待つ。

 よい報告ではなかったが、今回の件は主題ではない。そこまで悲観的にならなくてもよいはずだ。


「わかりました。こちらの詳細な情報が漏れていないのであれば良しとしましょう。まぁすべてが満点というわけにはいかないでしょう。私も次の儀式に必要なものを取りに行くため、ダルメーの塔に行く予定があります。あそこは私しか入れないですから、その時に立ち寄ってみましょう」


 ノビターンはニードネンに部屋から下がるように仕草で示すと、椅子に深く腰掛け直した。



 翌朝、指定された実習訓練用服、いわゆる回復魔法の効果のあるスピン服を着込んで、プヨンはメサルと授業に向かった。


「なあ、よく眠れたか? プヨン、俺の目くぼんでないか? 服装は大丈夫かな?」


 メサルは緊張しているのか、鏡を見ながら髪型や服装をやたら気にして触っている。昨日もそのせいか、なかなか眠れなかったらしい。


「この学校は厳しいと聞いていたが、その分卒業すると慣れ合い学校とは違って、実力証明にはうってつけだからな。あー、でも、厳しいのかと思うとそれだけでなかなか眠れなかったんだ」


 メサルは意外にあれこれ考えるタイプなのかもしれない。

 探検疲れからか、腹いっぱいになって風呂に入った後、部屋に戻って気づいたら朝だったプヨンとは大違いだ。

 

 何やらメサルはいろいろ話したかったことがあったらしく、起きてそうそうぶちぶち愚痴られていた。


「だけど、厳しいなりに卒業すると箔がつくんだろ? 王族とかも実力派とかって、あえてそういう学校を選ぶのもいるらしいじゃないか。現に数人いるだろ」


「二ベロ様やヘリオン様のことか? まぁ、環境が恵まれすぎると、そういうのを捨ててみたいとか、自分の真の実力を見てみたいとか、おかしな方向に進んでしまうこともあるんだ。まぁ、まったく同等にはならないが、みんないろいろあるんだろうさ」


 お前もそうじゃないのかという表情をしないよう注意しながら、プヨンはメサルの主張を聞いてやった。


 個人経営のお嬢様お坊ちゃん学校なら、寄付金などで扱いも変わったりすることも多い。


 しかし、この学校では一度学校内に入ってしまうとあまり身分や資金力による差が出ないし、出さないように扱われる。


 きらびやかな学校とは違うが、子供の実力を確認したい一部の保護者では熱烈な愛校者もいるくらいだ。


 武器や防具1つとっても自前で用意させるとピンからキリまで異なってしまうから、それでは本来の実力の比較が難しくなるし、道具に頼りすぎるようになる。

 武器や制服が学校で用意されることも似たような理由からだった。


 もちろん世話をしてくれる人もおらず、高位の貴族や大金持ち出身もそれなりにいるらしいが、基本的に自分のことは自分でする。


 個々の事情はあるにしろ、ここはそういう扱いに納得したものがくることになっていた。



 プヨンとメサルは集合場所についた。


 昨日に比べると、ほとんど視線を感じない。すでにそこまで興味を持たれていないようだ。

 そのあともぽつぽつと人が集まってくる。


 集合場所はごくふつうの砂地の練習場だった。


 そこには教官が男性と女性各1人、生徒側は当たり前だが全員揃っていて、40数人が集まっていた。


 整列しているわけではなく、取り囲むように適当にばらけているが、たいてい同部屋などで固まっている。時間になり軽く点呼が終わった後、教官の1人、担任のハイルン教官が話し出す。


「よーし、皆集まったな。最初の授業は必ず俺だ。なぜなら、俺は防御関係の教官をしているからだ。こっちはお前たちが怪我した時の人間回復薬、ワイセ教官だ」


「回復薬は高級品よー。治療費は無料だけど、ただほど高いものはないのよー。そのうち『取り立て』がありますからね」


 妙に『取り立て』を強調するワイセ教官は、昨日石像であったロイテ教官によく似ていた。

 顔を見た感じでも身内のように見える。


 自己紹介がてら冗談を言ったのだと思うが、目が笑っていない気がする。案外本気なのか、治療費ではなくても、何か手伝わされたりとかはありそうだった。



「なぜ防御が重要かはわかるだろう。簡単だ。いくら攻撃力があっても、相手も攻撃してくるから、それじゃ相打ちだ。次はない。そこで終わりだ」


 当たり前のことではあり、皆だまって聞いている。それを確認しつつ続けて、


「だがめちゃくちゃな威力の攻撃があっても、防御力が完璧であれば生き残れる。つまり次がある。次につなげる、少なくともこれが大事なことは覚えとけ。わかるなー!」


 ハイルンの題して『俺の担当が一番大事』の演説がはじまった。要約すると、死なないように生き残れ、それには俺の防御授業を聞けということを様々な美辞麗句で延々と語り続けていた。


 なぜ防御が大事かは、言われなくてもわかる。威力だけに目がいくようなら、すぐに詰んでしまうだろう。少なくとも反論するものはいなかった。


「そして、その次は回復よー。怪我しても治し続けたら不死身よ」


 回復役のワイセ教官が続ける。外見が上品そうなかわいらしいお姉さんで、声と顔がよくあっている。

 男子生徒はそちらばかり見ているのがよくわかった。


「回復してもらうほうが重要じゃないか?」

「あの胸で癒してもらえるならな」


 誰かわからないが、そんな声も聞こえてきた。


 一通り口上が終わると、生徒側は二人ペアで適当にばらけ、数mほど離れて向かい合って立てと言われた。とりあえずメサルと組む。


「よーし、じゃぁ片方はそのへんから小石を拾え。それを相手に向かって投げるんだ。投げられた方はそれを受け止めろ。最初は手を使ってもいいが、最終的には、手を使わずにやるんだ。その小石は、火球でも大砲の弾でもいい。あたったら死ぬと思え」


 『死ぬと思え』は覚悟のほどを比喩しているが、実際に戦闘をイメージするなら、ハイルンの言ってることはその通りだろう。


 剣の打ち込みにしろ、矢や弾、火球にしろ、防御し損なうことは、そのまま怪我や死につながる。真剣にやらねばならないことだった。


「よーし、プヨンいくぞ」「おぉ、いいよ」


 メサルと加減しながら適当に投げ合う。


 最初は手を使って下投げで山なりにして、それを魔法で手をつかわずに受け止めようとしたがなかなかうまくいかない。


 受け止め時の力や方向の加減がわからず、地面に落としたり弾いてしまい、左右に飛んで行ってしまう。


 それでも、メサルもそれなりの魔法の使い手だからか、数回失敗したころには受け止められていた。



 しばらく経ったが大半はそれなりに投げられた石を受け止められている。しかし、一部貴族で無試験組なのか苦労しているものもいた。


 プヨンとメサルは、徐々に投げ合いの速度もあがり、球技でラリーをするように、お互い手を使わずに石を投げ、受け止め、また投げ合うことができるようになっていた。


 ふつうは物を持ち上げることは小さい頃からしてきている。遊ぶために地面の小石などを使ったり、球技などもあるからだ。慣れたものでは魔法の変化球なども日常で見られる。

 周りの生徒も似たようなもので、よほど勘の悪いもの以外は30分もすればできるようになっていた。


「なぁ、思ったより簡単だが、いつまでやるのかな?」

「さぁな。もうちょっとペース上げるか、2つとかやってもいいぞ」


 メサルとも話をし、お手玉のように個数を2個、3個と増やし始めたころ、別の教官がハイルンにかわった道具と樽を引き渡していた。


「ハイルンさん、『タカオオヤジ』持ってきましたよ。初日からこれですか?」

「あぁ、今年はスジがいいらしい。早速使ってみよう」


 そう言われた道具は、大砲のように見えた。筒が大きな台に取り付けられているが、後ろに鉄のバネのようなものがついていた。


 ハイルン教官は受け取った道具と樽を手でたたきながら、皆に集まるように号令をかけた。


「こいつは、『タカオオヤジ』という道具だ。バネ式の大砲みたいなもんだ。こいつで発射する、この鉄の砲丸を止めたら合格だ」


そう言うと、これからする鍛錬の説明を始めた。


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