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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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脱出の仕方 3

「まぁ、今日は2日目だから仕方ないわね。昨日も4組ほどきたけど、毎年のことだしね」


 1人ごとのようにつぶやき、教官は概要を説明してくれた。


「あそこを見なさい。ほら、今、3人組がやっているでしょう。相手はあの石像よ」


 そう言われて指さされたところを見ると、たしかに3人組が1体の石像と戦っているようだ。


 戦っている3人と同じくらいの背丈の剣士の石像だが、3人も石像も不思議と動きは緩慢としていた。遠目に見ると、まるでじゃれ合っているようだ。


「なぁ、あれ、どうやって動いているんだ?知っているのか?」

「さぁ? そこの先生が動かしているんじゃないの?」


 答えてはくれたが、サラリスもよくわかってないのか、適当に答えたのがよくわかる。テヘへと笑っている。


「そして、出口の南側、門のところにももう一体いるでしょ。あの石像達を振り切って、あの門から出られたらあなたたちの勝ち。明日の朝の点呼に間に合うなら、好きなだけ出て行ってもいいわ」


 そこで少し考え込んだようだが、一応言っておくかくらいで追加があった。さすがに本日4組目だからか、けっこう端折られてそうだ。


「ただどこかに行くにしても、船はないかもしれないけど。それと、負傷は各自で治すこと。ルールはそれだけよ。ただ、入学式から1週間は特別に治療をしてあげるわ。今日の治療当番は、私、ローテが担当よ」


 あらためて石像を見る。


 戦っているのは剣士像で、出口側にいるのは女性像のようだ。


 あの石像達は見覚えがあった。たしか、入学試験の際にターナときたときに見た記憶がある。砂礫をかためたような像で、剣士とサル、女性像が各2体ずつで合計6体いたはずだ。


 残りはどこにいるのだろうとあらためて前庭を見ると、動いている2体のほかに庭の中に動かない4体が突っ立っている。やはり合計6体で間違いがなかった。



 しばらく眺めていると、3人組は引き揚げてきた。

 

 諦めたのか、どうやら戦いは終わったようだ。出迎えるように、教官のローテも3人組のところに歩いていく。

 

 3人は1体の石像を打ち果たせなかったようだが、石像でも手加減ができるのか、3人は怪我らしい怪我はしていなかった。


 少しすると治療されたのか、3人組は笑いながら出て行った。緊張感もなく、悔しそうではあるがそれほど落ち込んではいない。

 それなりの厳しい戦闘を予測していたプヨンはよくわからなくなった。


「一応聞くけど、今のは見たでしょ? どうする? それでもやる?」

「もちろんですよ。まずはやってみないと相手の力もわかりませんから」

「ふふふ、そうね。新入りはそうでないとね」


 戻ってきたローテに念押しをされたが、サラリスもやる気があるのか即答する。


 サラリスの勝つ気満々なところも、教官の勝てるはずがないというところも、どちらも自信がありそうに見える。

 プヨンは教官はまだしもサラリスの根拠がどこからくるのか、興味深く2人を見比べていた。



「ローテ教官、ちょっとお聞きしたいのですが」

「なにかしら?」


 サラリスは次の組の戦闘状況を見入っている。プヨンはサラリスの気分を害さないようローテに小声で聞いて見た。


「石像は破壊してもいいんですか?」


「できるものならかまわないわ。壊れても大地から魔力を吸い上げるらしくて、1時間もすると元通りになるのよ。私もどうなってるか知らないけど、昔の校長が作ったものらしいわ」


「石像は他にも4体ありますが、動くのは2体だけですか?」


「ふふ。観察力はあるわね。そうよ。石像は全部で6体よ。ただ、人間でもベテランになると相手の力量がわかるでしょう。あの石像もそうなのよ」


 先程、庭から出て行った前の組をチラッと見て、


「あの石像達は2体もだせば十分と判断したということね。ちなみに門番と戦闘員の2体は必ず動くわ。これが最低レベルで、昼間に4体以上動くことはめったにないの」


 じゃぁ、教官だと何体動くのですかと聞こうと思ったがやめておいた。


 石像は石だから動きがぎこちないのか、非常にゆっくりと動いている。

 そして、なぜか攻撃側の3人の生徒側も、石像の動きにあわせたようにゆっくりだ。


 怯えて足がすくんでいるのか、それとも何か意図があるのか、ときおり火球や石弾などが飛び交ったりはするが、まともな速度で武器で攻撃するものが誰もいなかった。


 その後はサラリスの集中の邪魔をしないよう、プヨンは庭の様子をぼけっと眺めていた。

 3人組と4人組、2つのグループがいたがどちらも最初のグループと同じで不思議と動きが鈍い。

 石像がゆっくりと近づいていくと、避けもせず、ぼこっと殴られていた。


 結局2グループとも、戦闘時間はそれぞれ5分程度であっさりと終わってしまった。



 そして、プヨンとサラリスの番がきた。


「よし、いくわよ。プヨンはおまけだから、そこにいてくれたらいいわ。まずは私だけでいくから」


 ローテに最後の念押しをされたサラリスだが、元気よく『もちろんです』と返事していた。


「そこの線を越えて向こうにいくと、像が動き出すからね」

「わかりました」


 ローテの合図でサラリスが中央に近づいて行く。待てと言われたプヨンは入口のそば、境界線の手前でサラリスの戦いぶりを見ることにした。


 サラリスは不要な戦いを避けるため、石像のいる中央を無視し出口の門に向かって小走りに走っていくが、線を越えて少し行くと急にスローモーションのように動きがゆっくりになった。

 隠れるところもない平地の真ん中なのに、キョロキョロとまわりを見ながら慎重に進んでいく。


「こらー、サラー、しっかりやれー」

「わかってるわよー」


 必死さは伝わってきたが、サラリスの動きはかわらずゆっくりのままだ。


(みんな何故そんなに慎重になるのだろうか。実戦と言えば実戦だからかもしれないが。へんなの)


 サラリスからは頑張ろうとしている気持ちは伝わってくるが、どうにも動きが鈍い。


 最初はサラリスがさきほどの参加者と同じように慎重になっているのかと思ったが、どうやら様子が違う。1つ1つの動きがやたらゆっくりしているが、どうやらサラリスは必死に動こうとしているようだ。


「す、すごいわ。あの子知り合いなの?1人でいくだけはあるわね。ほらほら、4体も石像が動いているわよ」


(いつのまに。気づかなかったな)


 プヨンは慌てて声のほうを確かめると、いつの間にかローテ教官がすぐ横に立っている。

 やはり教官クラスだと、アデルやルフトのように、ある程度の気配遮断ができるのだろう。一般の剣士に比べたら、かなり腕がたつと思えた。


 周囲を意識していなかったとはいえ、プヨンは近づいてくることに全く気付けなかった。


 ローテはそんな戸惑っているプヨンのことなどまったく気にせず、サラリスのことを誉めそやしていた。 どうやらプヨン達が最後の組だからか、興味本位か情報収集のためか、より近くで見にきたようだ。


 ローテも驚いているのがわかる。予想外の石像4体が動いているからだが、平静を装いつつもいろいろと思うところがあるようだ。ずっと目を離さずサラリスを見ていた。


(以前にも4体動くのを見たことはあるけど、あれはいつだったかしら。一度連合教官チームで勝負したときは5体だったわ。もうちょっとで6体目ってところまではいったはずだったけど、あの時以来かも。でもそうすると、私たち教官チームとあの子一人でいい勝負するかもってこと? まさかね)


 突然、サラリスのそばにいた2体が炎に包まれた。サラリスが何かの魔法を使ったようだ。高温なのか明るい黄色の炎が上がる。

 もちろん石像なのでそうそう燃え尽きない。

 サラリスは炎をまといながら近づいてくる石像に、慌てて逃げ惑っていた。


 せっかくの魔法の効果が台無しと、プヨンは歯痒さを感じていた。


 突然二体が炎に包まれたのを見たローテはかなりはしゃいでいた。

 ローテは新人から教官、果ては時折やってくる腕試しまで、今まで見てきた過去の石像との戦闘を振り返るが、4体と戦っているのを見たことは数えるほどしかない。

 その時ですら数人のグループばかりだった。そして、6体を目指して教官チームで何度も挑戦したが、結局、動かすことはできていなかった。


「がんばって、そこの生徒! 6体目のアササラス像を動かしてみなさいよー」


 ちょっと悔しいからか、無理は承知でローテはサラリスに声をかける。

 ただ、サラリスの動きはそれなりに訓練した無駄のない動きではあるけれど、ローテにもおそらくこれ以上は無理に思えた。


(校長が若い頃は、6体動かしたこともあるらしいけど、どうなんでしょうね。1体目と6体目の女神アササラスとヨルカクスの像が同時に動くところを一度見てみたいけどなぁ。あの子を鍛えて一緒にやれば、もしかしたら・・・)


 今回は難しくても、サラリスの素質に対してこれからの教育に期待ができそうだ。ローテはサラリスの動きに目が離せなかった。


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