表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の使い方教えます  作者: のろろん
191/441

脱出の仕方

 フィナツー、それは月の下側、部屋の窓際に位置していた。各地に配置される接ぎ木を利用したフィナが誇る報連相システム、地中連報群の最前線鉢の名称だ。たったいま、配属された最新鋭接ぎ木の設定が完了した。


ゴソゴソゴソ


 夜明け直前、薄れゆく月光に照らされる中、植木鉢の接ぎ木は11/144スケールの小型フィナに姿を変えていた。定時報告の時間だ。


「フィナツーよりフィナへ。無事、プヨンの部屋に着任いたしました。これより、常時監視体制に入ります」

「了解しました。人には気づかれないように、くれぐれも慎重に見つからないようにしてください」


 フィナツーはフィナの注意にうなづき、次の予定時刻を確認したあと、通話を終了した。




 昨日の失態の数々に、結局プヨンは眠れなかった。見慣れない学校の部屋で天井を眺めていた。


 メサルはいろいろ心労があったのだろう。体が弱いということもあるのか、着いてそうそう倒れこんでしまった。メサルとしてはレアに騙されたとはいえ自分の身内のせいだ。かなり居心地が悪そうだった。


ゴソゴソ


 窓際で何やら音がする。ボソボソと話し声も聞こえていた。


 そっと音を立てずにベッドから出て背後から近づく。小さなフィナが何やら呟いていた。


「これで定時連絡を終わります」


ヒョイ


「なんだこれ?」

「ウヒャー」


 ちょうどフィナツーの連絡が終わったところで、フィナツーはプヨンに見つかり摘ままれてしまった。


 「放してください」

 「うんうん。遠慮なく話してくださいな。どういうことかな?」

 

 ジタバタとあがいているが、もちろん無駄な動きだ。


 結局折れることにして、さっそく機密事項を漏洩するフィナツーによると、フィナはプヨンの動向が気になったこともあって、最新鋭接ぎ木を送り出したらしい。


「なんのために見張るの?」

「作戦目的は極秘事項ですが、重要イベントを見逃さないためと申しておりました。フィナ本体にはくれぐれもご内密にお願いします」

「見張ってもいいけど、手足となって働いてもらうから。ふつうならスパイは捕まると死罪だよ」

「ダブルスパイになれというのですか。うぅぅ、承知いたしました」


 配属先着任1分で索敵にひっかかり、鹵獲ろかくされたフィナツーだった。




 翌朝、まわりが起きる前から呼び出されていた。


 ろくに朝食も食べないまま、メサルと共に校長室にいきもう一度絞られ、今さっきようやく解放され、これからあらためて教室に向かうところだった。


 過去、経験がないほど体が重く感じる。

 もちろん、この重さは体を軽くする系の魔法では対応できなかった。


 メサルはプヨン以上に死にそうな顔をしているが、それも無理もないことだろう。


「過去、入学式をさぼった生徒はおりません」


(そうなんですね、2、3人はいるかと期待していました)


 心の声で反論してみるが虚しいだけで、なんの効果も得られない。

 プヨンはほんとにゼロなのかかなり疑問があったが、普段ならともかく初日というのはそうそうないのは間違いないと思われた。


 校長のエルネルングは豪快に笑い飛ばすだけだったが、風紀担当のイミュニ教官にはたっぷりと絞られた。

 そして、今から向かう教室には、すでに1日たってある程度親しくなっているであろうクラスメートが待ち受けている。

 遅れた新入りとして送致される刑が執行されることになっていた。


 教室に着くとプヨン達は担任のハイルン教官に引き渡され、そのまま一緒に教室に入る。


 すでに集まっている40人ほどのクラスメートの視線が一斉に集まるのが痛かった。


 もちろんメサルシールドを多用し、上手に視線をかわすことに専念するプヨン。


 メサルの方が高名だから多少はマシなのを期待したが、動きに無駄が多くかえって目立ってしまうようだ。あまり効果はなかった。

 ここまでくるとメサル自身も悟りをひらいたようだ。過ぎたこととしてあまり気にしていないようだ。


 まぁ当たり前だ。

 初日は全員そろうはずが2人いない。何があったのだろうと、皆興味を持っているはずだ。いろいろまわりに聞いたりもしたのだろう。


「こいつらが今話題の2人だ。皆はもう名前は知っているだろうが、姿かたちを見るのは初めてだろう。あらためてこいつらの自己紹介はいらないだろうが、もっと詳しく知りたい奴は個別に話しかけて、是非仲良くなってあげてくれ」


 そして、プヨン達の方に振り返り、


「お前ら2人は人気者だからすぐに打ち解けられるだろうさ。武勇伝を語るがいい」


 と、2人が安心できるよう優しいお言葉をかけてくれた。 



 とりあえずハイルン教官の紹介が終わる。

 皆の目を見るだけでもだいたいわかるが、どうやら昨日散々噂になっていたのだろう。


 もう、おバカの見本として今更何も言わなくても十分周知されているようだった。


 皆、なんとなくこっちを見ないようにしていたが、唯一サラリスと目があった。サラリスは自分で選んのだろう、紅いシャツとキュロットスタイルの制服でこちらを見ながら、


 「お・ば・か」


 口を動かすだけだったが、精神伝達効果があるのだろう。よほど強く念じたのかまるで1語1語がはっきりと聞こえるように伝わってくる。おばかゲージが振り切れそうなくらいバカにされているのもわかった。


 

 あらためて教室を見渡すと、中央に丸い教壇がありそれを取り囲むように6,7人の机の島が6つあった。座学だけでなく、ちょっとした実演などをいろいろな角度から見やすくするようなレイアウトになっているのだろう。


 そして、プヨンとメサルはその中央に立たされているため、いろいろな角度から見やすくなっていた。



 席はどこでもいいと言われたので、とりあえず空いている席につく。


 教室内はなんとなく雰囲気で、すでにグループがいくつかできているのがわかった。


 一応同じ制服を着ているが、出身は平民から高位の貴族や富豪までいるはずだ。以前、王子が同級生としているという話も聞いていたが、あそこが貴族グループか。こっちはユコナ達がいるから下級貴族とかかな。

 あの辺にいるのは、試験のとき顔をみたような気がするから一般グループだろうか。一般にはターナやマウラーなどがいるのもわかった。


 別段恥ずかしいとはあまり思わなかったが、それでも注目される緊張のせいかプヨンはふわふわとした感覚で、何があったかはあまり記憶に残らないまま時間だけが過ぎていった。



「よし、昨日に続いて、今日も進め方を説明するぞ」


 席に着き一段落すると、担任の仕切り直しがあり、授業の進め方、学校内の案内、授業以外の寮の生活や学校内のルール、その他にも雑多なことについて説明が続く。

 事前に冊子で配布されていた資料をなぞるようで、目新しいことはない。


 もちろん、プヨンは集中して聞いていた。レアにはめられて日付を間違えたことに対して、どうお礼をすべきかを考え続けていたため、肝心の説明は一切記憶には残らないくらいの集中だ。お礼案が10案くらい作れた頃には、そろそろ話も終わりに近づいていた。


「それから、ちょっと予定が変わったことがある。最近、国境地帯で小競り合いが続いていることは知っているだろう」


 教官が急に冊子を閉じ、注目を集めるように話し方がかわる。どうやら、校外の情勢の影響で一部方針が変わるようだ。プヨンも、説明のほうに注目する。


「当面、大規模な戦闘はないと予測されているが、それでも国境付近の警備レベルを上げざるを得ない。だからといって、国内に余剰の戦力はない。そのため、国境警備の後方支援が必要になっている。そこでだ、お前たちも未熟な一般生徒ではあるが、国の防衛組織の末端に属している。卒業年に行われる現地実習を前倒しし、今年は、3、4年生が現地の後方支援実習をすることになった。昨日までいた生徒の大半はいなくなっているからな」


 ハイルン教官の説明が続く。


 直接最前線にはいかないが実際の実地訓練を兼ね、後方支援として参加して研究課題と改善報告書をまとめる最終年度の課題がある。それを前倒しで実施することになったと思われた。


 いきなりドンパチやるような最前線では危険ではあるが、後方支援であればリスクは少なく緊張感と実戦を経験するいい機会と判断されたのだろう。


 そうした意義とごっそりいなくなった上級生についての説明が続き、最後に、


「よーし、授業は明日からだ。初日は、俺の防御講座だから忘れるなよ」


 そこで、ハイルンは、はっと思い出したようにプヨンとメサルを振り返り、


「そうそう、お前ら2人に言っておくことがあった。昨日は、選択授業の登録があったんだ。自分の興味のある授業を選ぶんだが・・・」


 ハイルンはプヨン達を見ながら、ニヤッと笑う。


「登録が昨日だったんだが、初日にこないやつは過去に例がない。だが、お前たちが受けたい授業を受けられないのもかわいそうだ。仕方がないので全部登録しておいてやったからな。ちゃんと出ろよ。単位が取れないと留年だからな」


「は?」


 メサルは一瞬困惑した後、意味を理解し恐れおののいていた。


「全部ってどのくらいあるんですか?」


 聞いて見るが、答えを聞かなくても上限はわかっている。少なくともまわりの生徒よりは受講数が相当多いはずだ。何より苦手科目も全部受けることになる。


「か、神のご加護が・・・ない」


 メサルはそう言うのが精いっぱいだ。


 プヨンはそんな泣きだしそうなメサルを他人事のように見ている。

 何となく自分のことではないようで現実味がないように感じているが、怖いもの知らずなだけなのかもしれない。


「いずれ身に降りかかるかも知れないが、その時考えよう、メサル。もしかしたら楽しいかもよ」


 能天気に話すプヨンを苦笑いで見るメサル。



 もちろん、教官はメサルの声など聞こえないふりをして、さっさと教室から出て行ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ