回復魔法の使い方3
大変悲しいお知らせがあります。男女7歳にして風呂を同じにせず。メイサから通告がありました。
「もう、プヨンとはお風呂に一緒に入れません」
今日から男性用お風呂になりました。
そんな7歳になってしばらくたったある日の朝、いつも通り起きた後、日課の瓶詰め礼拝をしいつものように小瓶に回復のお祈りを捧げた。
お祈りといっても厳かな雰囲気はまったくなく、エネルギーの蓄積を型どおりこなしただけだ。
この小瓶の水はミメモム草という草を煮詰めて、その煮汁を入れておくらしい。
水が綺麗ならわりとどこにでも生えている草だが、これに祈りを捧げる、おそらく回復を念じることで、ある程度のエネルギーを貯めておき、受傷時に患部に振りかけることで治癒する効果がある。
プヨンが作るものはどの程度効果があるか保証のないジャンク品だが、破格値のため需要はあった。
一通り終わって救護所に行くと、またアデルがきていた。部屋にある椅子に座っている。アデルはプヨンを見かけるといつものように声をかけてきた。かなり陽気だ。
「プヨンかー、何してるんだー」
「アデル、また、怪我したの?特に何もしてないよ。薬づくりの練習をしてたんだ」
「おー、あの薬か? 前にもらったやつは、効果あったぞ。プヨン、なかなかやるな」
練習で作った試作薬はたまにサンプル配布して効果を確認する。前にアデルにもあげたことがあったけど、多少の回復効果があったらしい。
体を直接治すのとはまた違うんだろうが、貯まったエネルギーと自身の治癒力で、カラダを元の状態に戻すという効果がある。それはプヨン製でも多少はできるようだった。
(へー、俺のでも気づく程度の効果はあるんだな)
不思議ではあったけど、プヨンにもシスター達ができていることができることがわかる。日々確認できる成果が嬉しかった。
「アデルは、今日はどんな怪我したの?」
「おいおい。そんな言い方じゃいつも怪我してるみたいじゃないか」
笑いながら文句を言うが、実際ちょくちょく怪我をしている。致命傷を受けないように怪我をするのが技術だそうだ。
「ちょっと火傷したんだ。盗賊退治にいったんだが、相手がそこそこの魔法が使えてな。一発もらってしまったんだ」
そう言いながら左腕を見せてくれた。肘から手のひらあたりまでが、熱湯でもかぶったかのように赤くただれていて痛そうだ。
アデルは剣士だ。飛び道具のような魔法使いが相手だと分が悪いんだろう。こちらが魔法が使えて喜んでいると、相手も当然使ってくる。戦いになるとやっかいだ。
「そうか。魔法って戦いにも使えるんだね。痛い?」
「いてぇーよ、あたりまえだろ。ただ痛みを抑えることは訓練でできる。ただ、だいぶましにはなったけど、よくなってるわけじゃない」
「まぁ、痛いよね。当たり前だよね」
言われたことはごく当たり前のことだ。思わず笑いそうになったが、まじめな顔をして続けて聞く。聞くことで学ぶことも多い。
「魔法の攻撃って防いだりできないの?」
「魔法を防ぐか? まぁ、できなくはないよ。弓矢とそんなかわらんしな。炎や氷が勢いよく飛んでくるのをよけたり、剣や盾で叩き落せばいい。やっかいなのは形のないものだ。熱や風を防ぐのは難しいんだよな」
「そういうのはどうするの?」
「知らんな。カウンターアクトとか、オフセットとか言うらしいが」
「それはしなかったの?」
「まぁ、魔法使い同士なら組み合わせとかで防ぐこともできるらしいが、俺は剣士!」
剣士に力が入る。
「俺と向かい合うのは死を意味する。コロナーの呼び名は伊達じゃないのだ。そんな面倒なことはしないで突撃だ! 今回はくらった魔法がなかなかの広範囲で防ぎきれんかったんだ」
「完全には防げないってことかぁ」
魔法がそんなにうまく使えないので、とっさに相殺方法を思いつかないのだろう。使えても間に合わないというのもありそうだ。
魔法で魔法攻撃を防ぐのは力比べに近そうだ。武器を使ってある魔法を防ぐのは散らしたり壁で防ぐようなものか。深く考えたことがなかったけど、打つ手なしで防御不可ってのはなさそうに思える。
そう考えていて、ふと思い出した。
「そういえば、最近軽い傷なら回復できるようになったんだよ」
「プヨンがかぁ? ほんとかよ。悪化させるんじゃないのか。ははっ」
アデルに笑われ、ちょっとムキになって反論する。
「ほんとだって、見せてあげようか?」
「はははっ、しかしなぁ、治療は悪化する場合もあるんだぞ。そう言うならやってみろよ。失敗したらあとでメイサに『無料』で治療してもらえるからな」
プヨンが失敗してもしなくても無料にできるとふんだようだ。
「いいよー。この火傷でいいのかい?」
そう言いながら、もう一度やけど部分を見せてもらった。水脹れが痛々しい。
「あぁ、好きに治してみなよ」
アデルはやれるもんならやってみろと言わんばかりに腕をつきだした。
まず腕をざっと見た。火傷の部分とそうでない正常な皮膚の部分を確認する。
傷ついた皮膚を丁寧に診る。正常な部分の厚みを薄くして面積を増やすイメージだ。
皮膚の下の組織も同様だ。正常な部分を削って移動させていく。実際に移動させるわけではなく、材料を一度ばらして違う位置で組み立てていく要領だ
エネルギーのやりとりのせいか、自分の指の周りがぼーっと光っているような気もするが、指周りを中心に皮膚が入れ替わり、ゆっくりと治っていった。
「おぉ……ほんとかよ」
アデルはほうけたように様子を見ている。
作業を続けながら、見せつけるようににやにやしてやった。おおよそ5分くらいでほぼ完治させられた。
「どう?やるでしょ」
「も、もう終わったのか。まだ5分とたってないだろ。信じられんが……」
「うーん、まぁでもこれは治療というより複製してるだけからなぁ。一回コツがわかれば、あとは練習してればいけるよ。そのかわり強度はないから、無理すると破れるよ」
アデルはプヨンの説明には興味を示さず、ぼーっと自分の腕を見て、時折まさかなとつぶやいている。
「あ、いてっ」
「あ、強くないって言ったでしょ。引っ掻いたりすると破れるよ。自分でやったんだから手直しはしないよ」
だが基本は治療に見えるはずだ。別にメイサにだって治してもらうくせに、そんなに不思議かと思う。
ただこの方法は治った皮膚の分は確実に違う場所を削っている。治せる広さには限界もあるはずだ。
全身火傷レベルになると正常部位がほとんど残っていない。こんな場合の治療はどうするんだろうか。そんなことを考えていた。




