保管魔法の使い方 4
その後場所を移して庭に出る。人気が少なく、安全な場所に移動した。サラリスはいろいろなものの出し入れを実演してくれる。
プヨンもお返しと見せてあげるがどうも見劣りしてしまった。
サラリスは入れられる量が、ストレージの使い手として平均クラスになったらしい。
あれから何度も、ストレージに入れられる限界量を試す試験、通称、多産の石試験を受けていたらしい。
限界まで石を入れ、どこまで安全に取り出せるかを確認する、それが一定水準を超えたということだ。
「ほら、見てよ。じゃーん。レスルの登録証にもストレージの刻印を入れたのよ」
能力を誰にでも教えるおバカはいない。
サラリスは身内にしか自慢できないアイテム、レスル登録証を出して見せてくれた。
レスルの基準では、極秘書類運搬ができる量が目安だったはずだ。腰につける小さなカバン1つ程度が入るようになったらしい。
「薬品瓶なら5個程度が限界かな。だいたい護身用の鉄剣1本、食事2回分を入れるといっぱいなのよね。もうちょっと入れたいんだけどなぁ」
サラリスはそう言いながらも、かなり出し入れについては慣れているようだ。
特に剣の出し入れ1回が1秒とかからず、スッスッと、指を少し動かすだけでできることを見せてくれる。
武器が直前まで何かわからないメリットはかなり大きいはずだ。
「ほーら。サクッってやっちゃうわよ。避けれないでしょ」
「うんうん。予測してないと避けられないな」
サラリスが目の前で剣を出してくれるが、予想していないとあっさりと暗殺されてしまいそうだ。
身分の高い人の前で手のひらを向けると害意ありとみなされることがあるが、そうした行為が禁止されている理由がわかる気がした。
サラリスの動きも滑らかで自然だ。ただ腕を曲げ、そして手を突き出して伸ばしていると、剣を握っている。まるで手のひらに出し入れ口があるかのようだった。
たまに握り損ねて剣がすっ飛んでいくのも、予測できない動きとしてポイントが高かった。敵に武器を渡しかねないが。
プヨンはストレージに量はかなり入れられたが、出し入れは人並み以下だった。
一般に入れられる量に反比例して、出し入れの時間、シーキングタイムは遅くなる。
今まで出し入れを短くするという発想がなく、練習したことがなかったが、これも練習しようと思った。
その後はサラリスとはレスルで食事しながら、今度の学校生活に向けた雑談をした。お互い必要な準備は終わっている。
「プヨンは、気づいてない?実は今日は制服の練習してるのよ。これよ。思ったほど重くはないけど、やっぱり布と違ってサラサラ感がないなぁ」
そう言われて理解した。たしかにサラリスは先日採寸した学校の制服を着ていた。
一見すると茶色いキュロットタイプのズボンに深紅のYシャツを着ている。服自体のサイズはゆったり目ではあるが、服自体の重みがあるからか、ずっしりと体に張り付いているように見えた。
「これ、魔法の耐性をあげるため細い針金で編まれているんだけどね。やっぱり重いし、引っかかるわ」
マジノ粒子が通りにくい耐魔法金属であるミグネシウム合金の金属繊維だ。スピン服などの回復系下着とセットで使い、下着の上に着る鎖帷子のようなものだった。
「ほらほら。わたし、炎を出すのが得意でしょ。服の色は紅にしたのよ。イメージを高めると意志が強化され、威力があがったりもするのよ。これに屋外行動や実武器を使用する訓練時は、腕とか足とか肌の露出部分に、さらに革の小手や脚絆を装備するらしいわ」
「なるほどなぁー、俺はこないだ頭に藤色の花が浮かんだんで薄藤色にしたよ。理由は何となく好きなだけなんだけど、今着ているパンツァー服もちょうどそんな色になっていて、この色を気に入っていたからなんだ」
色が変わると、倍以上やる気と威力が変わる。やっぱり直観も大事なんだろうなと色を決めたときも思った。
その他にもいろいろなことを話した。サラリスは寮の部屋に持ち込めない荷物を、いかにして持ち込むかに注力しているようだ。
このあたりは、サラリス達と言えどプヨン達と扱いは同じ。わずかな私物以外は、大して持ち込めていなかった。一部送り返されたらしい。
そして、サラリスが何度も気にしている学校の出入りも、かなり制約があるらしい。厳密には禁止ではないが、実力不足はそう簡単には出られないようだ。教師陣の一部を除き、出入り自由とされている日以外は原則出入り禁止の噂は本当のようだった。
自由な校外活動とやらは、サラリスもどうやら諦めつつあるようだ。実際に皆、脱出を目指すらしいが、ほぼ成功者はいないと教えてくれた。
しばらくはレスルにくる頻度も下がるだろうと思っていたサラリスが、最後の食べ納めを提案してきた。2人の定番レスルおやつ、栗を主体にしたクリリンケーキの食べ納めの儀式がおわったころ、
「じゃぁね。私とユコナは、明後日にもここユトリナを離れるの。来週から学校が始まったら、現地で会いましょう」
そう言うと、サラリスは他の用事があると、レスルから出て行った。




