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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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好意魔法の使い方 3

 プヨンとユコナは、走るフィナについていく。

 

 少し開けたところに出ると、予測した通り木々が燃えているのが見えた。さっき見えていた空に立ち上る灰色の筋は、木が燃えている煙だったようだ。


 まだそこまで燃え広がってはいないが、どうやら山火事のようだ。


 フィナは足元が震えていた。もちろん、プヨンも火を怖いとは感じるが、草木にすると本能的にもっと恐怖なのだろうか。

 ふつうは自由に動けない分、逃げられないということもあるのだろう。


 しばし固まっていたフィナだったが、なんとか火を消そうとしはじめた。


「フルヒューミッド・・・プヨン、手伝って」


 そういうと、フィナはあたりの木々にも働きかけ、樹木特有の蒸散作用で、あたりの空気の湿度を急激にあげていく。


 周りに霧がでてきた。


 まもなく目に見える範囲はすべて霧に覆われ、視界が悪くなったが、ただ空気がしめっぽくなるだけでは限界がある。

 霧越しに遠くで朧げに見えている炎は、たいして火勢が弱くなったようにも思えなかった。


 プヨンはどうするか考えていた。


 広範囲が燃えているとはいっても、せいぜい100m程度だ。完全消火ができる方法はいくつか思いつく。


 必要なエネルギーの計算から、プヨンにはおそらくできるだろうという自信はあるが、同時にまわりにあたえる影響が大きいこともわかる。


 その点で、どうするか躊躇ってしまっていた。


 そうこうするうち、


「わたしがやるわ。コンデンス」


 フィナが魔法で湿度100%状態にしたため、周りの空気は水分を多分に含んでいる。

 ユコナがそれを利用し、地面からの水分も加えて、霧を雨に変えて降らせた。


 霧が晴れるにつれ視界が開け、再び遠くまで見えるようになる。

 すぐ目の前はユコナが降らせている豪雨だが、その向こうを見ると快晴で空も青空だった。不思議な光景だった。


「あぁ! ユコナさん、やるわね。連携魔法ね」

「そうです。パイプライン魔法ですよ。わたし、こういうのは得意なんです」


 複数人数で連携して魔法を使う、パイプライン魔法だ。

 降り出した雨を見て、フィナが大喜びしている。


 以前、ユコナが、よく使える人でも魔法の到達距離はせいぜい100mくらいが限界だと言っていた。

 だが、今、目に見えている滝のような雨の範囲は200m程度は降っていそうだ。


(これだけの水量を霧から液体化するには、火球にしたら数万発か、あるいはそれ以上か。ユコナは以前からこんなに強力な威力が出せたのだろうか)


 プヨンはつい癖でユコナの使った魔力量を計算してしまう。


ザザザーー


 激しい雨音の中、フィナが大喜びしているが、しかし、瞬間的な雨だけでは、多少は火が弱まった程度で消えるには足りないようだ。

 10秒もすると、空中の水分を使い果たしたのか、雨も降り終わってしまった。


 当然だが、自然変化を人の魔法エネルギーで賄うのは難しい。魔力のせいもあるのか、絶対的な水量が足りていなかった。


「プヨン、何か手はないの?」


 藁にもすがるような目つきで、フィナが聞いてくる。自然なのか故意なのか、先ほどのユコナの教えを忠実に守っているようだが、それを笑っている余裕はなかった。


「ないわけじゃないけど、でも、副作用があって・・・生き物にも影響がでるかも」

「このままじゃ、みんな焼け死んでしまうから。やっちゃって」

「わかった。じゃぁ、ちょっと息を止めて、風で飛ばされないように気を付けてね」


 そういうと、プヨンはいつもの窒素雨、ナイトロレインを使うことにした。

 

 窒素は空中に大量にあるから、材料には困らない。ただ、冷やせばいいだけだ。もちろん自分たちに液体窒素の雨がかからないよう、十分に距離を取る。


「デルカタイマイステン」


ビュォォ――


プヨンは、火元の上空の窒素を液体化する。液体になって体積が減ったため、そこに向かって周り中の空気が吹き込んでいく。

 さすがにプヨン達は吹き飛ばされないが、まわりの落ち葉や木の枝が空中に向かって舞い上がり、かわりに液体となった窒素と吹き込む空気が混じり、暴風雨のように降り注いだ。


 降り注いで再び気化する窒素が白煙を上げ、さらに空中の酸素が気化した窒素に追いやられたことで、火は一瞬で小さくなる。どうやらうまくいったようだ。


 その後も量は減ったが窒素雨が降り続き、止むまで30秒ほどかかった。

 幸い、雨が降るあたりに向かって空気が吹き込んでいたため、プヨン達が呼吸に困ることはなかったが。


「消えたと思うけど、まだ、大気が安定していないから、近寄らないほうがいいかも」

「う・・・うん」


 フィナは、喜びと驚きの混ざったまなざしを向けている。火の気がなくなったことはわかるようで、ほっとしていることが伝わってくる。


 

 数秒かたまっていたユコナとフィナが、落ち着いた頃合いを見て、先に進もうと促した。



「濡れない雨。時間も私の3倍は降っていたよね・・・尋問がいるわ」


 ユコナは1人で何かをぶつぶつと呟いていた。



 再び3人は歩き出した。


 しばらく歩くと、やがて、大きな、ほんとうに大きな枝葉の木の前につく。近くと、視界の全てが奪われるように感じる。


「おぉ、すごいな」


 プヨンは思わず声が出てしまった。


 なんというか、とてつもない存在感を感じる。


 フィナに言われるまでもなく、一目でこの森の主だろうとわかるくらいで、ユコナも木の上の方を見上げ、見とれている。

 枝先から幹までも、たっぷり50m程度はありそうだ。


「同族のモアナルアです。モアナルアは今の言葉を話せないので、わたしが通訳します。ようこそと申しています」


 フィナは大きな木の前に立ち、しばらく前を見ていたが、やがてプヨン達に話しかけてきた。


「はじめまして」「はじめまして」


 プヨンもユコナも、はるか頭上に見えている木の先を見ながら、どもりながらの挨拶をした。口に出せば伝わるのかはよくわからない。


 挨拶が一段落したプヨンは、運んできた木箱をフィナに見せて引き渡した。これで自由の身となれた。


「モアナルアは、最近、体調が思わしくないのです。それで肥料など、いろいろ持参したんですよ。もう今は自分の体重を支えるので精いっぱいで、動き回ることもできなくなってしまったのです」

「枝ぶりからしたら、とても弱っているとは見えないけれど、そうなのかぁ」


 どう考えても弱っているようには見えない。フィナが言うには、ここに根を張ってから3万年ほど経つそうだ。

 

 若木のうちは、まだ軽いからなんとか動けるらしいが、大きくなるにつれ、徐々に根をはることになるらしい。そして神木として生きていくららしい。


 いろいろと説明を聞きながら、プヨンとユコナは、運んできた肥料を、このあたりいったいにばらまいていった。


(フィナもいずれ重くなったら動けなくなるということか)


 フィナが重さを気にするかはわからないが、つい、何度も顔を見ながらそんなことを考えてしまう。

 悪いプヨンだったが、それはずっと先のことだった。


「今後、学校に行くことになったら、このあたりはよく通ることになるのかなぁ。やっぱりご挨拶しておいてよかったのかしら?」

「そうなんかなぁ。まぁ、この木を見たら、素通りはできないよね」


 ユコナともそんな話をした。森からもすんなり出られない理由がわかったようにも思う。ただの森ではないのだろう。


 無事に一仕事終え、再び木の前に戻る。作業が終わったことをフィナがモアナルアに伝えていた。


「さっきの火事の件も伝えましたよ。大変感謝しておりました」

「これからも、このあたりはよく通るので、よろしくお伝えください」


 ユコナが、一礼して返事をする。プヨンもユコナにあわせて挨拶しておいた。


(じゃぁ、そろそろここを立ち去るのかな? 俺たちはこのまま学校の方に抜ければいいんだろうけど、フィナはどうするんだろう)


 などと考えていると、


「最後に、モアナルアが、挨拶をしたいと言っています。私が、人を連れてくるのが久しぶりなので、興味を持ったようです」

「そうなの?前にも連れてきたことがあるの?」

「何人かあります。前回は、200年ほど前ですよ」

「へ?へぇ・・・久しぶりだと200年か・・・」


 プヨンが時間感覚の違いに思わず驚いていると、フィナが続けて、


「では、ちょっと身構えてください。心が飛ばされないように」

「え?」


 フィナも何やら意識を集中して身構えているようだ。とりあえず、言われたように身構えるが、どうすればいいのかよくわからない。

 目的がわからず、ユコナと見つめ合う。


そのとき、


ビュウーーー


 心にすさまじい突風を感じた。かなりの威圧を感じる。


 しかし、まわりを見ても、草木すらなびいていない。そう、心臓だけが飛ばされそうな、そんな感覚におちいる風だった。


『自分の心をしっかり保って』の意味がわかり、しっかりと自分を意識すると、すぐに慣れてしまったのか、踏ん張り方がわかる。

 長く感じたが10秒か15秒。そして、風が止んだ。


「あ、う・・・」


 プヨンはしばらく強風の中で立っていた程度の感覚だったが、ユコナは完全に膝にきていた。一気に疲労したように見える。

 それでも、意識はまだはっきりしているようで、なんとか必死にへたり込まないように耐えているようだった。


「すごい、すごい。ユコナさんも、プヨンも。意識を失わないで立っていられたのは、お二人が初めてですよ。モアナルアも驚いていました。今後も遠慮なく、ここを通ってくれと言っています。肥料を置いていくなら、なおよいとのこと」


 フィナが言うには、ここを通るには一定の試練があるそうだ。無事、プヨンとユコナは認められたということらしかった。


 肥料をもってこいというのが、神木らしからぬような気がして、なんとなく親近感を感じてしまった。


 もう一度挨拶をして、3人は森を立ち去り、本来の目的であった学校に向かうことにした。


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