能力の授け方?
次の日の朝もいつも通りに起きた。
午前中はいつも通りお祈りや治療の見学だ。その後は特に誰ともつるまず、教会裏でぼーっとしつつ時々魔法で遊ぶ。
今日は氷と炎を作ってはぶつけて消す練習だ。もともと氷を作るときに水から熱を奪っているので、炎の球を作るのは同じ熱量であれば熱を右から左に移すだけ。やることがわかっていれば簡単だ。
水では面白くないので、今日は左手で作ったドライアイスに右手で作った炎をぶつけて消す。炭素と酸素をうまく混ぜて燃やせば火力アップも簡単だ。1㎝角くらいの小さいサイコロ状のドライアイスを作っては溶かして遊ぶ。慣れてくると3連射くらいは余裕になった。
それもある程度なれて飽きてきた頃、昨日会ったサラリスとユコナが2人そろってやってきた。プヨンを見つけると近寄ってくる。
(昨日の2人だけど、どうかしたのかな?)
そう思っていると、ユコナが話しかけてきた。
「こんにちは、プヨンさん、こちらにいたのですね、お会いしたかったです」
「へー。一目ぼれってやつですか?で、どちらが・・・?」
適当に返すと、サラリスがそっこーで、
「あほなの?絶対ちがうし」
まぁそうだよねと言葉には出さないが納得する。
「お忙しいですか?何かされていたのでは?」
ユコナも思いっきりはぐらかしながら、続けて聞いてきた。
「い、いや、と、特には何も・・・ちょっと魔法つかって遊んでいただけで・・・」
相手にされず、恥ずかしくて、ちょっと顔が赤くなりながら、返事した。
「練習って何してたのよ」
そうサラリスが聞いてきた。疑問に思ったことはすぐに口にするようだ。
「いや、氷を融かして遊んでいただけで・・・気にしないで」
まぁ大した練習というほどの練習でもないし適当に言ったつもりが、サラリスはかえって興味をもったようだ。
「氷を融かすって・・・、どうやってよ」
サラリスがさらに聞いてきたが、くどくど説明するより見せるほうが楽だ。
「こういうやつだよ」
右手と左手の人差し指を突き合わせ、左からドライアイス右から炎を出す。真ん中でドライアイスが熱で昇華して消えるのを3連射で見せてやった。
「も、もしかして・・・・、ダブル? あんたいったい何したのよ」
サラリスは語気を強めつつ、まさかという顔をしていた。ユコナがそれを見て、
「そ、それも含めて、実は、プヨンさんに聞きたいことがありまして・・・」
と何やらためらいながらも切りだしてきた。
要約すると、昨日帰宅して逃げ出したことを一通り怒られたあと、部屋に戻って寝た。ここまでは普段通りだったらしい。
そして今日の早朝目が覚めた。まだ薄暗かったので部屋に明かりをつけるため、壁際にあった燭台に魔法で小さな火を飛ばした。
いつもと同じように火魔法を使ったところ、なぜか両手でかかえるくらいの大きさの火球があらわれ、部屋のカーテンに火がついてしまった。幸い、一部が焦げただけらしい
「魔法習ってるのに、火力の制御ができんかったっていうこと?ぷぷぷっ」
サラリスを見つつ、にやにやしながら追い打ちをかける。サラリスは反論しようがないからかムッとしつつも、不機嫌な顔で答えてくれた。
「いつもどおりやったはずよ。特におかしなところもなかったはずなのに。わけがわかんないのよ」
「まぁ、起こってしまったことは仕方ないよ。怪我も特になさそうだし不幸中の幸いだったな」
と一応フォローはしておいた。
(でも、魔法で怪我は治せるけど、魔法で火事をもとに戻すとかはできないんだな)
そう考える。まぁ治療はもとに戻すというよりは、再生機能の強化促進だと理解しているから当たり前とも思える。
「へー、なるほどね。で、それが何か?」
聞き返すとかわってユコナが質問する。
「実は、私にもありまして・・・、朝、顔を洗おうと水を出すと、その・・・、かなりの水が出てしまいまして、部屋を水浸しに・・・・」
「そのあと、魔法の授業もあったけど、効果が全然違うのよ。先生にも急にできるようになったりで褒められたというか驚かれたんだけど、なんか、今までと違うのよ。プヨン、心当たりないの?」
サラリスがお前が絡んでるんじゃないのかという勢いで聞いてくる。
「ま、まったく、心あたりはありませんが・・・・」
当然だ。他人が使った魔法効果の変化など、そう言われてもどうしようもない。すると、サラリスがちょっと考え込みながらも疑問をぶつけてきた。
「あまりにおかしいから、ユコナとも話をしたのよ。そうは言っても2人とも原因に思い当たることなんかないでしょ。『不思議ね』で終わるところで思い出したのよ。昨日、能力ちょうだいって私がいったら、あんたが私らにあげるって言ったことを」
「えっ・・・・、俺、そんなこと言ったっけ?」
あまりに唐突すぎて言い返すが、ユコナがそれを否定する。
「私も覚えています。私にはたくさんあげるとかなんとかも……」
「ふつうに考えてできるわけないやろー。どうやるんだよ」
「わかってるわよ、私たちも『ありえない』って思ってるけど、一応聞きにきただけ」
サラリスがだめもとで聞いたと言ってきたが、ユコナはさすがにちょっと失礼とでも思ったのか、一応フォローされた。
「でもプヨンさんは魔法が得意そうですし、普通じゃないですし、その、今も普通に2つ同時に使ってましたし。その……何ていえばいいのか、特別な何かこつがあるのかと」
ちょっとは信じてる感を出している。あまりに突拍子のない推理にちょっと呆れてしまうが、あまりに真剣に言うのでここは少しいたずらをしてやろうと思った。
「そうか、ばれてしまったら仕方がない、実は、俺は天から力を授けられたのだ。だから、その一部を、君らに分けてあげたのだ…」
嘘っぽさ全開だが、そう言ってやった。サラリスは、さすがに信じられないという顔をしている。
「そ、そんな。絶対ないって思ってたのに・・・信じられない」
ということは、ちょっとは信じているらしく、えっと驚いた。そうなると、ここは退けないところだ。
「嘘だと思うなら、メイサとかに聞いてみたらいいよ」
真面目な顔をしつつ、そう言ってやった。もちろん心の中では爆笑している。そうしたところサラリスは、
「ほ、ほんとなの。そんなばかな・・・信じられない。でも、いってみる」
サラリスはユコナに目配せをして、急いで立ち去ってしまった。
「えっ・・・、ちょっと・・・待って・・・・」
冗談を言ったつもりが、予想外の反応にプヨンは焦りが出る。まぁ彼女達がメイサに聞いたところで『そんなわけないでしょ』で終わるしいいかと軽く考えていた。
プヨンの返事を受け、即座にサラリスとユコナはメイサを探しにいった、見つけると同時に尋ねている。
「すいません、メイサ様、プヨン様のことで、お聞きしたいことがあるのですが」
「これは、サラリス様とユコナ様、いらしてたのですか?何かあったのでしょうか?」
メイサは話しかけられて2人に気づき、丁寧な口調で対応した。
「実は、プヨン様のことで、少し気になっていることがあるのですが、出自とかで神にかかわっているとか、そんなことがあったりしますか?」
「えっ、かみにですか?」
唐突な質問でメイサも咄嗟に質問の意図を理解できず聞き返す。質問の内容を理解すると、プヨンがきた時のことを黙って思い出している。
(プヨンがきたときよねぇ。たしか、帰る途中で道にいて・・・、紙のような箱に入れられていたはずで、中には剣と指輪があって……。確かに紙に関係しているわねぇ。なんのことかわからないけど)
少し思い出してきた。記憶を整理しつつメイサは答えた。
「た、たしかにプヨンは紙に関係してはいますが…、それが……何か?」
この回答を聞いた瞬間サラリスとユコナは、ちょっと呆けたように固まったあと、2人同時に反応した。
「えっ、ほんとなのですか」「わ、わかりました。ありがとうございます」
「えっ、聞きたいことってもう終わりですか?」
メイサはさっぱりわからず聞き返したが、2人はそそくさとそのまま立ち去ってしまった。
やがて2人はプヨンのところに戻ってきた。ユコナはひざまずきサラリスもそれに続いた。
サラリスは心ここにあらずとぼーっとしているが、ユコナはゆっくりと、
「プ、プヨン様、申し訳ありません。私共にお力を授けていただいたとは露知らず、それを私共が理解なかったため、ご無礼をいたしました。わ、私共はどうすれば・・・」
「は・・?な・・・、なんで・・・?メイサは、なんと・・・?」
サラリスも神妙にしている。プヨンは予想外の返事にとまどいまくっていた。
「メイサ様はプヨン様は神に縁があると仰っていました」
「えっ・・・・、そんなばかな・・・・」
(ど、どうなっているんだ。メイサも悪のりしたのか…? どうするべき?)
しばらく絶句していたが、いいアイデアも思いつかない。
「今まで通り普通に接してほしい。そしてこの能力のことは好きに活かしてくれればいいかな。生まれながらの力が覚醒したという事で他言無用で……」
「承知いたしました。きょ、今日は、これで失礼します」
ユコナは立ち上がる。サラリスもそれに続き2人は少しふらつきながらも立ち去っていった。
一人残ったプヨンは何がどうなっているのか理解できず考えていた。絶対おかしいが念じてそう言うと能力を与えたことになったのか、なぜこんなことになったのかを回想するが、まったく心当たりがなかった。
そんな話は聞いたことないし、実際にそうならもっと周りにそういう影響が出てくるはずだ。
しかし……どのくらいの力を与えたことになるんだろう。気軽にあげるとかはダメで、よく選んでやらないと。なるべくならこれっきりにしよう……。プヨンはそう考えていた。
 




