表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の使い方教えます  作者: のろろん
179/441

好意魔法の使い方


はぁっはぁっ。


 ユコナは、突然目が覚めた。まだ、外は暗かった。背中が寝汗でびっしょりだ。


 頭がぼーっとする。何か、怖い夢を見ていたようだ。空から巨大な何かが落ちてくる夢だ。燃える火山弾、隕石、あるいは、空に浮かぶ城のような人工的な建造物だったかもしれない。


 何か大いなる力が働き、天からの警告を受けたようにさえ思う。


 昨日、フィナの荷物をプヨンに任せ、ユコナはフィナと2人で先に町まで移動した。

 フィナもその提案に否定的ではなく、足手まといになるくらいならと、プヨンと別行動することに同意して、問題ないはずだった。


 プヨンには馬なしでワゴン車を運転する能力、カブリオレがあることを知っている。

 だから、遅くても夕方にはくるだろうと思っていたけれど、結局深夜になってもこなかったのが気がかりだった。

 気掛かりのせいで、お肌を犠牲にしていつもより30分も夜更かししてしまったくらいだ。


 プヨンなら何かあっても切り抜けられるとは思うが、盗賊とか野生生物も全くいないわけではない。今更ながらに心配になっていた。


 フィナも、夜はまた別の用事があるということで、『明日の朝またきます』と1人でどこかに行ってしまった。


 そのため、今はユコナは1人だ。プヨンの部屋も予約はしてあったが、さっきそれとなく見てみたときも空き部屋のままだった。結局、朝までに着かなかったようだ。

 念のため、通信機でも呼びかけてみたが、なんの反応もなかった。


(フィナもどこかいってしまったし、もしかして嫌われてしまったかしら?)


 1人でいるため、ユコナは急に不安になった。完全に目が覚めてしまって眠れないまま、ゴロゴロとベッドで転がり続けていた。


 確かにユコナは最近プヨンに少し無理を押し付けている気がないわけではなかった。1人で悶々としていると、それが一気に強くなって頭から離れなくなった。

 フィナとも親しくないわけではないが、フィナはプヨンのほうが付き合いが深い。あまり無茶ぶりをして、フィナにひどい子という印象をもたれるのもよくない気がする。


 しばし、熟考する。


(一度ついた印象はなかなかぬぐえないわ。プヨンにはもう少し優しくして、悪い印象がないように注意しないと。これは、勘違いされないように、イロニー落としをする必要があるわね・・・ついプヨンの発想に嫉妬したり、甘えちゃったりする私の愛らしさをどうにかしないと)


 ユコナはさらに作戦内容を考える。


(そうね、わたしのような控えめなタイプなら、本来の自分に戻って自然に動けばいいはずだわ。サラにもアドバイスをもらって・・・)


考えがまとまった。


「作戦名は・・・そう、プリティッシュ作戦よ」


ユコナは、考えを反芻し、実行する決意を固めるため、作戦名をあえて口にしてみた。



 翌朝、ユコナが待ち合わせ場所に行くと、すでにプヨンだけが待っていた。それも予定よりかなり前からきていたようだ。空の飲み物の瓶が3本もある。

 もちろんフィナの荷物もしっかりとそばに置かれていた。フィナは、まだきていないようだった。


「おはよう、プヨン、昨日は、どうしたの?ずっと待っていたんだけど」


 プヨンはふいに後ろから話しかけられて、一瞬びくっとしたが、すぐに声からユコナだとわかった。振り返りながら、


「うん。だいじょうぶ。昨日は、あのあとずっと、ある作業を手伝っていて行けなかったんだ」

「作業? 作業ってなんの? 夜通し?」


 プヨンはざっくりと昨日の出来事を説明してあげた。

 あのあと、夕方には町についていたこと。知り合ったランカが受けていたレスルの仕事につきあって、町はずれの作業場で、種から油をとる作業を手伝ったことだ。


 種から油を取る作業は簡単だった。単純にひたすら水から煮込んで柔らかくしてから、絞ればいい。

 ただ、タダンのせいもあって、幸か不幸か、もちろん幸なのだが、ランカの予定の倍以上の収穫があった。

 予想外の成果でランカには大喜びされたが、タダンにも手伝わせた作業が終わったころには、すっかり深夜になっていた。後半はランカですら取れすぎたことを嘆いていたくらいだ。タダンはひたすら無言で作業していた。


 そのあと、レスルに成果物を運んで、あとは適当な場所で倒れこむように雑魚寝をしただけだ。ランカとタダンとはどう別れたのか覚えていなかった。


「そうなんだ。じゃぁ、大丈夫なんだね?」

「こ、腰が痛い」


 怪我したところはすっかり治っていたが、寝た場所が悪く寝違えていたようだ。


 確かにユコナは心配してくれていたようだ。元気そうなところを見て、ほっとしているようだったが、


「ちゃんとこないからでしょ。自業自得よ」


 ユコナには心配して損をしたみたいな顔をされてしまった。通信機があったことを思い出し、どこかで連絡しておけばよかったなとも思った。もちろんユコナの顔にも、事前に連絡してきてよと浮かんでいたが。


そして、


「ジャーン、ほらほら」

「おぉー。どうしたの?結局買うことにしたの?」


 昨日、タダンから回収、いや、

自主的に差し出されたものに、手頃な黄色の尖晶石が入っていた。

 誰かからぶんどった石なのだろうけれど、ランカにお願いすると快く譲ってもらえた。

 これで学校からのノルマが達成できたことになる。まぁ、高級品ではないだろうけど、形式上はあればよいはずだった。


「じゃぁ、あとはフィナさんを待って出発ね。これ、食べる?」


 宿を出る前にお昼用につくってもらったものだろうか。1つプヨンに差し出された。砂糖をまぶして焼いたパン、ブリオッシュだった。


「あ、いいな。朝ごはんちゃんと食べてなかったんだ」


 プヨンは何か裏がありそうな気がしたが、ありがたく受け取った。もちろん、プリティッシュ作戦の第一段階、食べ物で落とすブリオッシュ作戦には気づかないはずだ。


「プヨンは、無理そうな依頼をされたときって、困ったりしないの?」

「え?急にどうしたんだ?」


 ユコナはきっと何か困っているところがあるんだろう。予想通り過ぎてふと顔にでそうになったが、何食わぬ顔で、


「うーん、まぁ、簡単なことを依頼されてもつまらないし、引き受けるときは勝算があるからなぁ。難易度が高そうな、ちょうどいいスキルアップトレーニングかな。でもできないことはできないというから、困りはしないよ」

「そうなのね。じゃぁ困ったことがあったらお願いしよっかな」


(きた。やはりきたな)


「まかしといてよ。サラとユコナなら大歓迎だよ。もちろん、短納期の依頼や難易度の高いものは、友達レスル規定で、特別に料金2倍で」

「え?2倍?半額じゃなくて?」

「金払いのいい友達がいると、うれしいなぁ」


 しばし沈黙が流れる。


「わ、わかったわ。2倍なら引き受けてくれるのね」


(プヨン、わたしと同じグループで、レスル登録しているのは忘れているのかしら?まぁ、たまにしかお仕事しないからなぁ。それなら、チームで引き受けたことにしてあげるから)

(う。安すぎか。失敗したか。値段以上の超難易度がくるんじゃ?)


プヨンとユコナの2人の笑顔の中には、いくつもの思惑が交錯していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ