回復魔法の使い方 3-4
盗賊達の中央にいる男は、なにやら見覚えがあるような気がしたが、プヨンはすぐには思い出せなかった。
どこかで見た気がするんだけどなぁ、そうプヨンが考えていると男から声がかかった。
「よーし、いつもどおり、通行料は50%だ」
「ぶっ」
あまりにも法外な通行料で、プヨンは思わず吹き出してしまったが、ランカは何も言わない。取ってきた種の半分を差し出そうとしている。
男もそれをさも当然のように受け取ろうとしていた。いつもそうやって、搾取されているのか。
ただ、それがランカの普段であれば、下手に手を出すと、あとあとランカが困るかもしれない。プヨンもどうしたものかと考えていると、
「お?今日は、もう一人いるじゃないか。しかも、あんな大きな木箱で。これは大量じゃないか・・・お前も半分だ」
「えっ?」
自分も通行料がいるとは思わず、油断していた。そもそも通行料って何ってのが頭に浮かんでいたが。
さらに、こんな肥料を持っていっても、重いだけで大して金になるとも思えない。
「これは、まったく価値がないよ。ただの土みたいなものだし。重いだけで」
一応、ちゃんと説明してみた。金を出して買いはしたが、1度でも中身を見ればわかるはずだ。これを取っていくとも思えないが、
「は? 何言ってるんだよ。半分持っていってやろうというんだよ」
そういう真ん中の男の顔をなんとか思い出そうとする。相手もどうやら同じで、プヨンの顔をのぞきこんでいた。
(そうだ。以前、学校にきたとき、ターナがいた時に一緒に会った。たしか、タダンと言っていたような気がする)
「見覚えがある。たしか、お前は・・・あんときの・・・。あんときは妙な女がいたが、今日は一人か。お前のことは忘れられなかったよ。礼をしようと思っていたからな」
そういうと、こちらに走り寄ってくる。プヨンも、とっさに身の危険を感じて、馬車から飛び降りて、地面に降り立った。馬車から少し離れたところに移動する。
「タイミングを見て、逃げろよ」
降り際にランカに声をかけたが、
「ひ。ひぃっ」
ランカはとっさに鎧の兜部分をかぶりなおし、そのまま馬車上で頭を抱えていた。逃げろと言ったが、たぶん声は届いていないようだ。
「こいつには、以前、通行料を徴収しようとしたとき、連れに邪魔されたことがある。滞納野郎だ。今日は1人だから、遠慮せず回収しろ。いくぞ」
プヨンを囲むようにしていたまわりの仲間たちに声をかけると、遠巻きに近づいてきた。
「どうする?おとなしく降参するのなら、手加減してやるぜ。もちろん、無傷ではすまないがな。5対1だ。勝つ見込みはないぞ。そのほうがいいと思うがな」
タダンは支払いを催促するように手を出してきたが、がめつさを感じるだけで払う気にはなれなかった。もちろんかわいい子でも払わないが。
数の劣勢はどうしようもないが、すんなり従う気はない。仕方なくプヨンは腰についていた鞄に手をかける。
「お、今日は聞き分けがいいな。素直なのはいいことだ」
そう言いながら、タダンは剣を下げて近寄ってきた。プヨンは鞄からではないが、ストレージから、剣と盾を取り出す。ぼろい剣と盾だが、まずは数の確保。ないよりはマシだ。とりあえず武器を取り出し、『ケンネル』でそれを空中に浮かべてみた。
「な、なに? なんだそれは。やるつもりなのか、ひどい目にあわすぞ」
おとなしく降参すると思ったプヨンの横に急に複数の盾と剣が現れ、武器を構えているかのように空中に浮かぶ。それを見て敵意があることはわかるが、何が起こっているのか理解できない男達が動揺しているのがわかった。
一方で、プヨンもユコナと尾行を撒くため1体を動かしたが、3体を同時に動かした経験はまだなかった。おそらく動かせても、人が剣を振るうような自然な動きにはならないだろう。
「よ、よし、一気にかかれ」
少しおじけづいたようなタダンではあったが、ここは退けないとばかりに強気に号令を出し、周りの男達からも『おぉっ』と声が返る。
ゆっくりと間合いを詰めるタダンと、ゆっくり下がるプヨン。プヨンが何をするか予測できないためか、動きは慎重だ。
プヨンも応戦する手始めとして、ケンネル&タテネルで浮かんだ剣と盾を手当たり次第に動かした。ただひたすらやみくもに動かすだけだ。
それでもなんとか遠くに飛んでいくことなく、一定の範囲内で動かし続けることができた。もちろん剣と盾はばらばらの動きだったが。
「うぁ」「うわっ」「よけろ」
ただ、プヨンが動かす剣や盾の動きは予測できない上、ある程度スピードがあるから無視もできない。近づいてきた男たちは慎重にならざるを得ず、その動きに牽制されていた。
もちろん当たりどころが悪いと大きなダメージを受けてしまうだろう。
時折タイミングを合わせて、自分の剣を浮遊剣や盾にぶつけてくるが、
ゴスッ、カンッ
プヨンの動かす鉄や木製の剣、盾にぶつけ、打撃音がするだけだった。ただ、剣などは浮かんでいるだけで、手で持っているわけではない。
支えがなく反動は大きく、当たると大きく弾かれてしまうようだ。
最初は慎重だった男たちも、動きが単調なことがわかると、慎重さが減り、動きが本来の活発さになっていく。
ケンネルだけでは戦力が足りないように思われ、プヨンはまわりの草木に燃え移らないように注意しながら、時々小さめの火球を打つなどで火力を補う。
なんとか相手の男達を近寄らせないように頑張っていたが、やはり相手の人数が多いこともあり、防いでいるだけではあまり長くもちそうになかった。
プヨンの剣などの動きでは、当たっても致命傷はないと踏んだのだろう。まわりの動きを見つつ、一気に間合いを詰め、プヨンを攻撃しようとしてきた。
そこで、ふと、プヨンは、思いついた。
(そういえば、実践で回復させる服って使ったことがないな。さっきの種を取り出すときも服のせいか、傷がすぐに回復していたが、ここで使ったらどうなるんだろう)
自動回復用の服の回復効果を確認する、いい機会と思えた。そんなことを考えていたためか、攻撃が手薄になっていたようだ。そのことを見抜いたのか、
「へっ。そろそろ、降参したらどうだ。なかなか変わったことをしているが、これじゃ、俺たちにはかなわないぜ」
タダンは威勢よくプヨンに降伏を促してくるが、どうせ降参しても無事にはすまないのはわかりきっている。
もともと降伏するつもりもないプヨンは、せっかくだから思いついたことを試してみることにした。
まず自分用に剣と盾を取り出し、形だけ構える。例の炎の剣だ。
そして逆に腕や足などの服のすそをまくり上げ、露出を増やし、動きやすいようにした。
「うりゃー」
とりあえず、大きな声を出して、すぐそばにいる剣を構えている男に突っ込んでいった。剣といっても切れ味が悪そうな剣だ。こん棒よりはましだろうという程度だろう。
男は最初は一瞬とまどったようだったが、すぐに気を取り直し、剣で打ち合う。そして、
カン、カンッ
数回打ち合ったあと、プヨンは相手の繰り出した剣を、腕が服から出ている部分で受け止めてしまうかたちになった。
「もらったー」
男のもつ剣の切先が、プヨンの腕に沿って流れていく。切れ味が悪そうといっても、切先はそれなりに研がれているようだ。
プヨンの腕には、深くはないが切り筋が走り、痛みを感じた。男の剣先にもわずかに血がついている。地面にも数滴、血が飛び散った。
手ごたえを感じた男は、満面の笑みを浮かべている。
一方で、プヨンもタイミングを計っていた。
(よし、このタイミングだ。いまだ)
「ハイピーリングシステム」
常時回復魔法の高速化だ。表皮を剥き続けることで回復効果を高めている。魔力消費量がかなり増えるが、とっさの場合もすぐに治り始めるため、ダメージを最小限に抑えられた。
プヨンも相手の踏み込みを予測して、タイミングをあわせていた。
まずは、切られた面に沿って最速で皮をはり、止血する。
それでも、多少の血が飛び散るのは避けられなかった。深さは2cmもないが、20cm程度にわたって切り筋がついている。
「ふっ。未熟者が。さっさと降伏しろ。俺たちは殺すことが目的じゃないからな。通行料の徴収だ」
盗賊に対して抵抗する者は多いが、ある程度お互いの力量がわかるとそれ以上戦っても無駄だ。命を失うまで抵抗するものは滅多にない。
また、盗賊も追い込み過ぎると、死に物狂いで抵抗されて犠牲が増える。頃合いと思ったのだろう。
男が高らかに宣言しながらもプヨンとは距離をとり、そう告げてきた。




