回復魔法の使い方 3-3
腕に残っていた種を取り出したプヨンは、痛みのせいもあってしばししゃがみ込んでしまった。
すでに回復させる魔力を貯めこんだパンツァー服とプヨン自身の回復魔法によって、切り開かれた腕の切口も30秒もたたずほぼくっついていた。
「あ、ありがとう」
プヨンは礼を言ったが、相手はかなり人見知りをするようだ。プヨンの礼に照れているのか、あたふたと身振り手振りをしつつ、しどろもどろに、
「い、いえ。どういたしまして」
ようやく絞り出すように、小さな声で返事をしてくれた。さっきまでの、種を取り出すために腕を切り裂いていた気迫はどこかにいき、別人のように気弱そうに見える。
女の子は話し嫌いではなさそうで、ランカと名乗ってくれた。
「この種は特殊な塗装に使われるので、一定の需要があるのです。種取りはしっかりと鎧さえ着ていれば大丈夫なのですが、こんなふうに当たると危険な場合もあるんですよ。リスクがあるわりには単価が安い、人気がない依頼なのです」
「へー、じゃぁ、ちょっと不人気仕事を押し付けられた感じ?」
「そ、そんなことは。誰かがやらないといけない大事な仕事ですし、私は他があまり得意ではないので」
その後もしばらくは、このあたりのことやランカがよくやる仕事のこと、その仕事の面白さなどを語ってくれた。
おそらく、学校が始まるとここにはよくくることになるはずだ。まわりの様子や手ごろな仕事情報を聞くのにちょうどよかった。
最初はやたら周りを気にしたり、おどおどしているようなところがあったが、徐々に警戒もとれたのかかなり饒舌になってきた。
この辺りから北側は、人がおらず未開の地も多く。ずっと高地が続いていく。
増えすぎた害獣や人里に近づいた危険生物、大型生物の駆除などはどこも同じだが、特に腕試しを兼ねたような危険度の高い依頼や、特殊な素材採取の依頼が多いらしい。
商業も盛んなため荒くれ者や盗賊が多いこともあり、一般的な護衛も多い。難易度にさえ気を付ければ、仕事にあぶれることはなさそうだった。
「さぁ、そろそろ戻らないと。プヨンさんは、どうされますか?」
「自分も今日中に町まで戻らないと」
そういうと、プヨンは少し離れたところにおいておいた、フィナから預かっていた荷物を持ってきた。大きな木箱いっぱいの荷物だ。
「プ、プヨンさんは、これを運んできたのですか?」
「そ、そうだよ。それが何か?」
ランカはその箱を持とうとしたが、当然、重くて微動だにしない。
「う、こ、こんな重いもの持てない。え、いえ。プヨンさんも厳しいお仕事を押し付けられたんですね」
「あ、あぁ、そうなんだ。しかも、とっても安いんだ。もう、無料といっていいくらい」
「そうなんですね。プヨンさんも人がいいんですね」
無理矢理ハイリスクローリターンを吹っ掛けられる人が、他にもいたことがうれしいのだろうか。親近感と同情の混ざったような表情のランカは、さっきよりも親しみのある声でそう言った。
プヨンはランカが用意していた馬車で戻ることになった。大きなかごにいれたランカの種と、プヨンの木箱を荷台に置き、町に戻ることにする。ここからは、のんびりいって1時間半程度らしい。
ランカはプヨンが荷馬車に運んできた木箱を持ち上げるのを見て、目を白黒させていた。
ギシッ
音がした時は荷馬車が壊れるのか相当心配していたが、なんとかぼろ馬車でも耐えることができたようだ。
荷馬車である程度進むと、草の丈が高めになって見通しが悪くなってきた。
ランカがやけに周りを警戒している。
「プヨンさん、このあたりは盗賊が多いのです。気を付けてください」
「え?盗賊?」
「えぇ、数人の荒くれ者たちです。なかなか取り締まりでは捕まらなくて・・・」
そう周りを警戒しながら、プヨンに教えてくれる。
(いやな予感がするなぁ)
そうプヨンが思うとほぼ同時だった、
「よーし、ここは臨時の関所だ。そこの馬車止まれ」
あたかも帰りを待っていたかのように、前方から声がかかった。
こんなところ、まともな旅人が通るはずがない。どう考えても一般人ではないだろう。もしかしたら、ランカを狙い撃ちしようとしていたのかもしれない。
ランカは『あっ』と声を出して固まってしまい、5人いる中央の位置にいる男の顔を黙ってみていた。
まるでこうなることを予測していたかのようだ。諦観した表情をしている。
どうしたものか、プヨンはランカの顔を見つめていた。




