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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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父兄訪問の楽しみ方 8


「じょ、冗談でしょ」


 プヨンは、思わず声に出してしまった。


 抗議というほどではないが、予想外の対応ではあった。


 乗合馬車で先に行くというユコナと、乗り気ではないけど、ユコナに強引に拉致されたフィナ。二人はすでにチケットを手に入れていた。


「ふふふ、冗談ではなく、同行は中断よ。あっちの町のいつもの花壇横で待ち合わせね」


 ユコナの待ち合わせ場所の指定に対し、フィナも、ユコナと行く方向にしたようだ。


「ごめんね、プヨン。でも、私たちも一緒だとかえって足手まといと思うのよね。プヨンなら、きっと運べるわ」


 ユコナはどうしてサラリスの父兄にそんなに強い拒否反応を示すのか、プヨンには不思議で仕方なかった。どうみても大急いで町から離れたいようにしか見えない。


 もとからそう考えていたのかはわからないが、ユコナはのんびりしゃべりながら歩いて行く気はまったくなさそうだ。自宅の馬車を使わないところからしても、何か事情があるのかもしれない。知らないほうがよいこともある。


 もう1つ、ユコナとフィナは2人で行けるほど親しいのかとも思ったが、知らないところでの付き合いもできているのかもしれない。これも余計なお世話と思われた。


 たしかに、ユコナの言うことも一理ある。もともと1人でいくつもりだったし、3人一緒だと行動もかなり制限される。一緒にいけば退屈はまぎれるが、今しがたユコナがしたような乗合馬車などを使う以外は歩くしかなさそうに思う。

 荷物の大きさからしても、すんなり乗せてもらえそうにはない。そうすると、時間もかかるし効率が悪い。少しの間、メリットとデメリットを天秤にかけていたが、一緒にいくメリットはほぼないという結論に達した。


「ユコナなんか、もう知らん。あっちいって」


 『たしかに足手まといだ』そう思ってしまったことを悟られないよう、ユコナの目を見ることなく寂しそうな口調で捨てセリフを吐き、ユコナ達は2人で行ってもらうことにする。何か2人で話したいことでもあるのかもしれない。


「わかったわー、じゃぁ、明日の朝にキレイマスのレスル前に集合ね」


 ユコナもあっさり了承されたことがかえって気になったのか、行く途中で2、3度振り返りプヨンの様子を見たようだった。


 とりあえず、明日の朝が約束の時間だ。ずいぶん先だなと思ったが、まぁ、乗合だと休憩などもあるからそんなものなのだろう。ただ、プヨンとしても、今日のうちに町についていたいと思った。

 さすがに歩いてでは時間的に厳しい。とはいっても、どうやって行くか。ボードを買いなおしてもいいが、せっかくだから違う方法で移動したかった。


(うーん、何か目新しいものでもあるかと思ったけど、そうそう見つからないか)


 しばらく商店街をうろうろする。ただ、移動手段を買うのであれば、馬車やワゴンなどそれ専用のもの買う方法もあるが、持ち運びにくいものを買うと、買ったら買ったで置き場所に困りそうだ。

 

 フィナから預かった荷物は一時的に仮置きして、移動のための乗り物屋巡りをするが、なかなかこれといっていいものが見つからなかった。

 何か手ごろなものがないかなと思っていると、ふと、金物屋の前で鉄板焼き用の円形の鉄板を見つけた。


(これで、鉄板を磁石にしてやれば、浮かばせることはできるはずだ。その上に乗ればなんとかなりそう)


 先日のワゴンのような低温超電導状態とは違うが、これなら軽い。地面から浮くにはいい方法のように思えた。思いつくと、試してみたくなる。プヨンの性分なのかもしれないが、さっそく試してみた。


「チャクジー」


 バシーン


 鉄板を宙に浮かべコイル状に電流を発生させた。小規模な雷クラスの数千アンペア程度になるようにコントロールする。この電流で一定方向の磁界を発生させ、そして瞬間で切る。

 雷クラスの電流により轟音とまわりの発熱が発生するが、これで鉄板は強力に磁化させることができた。


 そして、今度は足元に輪状に電流を流す。こちらは一層あたりの電流は小さいが何十層も重ねてながすことで、目には見えないが上向きに強力な磁界を発生させている。極性が反発し合うように、先ほどの磁化した鉄板を置くと、反発する磁石同士のように鉄板は浮き上がっていた。


「よ、よし、予測通りだ」


 そっと、ほんとにそっと上に乗ろうとしたが、少しバランスを崩すと、氷上でスケートをするときのように、足だけが移動し何度もひっくりかえりそうになった。思った以上に難しかった。

 随分あがいていたが、なんとか真上に乗れるようになると、次はわざと重心をずらし鉄板を傾ける。


「マグウェイ」


 これで、ずれた方向になんとか移動できるようになったころには、たっぷり1時間以上たっていた。すでに汗だくだ。慣れない運動をしたように、無駄に筋肉を使ったからか筋肉痛になりそうだった。

  

 プヨンはフィナから預かった荷物に対してもそうだが、軽くすることには慣れてきていたが自分が浮かぶことにはまだまだ抵抗があった。

 以前、ターナが自分を持ち上げて浮遊しているのを見たことがあるが、あのときもバランスを取るのにかなり苦労していたはずだ。


 軽くなるほどちょっとした風でも流されるし、地面との摩擦もないため安定してバランスを取るだけでも大変だ。無重力を移動するように、よほどうまくやらないと自分の位置を見失ってしまう気がした。

 そして、いくら硬質化ができるとはいえ、万が一魔法のバランスがくずれ、高いところから落下して地面に激突すると、表面が耐えられても内臓が耐えられないだろう。


 それに、筋力強化で飛び上がれるのはせいぜい5mだ。それより高いところにいくことは慣れていない。崖の上から下をみるような恐怖心も感じるに違いなかった。

 

 それもあって、この焼肉鉄板で移動する点は、自分の体重もある程度残しながら移動できる。面白さもあってプヨンの趣向にあっていた。


 そして、フィナの荷物を『バターアップ』で、軽く肩に紐が食い込む程度まで軽量化し、鉄板の上に乗る。体を傾けることで、前後左右に移動しながら、少しずつ進みはじめた。


 バランスを崩すたびに地面に足をつくが、そのヘマも徐々に間隔があきだす。一度感覚を掴むと、よちよち歩きが、駆け足程度になり、そして、走る速度、馬の速さになるのにさして時間はかからなかった。

 

 徐々にスピードがあがると、道沿いでは人目に付く。歩く速度を超えたあたりから、道から少し離れた草地を進むようになった。

 地面にある岩や木を避けることもいい練習になった。1時間も乗り続けると、動物が飛び出すなど、突発的なことが起こらない限りは安定して進めるようになっていた。


「うーん、こいつはいいな。草地程度であれば、なめらかに移動できる。もちろん水の上も問題ないし、くぼ地に足を取られることもないしな」


 電流の巻き数を増やすことでそこまで大きな電流でなくても浮かび上がれ、多少の高さを調整することも思うようにできた。


 森に入りさえしなければ、道なりに進まなくてもいい。いつのまにか、街道沿いをはずれメナキアの町によらず、キレイマスの方にまっすぐ草原を直進するようになっていた。




 そのころ・・・、サラリスは、無事、王子とのお茶会を終了し、帰路についていた。


 先ほど、参加者を見送った二ベロは、ヘリオンから申し訳なさそうに報告を受けていた。


「二ベロ様・・・今入った連絡によりますと・・・町を出てしばらくいくと見失ったそうです」

「見失った?追手をまくために二手に分かれたから、荷物のほうを見張っていたのではないのか?大きな荷物を運んでいると言っていたが?」

「さようです。しかし、鉄板に乗って遊んでいると思ったら、突然道から外れだし、徐々に加速してそのうちついていけなくなったと。見失い戻ってきたそうです」


 二ベロは、しばらくヘリオンの説明を聞いていたが、


「なんだそれは。怠慢にもほどがある。あとで、連れてこい」


 そう告げた後は、黙ってしまった。ヘリオンは恐縮しながら、指示を伝えにいった。


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