父兄訪問の楽しみ方 7
プヨン、フィナ、ユコナは、フィナが運びたい荷物を受け取りに町に戻ってきていた。
途中、ユコナが片付けた3人が気になったが、いつのまにかいなくなっていた。もちろん、あからさまに確認すると目立つため、通り過ぎるついでに見ただけだが、なんとか元気を取り戻したのだろう。
野犬とかについばまれていたらつらい。それはそれで安心した。
「ところで、フィナは、何を運びたいの?」
肥料屋に取りに行くと言っていたフィナについて歩くが、道すがら、プヨンは運ぶ荷物について、フィナに聞いた。
「え?肥料よ、肥料。腐葉土といってもいいんだけどね。ちょっと知り合いが弱っていてね。それには、この肥料が一番なのよ」
「へー。肥料。知り合いはやっぱり、植物系なのかぁ。それで大量にいるんだね」
「そうなのよね。地中の毒素っていうの?を、分解してもらわないといけないのよ。だからね。肥料自体はわりとどこでも手に入るんだけど、運ぶのが難しくって」
それはそうだろう。土嚢袋で50袋とか、ふつうは人力ではありえない。大きな馬車でも用意して、運ぶレベルの量だ。重さだって、1000kgできかないだろう。
『てへへ』とかわいく笑うが、それを自然にできるフィナに底知れぬものを感じる。もちろん、プヨンはわかりつつも抗うつもりはなかったが。
肥料屋で50袋の肥料袋の山を受け取る。
「どこまで運びましょうか?」
「お気遣いなく。私の手足で十分運べますので」
「は?これをですか?」
店主が理解できないという顔をするなか、5000グランを即金で支払うフィナはお金持ちではあった。フィナがどこから手に入れるのかはわからないが、おそらく裏で人にはできない稼ぎがあるのだろう。
目の前に山と積まれた肥料を見たが、それでも、1m程度の木箱に入る大きさだ。重さはあるだろうが、まだ途方もない量でもない。そして、ストレージで運べる、フィナの手足、プヨンは特に気にはしていなかった。ふつうの人にはちょっとストレージに入れることはできない量だが、プヨンは実績に裏付けられた自信がある。
「あれ?入らない?なんでだろう」
しかし、プヨンは袋の1つを入れようとしたが入らない。いつものように集中して見えない壁を通り越し、入れようとするが何度試してもうまく入らなかった。
「プヨン、言い忘れていたけどその肥料大型のダンゴムシが作ってるの。要するに生物入り・・・」
「え?ちょっと待って。生物入りって」
フィナの言いたいことはわかった。ストレージは、マジノ粒子が含まれる物質は極端に通りが悪く、入らなくなる。
微生物のような意思をもたないものならともかく、意思がわずかでもある生物なら、たとえちいさな昆虫ですら生きたままだと入らない。障壁を超えて入れるのが難しいことは周知のことだ。
「えー、そんじゃ運べないじゃない」
「大丈夫。手足で運びますと言ったでしょ。そこの木箱を・・・背負って運んで」
「げっ。前の蜂のときとは比べ物にならないんじゃ。どこまで運ぶんだよ」
フィナは、かわらず、ニコニコ顔で頼んできた。最初からそのつもりだったようだ。
(さすが、長く生きているだけある。フィナめ)
プヨンがフィナを心の中でののしっていると、ユコナがはっと何かを思いついたように、
「プヨン、ボードよ。ボードに乗せて運べば楽じゃない?」
ユコナが、マックボードに乗せて運べばいいと提案してきた。そうだ。ボードの上に乗せて押すなら、直接背負ったり持ち上げることに比べたらずっと楽だ。
「おぉ、さすが、ユコナさん。それはいい案です」
フィナが同意する。もはや覆すすべはない。これは決定事項のようだ。
「さすがでしょ。私のZ80方式の計算速度をもってすればたやすいことよ」
ユコナのよくわからない自慢は無視して、ここは、プヨンも同意した。
「私が思いついたんだから、ユコナポイントアップでお願いします」
ユコナが自分のアイデアだと主張することに同意して頷きつつ、ストレージから、ボードを取り出し、地面に置いた。
「バターアップ」
まずは、一度、試してみないといけない。肥料袋を全部入れた木箱を吊り上げた。
ゆっくり力を加えると、肥料の箱はゆっくりと地面から浮き上がる。予想通りけっこうな重さがある。必要な浮遊力を維持するには、毎秒、火球10発程度の魔力が必要だったが、持ち上げることはできる。 それをボードの上にそっと置いた。
バキッ
「あっ」
ユコナは小さな声を出す。ボードの車輪はへし折れ、ボードは斜めに傾いていた。もともとせいぜい乗っても2人乗りまでだ。二人乗るなら、200kgもいかない。重さに耐えられなかったようだった。
「なるほど、ユコナの成果だったな。ユコナポイント大幅マイナス。これで、服と相殺で・・・」
「え?そんな。ひどっ」
ひどくはない。ユコナのシャツも安くはないのかもしれないが、プヨンのボードもけっこう値が張る。乗りなれてきていたので、ここで壊れるのは痛すぎた。プヨンは、断固、妥協するつもりはなかった。
気を取り直し、プヨンはおとなしく背負って行くことにした。この量の袋を浮かべるには1秒ごとに火球10発。大変ではあるが魔力で持ち上げることもできなくはない。
『カブリオレ』で運んでいたワゴン車を持ち上げたときもその程度の魔力は使っていた。ただ、歩くとなると、かなり時間がかかるのがちょっと悩みだったが。
プヨンは、どうやって行こうか考えていた。3人は少しばらけて方法をさぐる。荷物が大きく重いだけに、気軽に運んでもらうというわけにはいかず、かといってすぐに馬車なども調達できない。
そうするうち、ユコナとフィナは、2人連れだって戻ってきた。
「ねぇ、プヨン、私たち、ちょっと相談したんだけどね」
なんだか言いにくそうに切り出してくる。
「実はね、私たち相談したんだけど、プヨンの荷物大きいでしょ。私たちは役に立てないじゃない。邪魔でしょ」
ユコナが言う。
「い、いや、そんなことはないよ」
「いいの。ほんとのこと言ってくれて。だからね。現地集合にしましょう。3人一緒だと、まとまって移動しにくいし」
「え、ちょっと待てよ。現地ってどこだよ。一人でいけって、ひどくない?」
「大丈夫。私たちは、私たちで、なんとかいくから」
そういうユコナの手には、乗合馬車のチケットが2枚、ひらめいていた。
そのころ、ヘリオンは、マールス通信で受け取った定時報告を王子二ベロに伝えていた。
「ユコナ嬢は、何やら物資を調達しているそうです。それも大量に」
「物資?へぇ。なんのために?」
「さぁ。そこまでは、まだ。引き続き監視するとのことです」
「わかった」
そして、サラリスはすっかりケーキを堪能していた。さらにデザートアイスが出ると聞いて、想像を膨らませていた。いったい砂漠にちなんだアイスとは、どんなアイスなのだろうと。




