父兄訪問の楽しみ方 6
(ユコナは、フィナに魔法勝負を挑んだようだ。女同士の激しい戦いが始まろうとしている。勝つのはどちらか?)
プヨンが脳内ナレーションで1人勝手に盛り上がっていたが、2人は陽気に話していた。
「フィナさん、お願い。さっきの物を切る魔法を、もう一度やってみてください。私、防いでみたい」
「えっ、それはそれで面白そうで、ぜんぜんかまわないけど。でも、危ないですよ。回転部分を正面からは受けないでくださいね。止められないと真っ二つになってしまうかもしれません」
そう言われると、ユコナは、強く一回頷いて、小走りで距離を取った。
「じゃぁ、いきますねー」「はーい」
フィナが大きな声で叫び、ユコナも軽いノリで返事を返す。フィナは、手のひらを振ってゴマ粒大のかけらを空中に振りまいた。おそらくそれが切り裂くための刃、固い木片なんだろう。
それらが地面に落ちず集まっていく。電動ノコギリのように、円盤状に集まった木片が音もなくゆっくりと回りだした。
フゥゥゥゥン
何かが浮き上がるような風切り音がしはじめ、円盤がユコナに向かって飛んでいった。速く動かすとばらけてしまうからだろうか、回転速度は速いが移動速度はそれほどでもなかった。
ふと見るとユコナの口元が動いている。何やら唱えているようだ。するとユコナの斜め前方に縦横1m程度の氷板が現れた。厚みは、2、3cmはありそうだ。
シャシャシャシャーー
しかし、さすがに氷は固い木に比べると氷では柔らかい。かき氷用の氷を削るような音を出しながら、氷板はゆっくりと切り裂かれ3秒ともたず真っ二つになっていた。
遠くからでもわかるくらい、がっくりとうなだれるユコナ。きっと正面に立っていたら、そのまま刃を受け止めるような形になっていただろう。
ユコナの氷を切り裂いたフィナの木片ノコギリは、そのあとも少し飛び続けたが、フィナが集中を解いたのか、ばらけて空中に散華してしまった。
(氷にするから切られちゃったけど、水の状態で円盤を包んで回転を遅くしてから凍らせるとかだとまた違ったかもな)
ユコナがとぼとぼと立っていた場所からの30mほどの距離を戻ってくる間、自分ならどうするか考えていた。
声をかけるにはまだ離れていたため、目をそらしながら悔しそうな顔をして戻ってくるユコナを黙ってみていたが、ユコナが急にプヨンを見る。しっかりと目が合ってしまった。
「プヨン、仇を取ってください」
「取らないよ」
即答する。別にユコナが防げなかったとしても、プヨンは意に介することはなかったが、
「どうする?プヨンもやりたい?試してもいいよ」
フィナが聞いてきた。なぜだか、妙にフィナが乗り気になっているように感じる。
「もちろんです。プヨンもやりますよ」
やる気はないのでやらないと答えようとしたが、ユコナがそれを制して勝手に答えてしまっていた。
「えー、そんなの面倒だよ。やらないといけないの?」
「じゃぁ、プヨンも、さっきの位置までいって」
「さっさと行っちゃって」
2人がはもるように言う。
ユコナはプヨンの失敗も見たいのだろうか。気持ちはわからなくもなかったが、不思議とフィナがユコナの時以上に乗り気に見えた。あっちあっちと指さしながら、プヨンにさっさと行けと促している。
「わかった。わかりました」
フィナにも何か意図があるようだ。こんな機会はあまりないから、プヨンも試すこと自体にそこまで抵抗があるわけじゃない。さっさと、さっきユコナが立っていたあたりまで移動した。
「じゃーいくよー」
フィナの声で木円盤がプヨンに向かって飛んでくる。その様子をユコナはうれしそうに見ていた。半分は失敗を期待しているのがよくわかった。プヨンは、すでに対抗策は考えてあった。
「ブルーワール」
フィナが自分で説明していたように、もとはしょせんただの木粉だ。おそらく500℃程度になれば、自然発火するはずだ。フィナの飛ばす円盤の周囲数mを、火災旋風で1000℃程度まであげてみた。
予想通り、フィナの木円盤の木屑1粒1粒が自然発火し燃え上がる。そして炎の円盤になった。
「う、うわぁー」
微粒子の木粉に風が吹きつけられている。瞬間で燃えつきると思ったが、そこまで一瞬ではなかった。燃えながらプヨンに向かって突き進む。慌てて左に飛びのき地面を転げた。
炎板はさらに進み、やがて燃えカスの黒いすすが大量に宙を舞った。
「プーヨーン、見事だったわ。よく、避けられたわね」
「そんなことないよ。俺は燃え尽きさせたから、引き分けだもんな」
ユコナが嬉しそうにかけよってくる。プヨンの慌てっぷりが面白かったようだ。
ただ、氷を切り裂かれたユコナと違い、プヨンはフィナの円盤を燃やし尽くしたことをアピールしておいた。
「ふん。イィーーだ」
拗ねてふくれっ面のユコナを横目に、フィナも面白かったのかにこにことしている。
「プヨン、引き分けってところね。思ったよりやるわね」
「そうだなぁ。でも、これが砂礫や砂鉄だったら燃やすのは難しいから、違う対応がいるなぁ。剣とかの攻撃のように、ちゃんとした盾じゃないと厳しいよね」
プヨンは反省点も交えながらフィナに言う。
「それでね、今のでちょっと疲れちゃったから、ものを運ぶのを手伝ってくれない?」
「え、もの?そんなのお安い御用だよ。何を運ぶの?」
「なるほど。さっき、にこにこ、やろうって誘ってきたのは、それが狙いか」
「ふふふ」
別にそんな程度、わざわざ手の込んだことしなくても持ってあげたのに。
「実はね、植物用の栄養剤なの。ほら、町で農作物用の栄養剤を売っているでしょ。それを運びたいの」
なるほど。フィナ達は植物由来だから、そういった栄養剤が体力回復材になるのか。プヨンが納得して、
「わかった。いくらでも運ぶよ。任せといて。で、どこにあるんだい?」
「うん。町に頼んであるのよ。今から取りに行くの。行き先はちょっと遠いんだけど大丈夫?」
「もちろんだよ。ちょっとくらい多かったり、距離があっても大丈夫だよ」
「やった。よかった。私一人じゃ絶対無理だったの。プヨンは今度キレイマスにある学校に行くって言っていたでしょ。ここの町の肥料屋さんに預けてある栄養剤をキレイマスまで運んでね」
なるほど。キレイマスなら、たしかにプヨンが今から行こうと思っていた場所だ。行き先も問題はなさそうだ。少しはめられた感もあるが、フィナの意味深なさっきの笑みは、これを意図していたからだとわかった。
「了解だよ。ちょうど今から行くところだったしな」
「ありがとう。じゃあ、今から肥料屋さんに取りにいかないと。50袋あるからね」
「は?ちょっと待てーぃ」
肥料1袋は20kgあるはずだ。50袋といえば、ふつう人力で運ぼうとは思わない。いくらでもとは言ったが、人力で運ぼうとする量ではない。
「は、はめられた?」
プヨンはさっきまではフィナを疲れさせて申し訳ないと思っていたが、そんな気持ちは一瞬でふっとんでいた。
「ありがとう。絶妙のタイミングよね。どうしようか悩んでいたのよ。いくらでもって言ってくれて、ほんとに助かったわ。よろしくね」
フィナは何度もプヨンにお礼を言っていた。
そのころ、サラリス他数人と王子二ベロは和やかに談笑していた。すると、同席するヘリオンの耳元につけているマールス通信機経由でシグナルが鳴る。報告をがきたようだ。
マールス通信は魔力を使った通信手段の一種で、エネルギー波をオン/オフする符号で簡単な意思疎通ができた。
ヘリオンはそれとなく二ベロに少し中座するように目で促した。一度部屋を出て報告する。
「二ベロ様、先ほどユコナ嬢を調査させていた部下から報告がありました。例の馬車の件です」
ヘリオンは、ユコナを尾行させた者たちがどうなるかを調べるため、尾行者を尾行させていたらしい。
「ほぉ。それで?」
「3名は傷ついたシャツを手にしたまま、街道沿いに倒れているとのことです。その者たちの収容を手配し、交代してユコナ嬢尾行の任を引き継ぐということです」
ヘリオンは、報告から推測される無様さに顔をしかめたが、それも長くはなかった。
「あっさりと排除されてしまったのですね。ダメですね」
「申し訳ありません。引き続き、監視します」
王子二ベロは、再び席に戻ると、サラリスを見ながら話しかけていた。
「皆さんは、どのようなご友人がおられるのですか?」




