父兄訪問の楽しみ方 4
プヨンは、剣盾シャツを操作しながら、3人の尾行を撒こうと攻撃をしかけていた。
「プヨン、音や光じゃダメね。どうする?」
目眩しじゃダメだ。ユコナもそう言うので、ある程度実体のある攻撃をすることにする。
「ケンネル」
プヨンは、ゆっくりと慎重に、デュラパンの剣と盾を動かす。
慣れていないのでゆっくりとした動作ではあるが、剣と盾、シャツとハーフパンツを組み合わせて動かし、人が剣を振りかぶって攻撃するように、3人に襲い掛かった。
「うぉ、こいつ、打ち込んできたぞ」
「大丈夫だ。すごく、ゆっくりだ、問題なく避けられる。冷静になれ」
相手が言うように遅い動きだが、それはそれでかえって不気味に見えるのか、時間稼ぎにはなった。
それでも、3人は、プヨンがときおり起こす、破裂音や発光現象にも惑わされず、剣の動きをかわし、警戒しながらも打ち込んでくる。
カンッ、カツン
プヨンの木剣は、相手の剣で打ち払われ、そのたびに甲高い音がした。
「あ、プヨン、やるわね。なんとなく、剣士が戦っているように見えるわ。でも、ちょっと遅くない?」
「わかってる。でも慣れてなくて」
剣の打ち合いに入ったこともあり、ユコナはプヨンの操る剣と盾の動きを見つめている。夢中になっているのか、さらに身を乗り出してきて、前方を注視している。
プヨンは、ユコナにのしかかられる。
「うぅ、重力魔法か?」
聞こえないように嫌味を呟いた。
剣士と重力攻撃になんとか耐えながら、攻撃を続ける。相手が打ち込んできて、ユコナの服に当たりそうなものは、盾をぶつけてかわそうとした。
操る剣とプヨンが少々離れている上、木の隙間越しなので、なかなか、上手く制御できなかった。
相手が振り回す剣の動きは、うまく予測できない。遠隔操作で盾で受け止めるのは、思った以上に難しかった。
「思ったより、小さかったな」
ユコナに乗りかかられた上、隙間越しで視界も狭く、相手の攻撃に剣や盾を思うように当てられない。
防御用の盾はもう少し大きい方がよかったと思ったプヨンは、思わず呟いた。
「えっ?」
プヨンの背中に覆いかぶさるようにしていたユコナは、小さいに思わず反応した。ユコナは、胸があたらないように、それとなく体をひねって体勢を変える。
徐々に3人の動きが速くなってくる。こちらがさして効果的な攻撃をしないこともあり、状況慣れしてきたようだ。
3人もいる上、こちらの軽い牽制のような攻撃では、うまくあたっても致命傷にはならない。
相手の一発一発に力がこもり、軽い木剣や盾では、受けきれなくなってきて、弾かれてしまっていた。
その剣戟の応酬に、ユコナは再び見入ってしまい、プヨンの肩に乗りかかってきた。
「クッ。(盾が)小さい上に、なんて(一撃が)重いんだ。これじゃ、耐えられないな」
「えっ。重くて耐えられないの?ごめん」
プヨンの思わず出た一言に、ユコナは、慌てて立ち上がる。
急に、背中にかかっていた体重がなくなってバランスが崩れたプヨンは、集中していた剣と盾の操作のリズムが一瞬狂い、おかしな方向にいってしまう。
「いまだ、やれっ」
「うりゃー」
「あっ」
ユコナのお気に入りのシャツが、剣で貫かれていた。ハーフパンツも切り裂かれたようだ。
漂っていただけなら、布が揺れるだけですんだかもしれないが、プヨンの操作でしっかりと服を支えていたため、かえって傷を大きくしてしまった。
「えっ。なになに?どうしたの?」
プヨンの『重い』の言葉に反応して飛びのいたため、わずかに目を離してしまったユコナが、慌てて確認する。
「あーーっ」
お気に入りのシャツが切り裂かれたのを見て、ユコナは、小さく声がでてしまう。
「いまだ、ユコナ、離れたところに電撃を落とすんだ」
突然、プヨンから、指示が飛ぶ。
「えっ。えぇっ」
シャツが斬られたショックと、プヨンの突然の電撃の指示が重なり、何も考えられなかったユコナは、反射的に雷を出してしまった。
自然に発生する雷に比べるとまだまだ弱いが、制御されていない、いつもより大きな威力の雷が出た。
バリバリーン
ユコナが落とした雷で、あたりに大きな音が轟いていた。
ろくに狙いも定めていなかったため、少し離れた木の1つに落ちたようだ。それでも、その木の幹の一部から炎が噴き出していた。
幸い、とっさに出したため十分なキャスティングがなく小型ではあった。
それでも、人に直撃していたらかなりの大やけどをして、致命傷になっていただろう。直撃こそしなかったが、落雷の衝撃で3人は軽度の感電をしたのか失神し、その場に崩れ落ちていた。
プヨンも、思わず剣の操作が乱れる。
カランカラーン
木剣と盾を地面に落としてしまった。ハーフパンツとシャツは、尾行者の剣にからめとられ、突き刺さった刃先が、布を突き破って見えていた。
尾行者3人は倒れてしまったが、様子を見に行って顔を見られてもまずい。
直撃でないことは確かめていたから、おそらくショックを受けただけで、致命傷はないはずだ。
「よし、ユコナ、今のうちに、立ち去ろう」
「えっ。私のシャツは?」
プヨンは、ユコナの手を引き、林の奥に歩き出した。
ユコナは慌てて、シャツを取りに行こうとしたが、倒れた尾行者の前に姿を出すリスクは大きすぎる。しかも、シャツが剣で斬られたところを目撃してしまった。
事実を目の前にすると、どうしようもないが、ユコナは茫然とそれを見ていた。
「私のシャツが・・・お気に入りだったのに・・・」
(うぇーん、あのお気に入りが、こんなことでなくなっちゃうなんて・・・泣きそう。プヨンめ)
「ねえ、あのシャツって必要だったの?」
「え?」
ユコナは、プヨンを問い詰める。
プヨンは、背筋になにか冷たいものを感じたような気がして、ぞくっと身震いするのだった。




