父兄訪問の楽しみ方 3
「本日は、お招きいただきまして誠にありがとうございます」
サラリスや本日の王子による懇親会に招待されたメンバーは、一様に作法通りの挨拶をしていた。
そのまま、席に案内される。テーブル1つを囲む程度で、全部で10人もいない。文字通り、近くでゆっくりとお近づきになれるような場だった。
「そんなに緊張しないで、もっと気軽に話そうよ」
王子側は、本人である二ベロと、側近のヘリオンの2人しかいない。彼らが中心に座り、和やかに談笑がはじまったころ、プヨンとユコナも和やかに話し合いをしていた。
「プヨン司令官、作戦の説明をお願いします。追手を振り切るのですか?さすがに危害を加えるたら問題よね?」
「現地の担当者の独断により予想外の事態を招いてしまった。速やかに対応せねば」
ユコナは、プヨンを主犯に据えたいようだ。もちろん、その程度、織り込み済みのプヨンが冷静に切り返す。どちらにせよ、このまま放置はよくない。
先ほどまで薄曇り程度だったが、天気も2人の雰囲気も下り坂に突入する中、プヨン達は歩き続けていた。
尾行があるということは、その場だけしのげばすむとも思えない。撒こうというユコナの提案を受け入れたとしても、プヨンとしても力づくは避けたかった。
(それはそうよね、王子側の不敬調査の関係者だった場合、手を出したら、自白するようなものだし)
ユコナは、不敬調査の対象となることを恐れていても、露骨に敵対するわけにはいかない。
「そもそも、彼らはなぜ着いてくるの?」
「わ、私がかわいいから、かも?」
「なるほど、自分が追われているのはわかっているんだ」
「う、うぅ」
事情はよくわかっていないプヨンだが、不用意に仕掛けるのはまずい、その点は同意できた。ただ、一方で、名乗らずに尾行していたのだから、不審者だと思ったから逃げましたも通用するはずだ。
「そ、それはそうですね。間違っても、私が危害を加えたと思われてはいけません」
「それはそうだ。追われる『ユコナ』が、危害を加えたら大変なことになる」
それとなく、『ユコナ』のところに、力が入る。それを察したのか、
「プヨン、彼らがついてこれないように、危害を加えないで、動けないようにしてしまいましょう。絶対に、私たちがしたと思われてはなりません」
「は?達っていうな」
お前は、何を言っているんだと露骨に顔に出し、ユコナの主張の矛盾をアピールするが、ユコナには華麗にスルーされ、何度もお願いされてしまった。根負けして、
「わかったよ。ちょっと試したいこともあったし、いつまでも、付いてこられるのもなんだしなぁ。ただ、ちょっと貸してもらいたいものがある」
「さすが、プヨン。わかってくれましたか。それで、どうするのです?」
「いや、大したことじゃないけど、ちょっと持ってきているカバンから室内着を貸してよ。そこに見えているでしょ」
ユコナのカバンの上に、最後に詰めたのか、室内着が見えていたので、それを借り、尾行を撒く方法を思いついた。
「こんなもので追手を撒けるのですか?室内着用のシャツとハーフパンツですよ?でも、これお気に入りなんですよ。デュラエー仕立てなんですよ?絶対返してくださいよ?」
デュラエーとはなんのことかわからなかったが、仕立て屋の名前だろうか。
それより、気になったのは、いつの間にか尾行から追手に変わっている。ユコナにはやましいことがあるに違いないと確信したプヨンだったが、そこには触れず、
「うん、思いついた方法があるんだ。相手を大きな怪我はさせないと思う。じゃぁ、道を外れて、あそこの茂みまでダッシュだ」
そういうと、100m離れたところにある林に向かって走り出した。
「あ、ちょっと待って」
慌ててユコナもついてくる。
そして、急に走り出したプヨン達に気づいた、尾行の3人も、後を追いかけてきた。あからさまだったが、今さら隠しようもないのか、見失うことを問題にしたようだった。
プヨンとユコナは、林の中の小藪の1つに身を潜めた。木の隙間から、尾行者達が追いかけてくるのが確認できた。
「じゃあ、シャツだして」
「わかったわ。で、どうするの?」
そういうと、プヨンは、ストレージから、以前、レスルでもらった練習用の木製の剣と盾を取り出した。
そして、ユコナの出した、シャツとハーフパンツを受け取る。
「ネルネルネルネ」
剣と盾、そして、ユコナのシャツとハーフパンツを、ネル魔法で、空中に浮かべ操る。
ケンネルやタテネルなどの魔法の応用だ。
遠目に見ると、空中に浮かんだシャツとハーフパンツが、剣と盾を持っているように見えた。首や手足がないが、人のように見えなくもない。
(これで、ユコナが絡んでいる証拠ができた)
プヨンはニヤッと心の中でほくそ笑むが、もちろん、表情に出すことはなかった。
まだ、複数のものを同時に操作するのには慣れていないため、動きが緩慢なうえ、思った通り動かせないが、尾行を撒くおとりには十分使えそうだった。
「プヨン、わかったわ。その、模擬剣士で、何かするのね」
「うんうん。最近練習してた浮遊剣魔法を使ってね。デュラエー製のハーフパンツだから、デュラパンと名付けよう」
ちょうど尾行の3人が林に入ったところで、プヨンは、デュラパンをそっと小藪から出して、近づけていった。
木の隙間から、様子を見る。
3人は、プヨンとユコナを見失ったのか、どちらにいったのか、様子を伺っているようだった。そこで、剣と盾を持ったシャツに気が付いた。
「な、なんだ、あれは?」
3人のうちの1人の顔が見えた。見た目は、20代半ばくらいだろうか。身なりは華奢に見えるが、俊敏な動きで身構え、残りの2人に散開するように、目で合図を送っている。
「プヨン、どうなっているの?」
「うっ。おもっ」
「えっ?」
小声でユコナが呟きながら、プヨンの肩口越しに、小藪の向こうを見ようとしてきた。悪気なく背中に飛び乗られてしまう。重みがもろにかかる。
もちろん、プヨンも悪気なく、思ったことが口に出てしまった。プヨンは、そののしかかられた衝撃にこらえつつ、
「イーエスディー」
パパン、パパパパン
小さな雷を多数打ち出し、放電現象を応用して、ラップ音を発生させる。
「う、うぉぉぉー、なんだ。敵襲か」
「うろたえるな。実害はないぞ。冷静になれ」
突然の放電による、火花やパチパチ音、破裂音で3人は一瞬驚くが、ダメージがないことを確認し即座に警戒状態に戻る。
「や、やるわね、プヨン。でも、あっちもすぐに冷静になるってことは、素人じゃないわね」
プヨンの背中にもたれかかったユコナが、状況を分析する。
「ロイヒテント」
先ほどのイーエスディーでも火花を散らせたが、空中の電子を励起させ、より多彩な発光現象を起こし、いろいろな色で、明滅させる。
時には、大きな炎のような赤や青の光を出す。
「う、うわぁ。火が付いたぞ」
3人が慌てているが、これも、実害はなく、やがて冷静になった。あまりこけ脅しは通用しないようだ。
「ま、魔法か?あの剣からの攻撃なのか」
「大丈夫です。たいした被害はありません。防御できています」
彼らは声にだして確認しあっている。やはり、見た目や音だけじゃ実害がない。思うほどの効果がなく、あっさりと撒くことはできそうになかった。




