父兄訪問の楽しみ方 2
サラリスが第一王子に呼び出された日がきた。
当然と言えば当然だが、サラリス1人が呼ばれたわけではないようだ。王子やサラリスと同世代の町の有力者数人が呼ばれたらしい。
サラリスは、当初、ユコナが呼ばれていないことを気にはしていた。ただ、呼ばれていないユコナが行くと迷惑になると強く言い張ったこともあって、今は気持ちが固まっている。
招待される。本来なら無条件に喜ぶべきことではあるが、いろいろと準備もいる。面倒なことや、場合によっては悪目立ちするリスクもあった。
サラリスは、どちらかというと目をかけてもらえたことを素直に喜んでいたが。
待ち合わせ場所にいく。ドレスアップしたサラリスはわかるが、なぜか旅支度に近い恰好で来たユコナ、対照的な2人がいた。
サラリスは、簡単にと言われていたらしいが、失礼のないようにするためか礼装に近い。
一方、ユコナは、王子に会うことはないが、どこまでいくつもりか、探検にいけそうな格好だった。。
「なぁ、サラは緊張してないの?」
「うーん、そんなにしてないわ。今日会う皆様も、見かけたこともないってほどでもないし、年齢的にも近いからね」
今日のサラリスからは、普段のやんちゃぶりはすっかりなりを潜めていた。
じっとしていると、おしとやかな令嬢に見えなくもない、高貴な雰囲気を醸し出していた。場慣れしているのか、なにか、余裕を感じる。
「なによ?言うのは自由よ」
「いや、似合っていると思います」
「そうでしょ、これでも作法は得意なのよ。普段の方が偽りの姿なの」
プヨンは見慣れないサラリスに少し違和感があったが、サラリスの仕草は十分板についていた。
それに、サラリスが言うように、今日は、本当に気楽な集まりらしい。
富裕層が会食するときによく使われる、それなりに格調高い場所ではあるが、あらかじめ予約すれば誰でも入れる店だ。
1:1で屋敷に招待とは違うらしいし、序列などもない。個室だろうから、周囲を気にする必要もない。感覚的には、プヨンがレスルの依頼で偉い人に会う場合と似ているようだ。
「プヨン達もきていいんじゃないのかなぁ。ユコナだって、一度はゆっくり話してみたいって言ってたのに、どうしてこないのかしら?」
サラリスは、より楽しむためにも、せっかくの機会を活かすためにも、ユコナを何度も誘っていたが、ユコナは、取りつく島もなく、かたくなに拒否していた。
「いいのよ。私は名前がなかったし、迷惑かけちゃ申し訳ないしね。また次の機会を待つことにするわ」
「そうかぁ、まぁ、ちょっと急だしね。いきなり押し掛けるのも、あれだしね」
一方、プヨンは、ユコナから聞いた情報から、サラリスが父兄と会うだけと思っていた。
集まる指定場所も誰でも使うようなところであり、そこに連れて行ってやればよいだという認識だ。
すでにある程度ワゴン車の操縦に慣れており、緊張感もいらない楽な仕事と思っていた。
「プヨン、わざわざありがとうね」
「ご丁寧に、ありがとうございます。でも、すごいなー、サラは、気合が入っているなー。本日は、安全運転に努めさせていただきます」
作法も何もなく、いつものように『連れて行ってよ』などと言われた方が、よほど気楽にしゃべれるのにと思いながらも、ドアを開け、ワゴンの中に入れるよう、段差をあがるのを手伝った。
そして、ユコナは、やはりというか、プヨンのとなり、御者席に乗り込んできた。
「中には乗らないの?サラ、1人じゃないの?」
「サラ、ちょっと集中力を高めているみたい。邪魔したら悪いから」
「しゅ、集中力?やっぱり、気合いるんだね。でも、せっかくの機会なのに、ユコナはどうして一緒にあわないの?サラの親にもしばらくあってないんでしょ?」
「だいじょうぶだいじょうぶ。ゆっくり水入らずがいいと思うの」
あえて水入らずというユコナ。サラリスは、今日をきっかけにいろいろと期待することがあるようだ。それに対して、ユコナはあえて遠ざかろうとする、真逆の行動にしか見えなかった。
(もしかして、自分と同じで、筆記試験の結果が悲惨で、会って聞かれたくないとか?)
先日の入学試験で、筆記が悲惨だったと聞いたプヨンは、ユコナが会いたくない理由も勝手に察し、あまり突っ込んで聞かなかった。もちろん、見当違いだったが。
サラリスの乗ったワゴン車を出発させる。街中ではふつうにワゴンを引っ張り、車輪でごとごとと揺らしながらゆっくりと進んでいく。
馬なしは物珍しいのか、行き交う人たちの多くが振り返る。
そして、すぐに、約束の場所についた。プヨン達が降りてサポートしなくても、店の人が迎え出てくれ、優雅に降り立つサラリスだった。
「じゃぁ、サラ、しっかりがんばってね。ワゴン車は、置いといたら、あとでルフトさんが引き取りに来てくれると聞いているわ」
「うん、ありがとう。今日の帰りは王室の馬車で送ってもらえるらしいのよ。すごいでしょ」
王子側が用意した馬車で、優雅に町を一回りして、希望するところで降ろしてもらえるらしい。どんなものか、プヨンもちょっと見てみたかった。
サラリスの送迎が一段落すると、ユコナが急かしにきた。
「さぁ、プヨン、急いでいきましょう。ぐずぐずしていられないわ。とりあえず、どこにいくの?」
「そ、そんなに急がなくてもいいんでは?まぁ、とりあえず、フィナのところにでもいこうかな」
「フィナさんね。いいわ。まずは、町から脱出よ」
何をそう焦る必要があるのかわからないが、プヨンはおとなしくユコナの言うことに従った。
ユコナとプヨンは、急ぎ足で町はずれに向かう。特段何ごとも起こらず、ひたすら歩いていくが、プヨンはすぐに気づいたことがあった。
(一定の距離をとっているけど、ついてきてる人がいるよね。2人か、3人か。距離があるから、顔まではわからないけど。ルフトと違って見えているから、隠れるつもりはないのかな?)
そして、町を出たところで、ユコナがそれとなく腕を掴んできた。プヨンを引き寄せつつ、小声で話しかける。
「プヨン、気づいていますか?後ろから、ついてきている人達がいますね。あ、後ろ振り返っちゃダメですよ」
唐突に尾行がいると言われた。プヨンには理由がさっぱりわからないが、ずいぶん前から気づいている。
姿を隠しているわけではなさそうだったので、特に、人気が減った町の外周部に入ってからは、わかりやすかった。
もちろん、町を出てからは、見晴らしもいいからか、一定距離以上には近づいてこないので、様子を見ていた。
あちらは、外套というのか、ローブのようなものを着こんでいる。顔も埃避けのような布で覆っているのでよく見えなかった。
「いや、気づかなかったよ。さすがユコナだね。何か心当たりがあるの?」
しらばっくれて、ユコナの出方を窺う。
「えっ。い、いえ。心当たりはないですよ。どこからかは、わからないですけど、いつからなんでしょうか」
(サラリスと別れてすぐなんだから、サラリス絡みなのか?ちょっと、確認してみようか)
「サラリス絡みなのかな?もしかしたら、ユコナが何かしでかしたとか?」
「えっ?」
プヨンがそれとなく探りを入れてみると、あきらかに動揺するユコナ。あっさりと、心当たりがあると教えてくれているようなものだ。
(きっと、尾行があるとしたら、先日の馬車を飛び越えた件の調査しか、考えられないわ。なんとか穏便にすませないと)
ユコナも思い当たることがそうそうあるわけでもない。1つしかなかった。
「き、きっと、不敬の調査絡みに違いありません」
「父兄絡みなんだ。俺がいうのもなんだけど、おとなしくごめんなさいしたほうがいいんじゃないの?」
ふけいの言葉から、ユコナが粗相してと思っているプヨン。
「どうして、そんなに他人事なんですか。プヨンも、十分絡んでるんですよ」
「えー、絶対、関係ないと思うよ。怒られるのはユコナだけじゃないのかなぁ」
「私が捕まったら、絶対、共犯者がいたって言うわよ。今も一緒にいるんですから。さぁ、撒いてしまいましょう」
「あっ。こっからは、別々に生きよう。さよなら」
腕を振り払って逃げようとしたが、しっかりと掴まれていた。筋力強化もかけているに違いない。ユコナからも尾行からも逃げられそうになかった。




