父兄訪問の楽しみ方
2日後、プヨンは、いつもの教会の裏でぼーっとしていた。
今日も引き受けたレスルの依頼をやらないといけないが、まだ少し時間がある。
それまでの時間つぶしだ。以前は、よく、炎と冷気の魔法をぶつけあう練習、『アキラクン』をしていたが、最近は、ちょっと違う練習もしていた。
ストレージから、以前、自分で手を加えて作った、クリスタル製の短剣を4つ取り出す。
それとあわせて、手のひらサイズの小型の金属製の盾も4個取り出した。
最初は、ただ、剣と盾を、炎と冷気のように、同じように動かしてぶつけていただけだった。
もとは、氷などを投げつける『リーベン』や、ものを持ち上げたりする『バターアップ』などの応用だ。
『ケンネル』、剣を操作する。『タテネル』は、盾を動かす。
やっている中身は一緒で動かすものが違うだけだ。動かすものに応じて、名前だけ変えて遊んでいた。
そのうち、まとまった砂を動かす『サンドネル』や、液体を動かす、『エキネル』にも挑戦したかったが。
もちろん、まだ滑らかな動きには程遠いし、液体のような形のないものはより難しそうだけど。
今日も、4組の剣と盾を使い、ペアの模擬戦闘をしていると、にこにこ顔のサラリスとどんより顔のユコナが揃ってやってきた。
「プヨン、いっつも暇そうね。それは、何してるの?」
「オレとオマエは、似て非なるものだ・・・。俺は忙しい。ちょっとペア戦の模擬練習をしていたんだよ」
もちろん、オマエは暇だろうとたっぷり強調したつもりだ。
「プヨン、けっこう器用ね。よくまぁ、4体ばらばらに動かせるわね」
ユコナが感心したように、剣と盾の動きを見つめている。
まあバラバラに動いているように見せかけて、思うほどうまくはない。そう早い動きではないが、それぞれを独立して動くように見せかけるには、それなりに苦労した。
「で、わざわざ、ここまで、暇の確認に来たわけじゃないんでしょ?何かあるの?」
そう聞くと、
「いっつも遊んでるプヨンに、遊んでるように見せかけて働いている私がお仕事を持ってきてあげたのよ」
サラリスが、なぜか、誇らしげに胸を張って背筋を伸ばしている。
「なんと、第一王子の二ベロ様が、視察の帰りにこの町に立ち寄られて、一緒に私とお茶したいとお申し出があったのよ。お付きのヘリオン様が言うには、どうも、今度の学校で同級生になるらしいからという話だったわ」
「え?そうなの?ほんと?サラだけなの?」
突然の話なので、思わず、まくしたてるように質問してしまう。それを、プヨンが驚きのあまり動揺していると思ったのか、サラリスは、あわてるプヨンを見て満足そうだ。
「そうなの。他にも、数人、同級生となる者たちとお会いされているらしいわ。ユコナも誘ったけど、名前が私だけだったから、ユコナはどうしても避けられない用事があって遠慮するんだって。もったいないわよね。だから、私を、例のワゴン車で送り届けてほしいの」
「もちろんだよ。まかしといて」
プヨンも、直接会うわけではないが、サラリスが喜んでいるので自分もうれしくなり、快く送り届けると承諾した。
ユコナが辞退するのはもったいないとも思ったが、いろいろ事情があるのだろうし、そもそも呼ばれてないのに行くのも不躾かもしれない。もしかしたら、そういった場が苦手で喜んでいるかのかもしれないが。
「じゃぁ、私、ちょっと準備があるから、戻るわね。ユコナは、ユコナで用事があるんだって」
サラリスは戻っていったが、何気に、ユコナは、帰らず残っていた。妙にそわそわしている。
「ユコナは、ユコナで、何か用事でも?それも、サラリスには聞かれたくないような?」
意図を察して、それとなく、話を切り出すきっかけを振って促してやると、
「プヨン、もしかしたら、まずいことになったかもしれないわ」
と、ゆっくりと言葉を選びながらも説明を始めた。
ユコナの顔は、やや青ざめているようにも見える。
ユコナが思う背景をよくわかっていないプヨンだったので、何がまずいのか、話を聞いたところでは、
「サラリスは、王子様が招待されたって喜んでいたけど、もしかしたら、今回の訪問は、サラリスの不敬の調査かもしれないわ」
ユコナは先日、王子一行と思われた馬車の頭上を飛び越えたことを気にしていた。もちろん、プヨンは、そのあたりはすっかり記憶から消え去っていた。
この国は、地方分権がらみで、他の国に比べるとそこまで権威にうるさくはないが、それでも、王族は王族だ。そこをユコナは気にしているようだ。
「そうなんだ。サラリスの父兄が絡んでいるんだね。親も絡むとなると、それは大変かもね」
「そ、そうよ、きっと、サラのご両親もこられるかもしれないわ。どうしましょう」
ふけい違いだが、ユコナの説明から、プヨンはユコナは親がくることを嫌がっているのだと誤解する。親絡みとかになると、それはいやだろう。
「ユコナも同席するんでしょ?サラの父兄なら、ユコナも顔見知りでしょ」
「不敬が絡むかはまだわからないの。わたしの心配しすぎかもしれないし。それに私は、名前がなくサラだけだったから、別の意図があるのかも」
その後、ユコナはいろいろ背景を含めて、説明をしてくれた。
今回のサラに依頼のあった、第一王子の二ベロは、長子であり、知的で行動力もあり、国民受けはよかった。ただ、身分の低い側室の子であることから、立場上、支持層が弱いこともよく知られていた。
今回、第一王子はプヨン達と同じ学校に行くことになっていると聞いている。試験の時もそうだが、同級生になることを喜んでいる者たちを何人も見た。
しかし、軍を統率する教育の一環としてなら、本来なら正統派である貴族向けの士官学校が王都にある。
わざわざ僻地の学校に行くのは、なんらかの意図があるに違いない。ユコナは、あらためて、いろいろと憶測について教えてくれた。
誰も他にいないのに、小声で話すのが、少し滑稽だったが、本人はいたって真剣なようだ。
「あんまり表立っては言えないんだけどね」
何度も言うユコナ。
ユコナの認識では、そうした事情もあって、第一王子派は、王子をなんとか支えようと、常に、周囲の王子に対する扱いに敏感ならざるをえないらしい。
案内状にあったヘリオンとは、王子の幼馴染の一人で、そうした取り巻きのうちの一人、門閥の侯爵家の子息だと、ユコナが教えてくれた。
もちろん、不敬と父兄を混同しているプヨンは、サラリスの両親の調査など知ったことではないと勘違いしていたが、不敬調査に違いないと思っているユコナには由々しき事態だ。
「もし、不敬の件で私が呼ばれたら、プヨンも呼ぶからね、覚悟しといてね」
ユコナの爆弾宣言が発せられた。1番言いたかったことだろう。
「え?なんで、サラの父兄絡みで俺が呼ばれるんだよ。身内でなんとかしないと?」
「なんでって、プヨンが主犯だからよ?」
「えぇ? 主犯ってめちゃくちゃじゃないの?とばっちりすぎる・・・何を覚悟するのやら」
まさか、親に会わせるため呼び出されるとか、『寝耳に水』過ぎる。なんとか回避方法をとプヨンが考えていると、
「そうだ。明後日は、俺、学校に届け物をしないといけなかった。石を持って行かないといけなかった」
とりあえずの言い訳を思いついた。そのまま言ったところ、ユコナもわたりに船とおもったのか、
「そ、そうでした。確かに、石を事前に持参するように言われていました。わたしも持っていきます。こんな大事な用事を忘れていたとは。プヨン、私も、同行します」
「え?一人ででき・・」
「同行します!」
なにやら、ユコナは1人で解決策を見つけたようだ。それに、プヨンは強引に巻き込まれることになってしまっていた。




