電気魔法の使い方 3-1
プヨンとユコナは自体が呑み込めず、固まっていた。
「どういうことでしょう?」
「さぁ?」
ユコナが聞いてくるが、プヨンも状況がわからず、答えようがない。岩同士をぶつけたら、勝手に喜んで、勝手に盛り上がっているといったところだ。
ガンオーからは、あふれんばかりの喜びの強い気持ちが、ほうっておいても伝わってくる。
「あぁ、今日ほどの至福はない。いつか、1つになりたいと思い始めてから、長かった。それが、まさか、今日とはな。たしかに、ツベルグ達が言っていた。いつか大地の神の恩寵があるだろうと。その方たちが大地神のゆかりの者たちだったとは・・・」
ツベルグというのは、さっきガンオーが言っていた、以前、このあたりにいて鉱物を採掘しながら、ガンオーを崇めていた者たちのことなのだろう。なにやら相当勘違いしているところもあるが、もとが理解できていないのに、そこを謙遜してもまともに説明できるとは思えない。
ここは、あえて触れないほうがよいと判断した。ユコナも、こちらを見てうなずく。今日は、プヨンとユコナも、部分的にだが言葉に出さずとも意思疎通ができていた。
「プヨン、なんとなく、このガンオーは、もう1つの岩のことがずっと気になっていたってことよね?それをプヨンがぶつけて、密着させたから、喜んでいるということ?」
「たぶんね。他に解釈のしようがない」
念のためか、ユコナが耳打ちしてくる。プヨンの理解もおおむね同じだった。うんうんと頷いて返しておいた。
状況が整理できてくる中で、ユコナは、どうしても疑問に思うことがあった。聞くかどうか、迷ったが、
「ねぇ、プヨン、あそこのガンオーさんに1つだけ聞きたいことがあるんだけど?ガンコさんは、了承済なの?」
ユコナが、本人には聞きにくいからか、なぜかプヨンに聞いてくる。プヨンとユコナの以心伝心はあっという間に終了した。やはり、思うだけでは意思が伝わらないため仕方ないが。
(ガンオーのことならガンオーに聞けばいいのに)
とプヨンには思えた。ただ、ガンオーの意思は頭に浮かぶが、ガンコと呼ばれたもう一方の岩からは何も感じなかった。
ユコナがそう頭で思い描いたことを感じ取ったのか、ガンオーから、
「そんなことはないぞ。ガンコは、玄武岩体質で身持ちが固いのだ。気持ちは伝えていたのだが、我が近づくと同じだけ遠ざかるのだ。2人の距離はいつも変わらなかった」
過去を思い出しているのか、ガンオーの言葉が途切れる。
ユコナの、それってダメなんじゃという視線は無視したが、説明をそのまま受け取ると、少なくとも、お互い石同士で意思を確認できていることはわかった。
「しかし、融通が利かない頑固さもかわいいのだよ。そなたらのことも理解した。こちらから何かをすることは、もはやないと誓おう。」
そういうと、ガンオーの大岩の中ほどから、なにやら光で黄金色に輝くものがでてきて、地面に落ちた。
「それは、礼だ。撤饌(てっせん=供え物のおさがり)だ。そなた達は、そういうものを喜ぶと聞いたのでな」
よく見ると、こぶし大の金の塊が地面に落ちていた。
「石について困ったらなんでも相談してくれ」
「ありがとうございます。もし、差し支えなければ、あの1段高いところに鎮座していただき、この鉱山の守り神となっていただければ、幸いです」
ユコナは、とまどいながらも、このまま断るのも角が立つと思ったのだろう、地面に落ちた金を受け取り、適当な場所として、通り道から外れたところを指さした。
「そうか。わかった。では、少し時間がかかるが、あそこに鎮座するとしよう」
「よろしくお願いします」
ユコナは、うまく邪魔にならないところに、ガンオーに移動してもらうことをお願いできたようだ。ゆっくりとした移動になるらしく、時間がかかるだろうが、そのうち、道も解放されるのだろう。
一通り話したいことは話できた上、うまくまとまった。プヨンとユコナは、お互い頷きあうと、デポン達のところに戻っていった。
デポン達は、プヨン達が戻ってくるのを見て安堵していたようだが、さっそく、どういうことなのかと、説明を要求された。
「どうなったのでしょうか?先ほど、『ガンコー』というのが頭に突然浮かび上がりました。ここにいる全員が同じ現象を感じたようで、今、皆で相談していたのですが」
代表して、デポンがユコナに尋ねていた。
「大丈夫です。あちらは、ガンオー様と名乗られました。このあたりの鉱物でもっとも権威のある方のようです。私たちのことをお伝えしたところ、理解していただき、さらに、これからもこの鉱山の守り神として、見守って頂けるとのことです」
「ほ、本当ですか?しかし、いったい、どのようにして。しかし、それが本当なら、どうすればいいのでしょう?」
「え?そ、そうですね。ガンオー様には、あちらの高台のところに移動いただくことになりました。移動されたら、何か、お祀りすればいいのではないですか?」
「ありがとうございます。早速、そのように取り掛かります。ユコナ様にきていただいて、よかった」
ユコナがうまく立ち回ったことを説明でき、デポン達も安心したようだ。
その間、プヨンは、ガンオーとの会話を思い出しながら、いくつか気になったことを再確認していた。
(なぜ、ガンオーは、プヨンやユコナの意思が読み取れたのに、プヨンは、ユコナの意思が聞こえなかったのか。ガンコも聞こえないが、ガンオーは聞こえているようだ。距離の問題なのか、それとも、通じ合う慣れや親密度などがあるのか・・・。まして、デポン達はほとんど聞こえていないようだった)
プヨン自身は明確にははっきりと覚えていないが、ずっと以前に(自称女神)のマジノと話をした時には、言葉にせずとも意識体同士で意思疎通ができていた。
詳細な言葉のような会話はできなくても、意思を向けあうことで好意や敵意などを伝えることはほぼ誰でもできる。
以前、ユコナとプヨンでやったマジノを利用し、自分の意識を伝えるスピンカム通信機もそうしたものの強化といってもいいかもしれない。
あとは、伝え方や慣れの問題があるだろうが、上達していくと、より細かい情報を伝えたりもできそうにも思える。
これも、もっと研究する価値はあるのかもしれないなぁ。プヨンは、そう思った。




