鉱物の取り方 4
大岩は、ガンオーと名乗った。もっとも、頭にそうイメージされただけで、言葉で聞こえたわけではないが。
それを受けて、プヨンは返事をするが、声に出せば伝わるのかよくわからない。
フィナのような植物は、超音波を利用して会話ができていたが、さきほどのガンオーは、一瞬で映像を見るかのように、頭に意思が浮かび上がった。
「どうするのです?」
「どうしたらいいのか?」
すぐに思いつかないが、頭の中で、『俺はプヨンだ』と、何度も強く念じてみたり、文字を浮かべたり、鏡の自分の姿を思い出したりしながら様子を伺う。すると、
「そうか。プヨンというのか。たしかに、お前たちからは敵意は感じていなかった。さらに、我の岩弾狗をしのぐとはなかなかにあっぱれ。ここにきて、4500回目の夏になるが、あれをかわしたのはお前で6人目だ」
岩弾狗とは、さっきの溶岩弾のことだろう。追い払うため、狗でもけしかけているつもりなのか。
プヨンは、それを聞くと、ユコナのほうを振り返る。目を輝かせ、『俺、やったぞ』をアピールをするためだ。大事なのは、プヨンの名前が返事にあったことだ。
(お、おぉぉ、伝わった)
もちろん、ユコナにもガンオーの意識が届いているのだろう。伝えることができたことは理解したようだ。
しかし、この声というか意識はデポン達には届いていないのか、怪訝そうな顔をしている。
「して、何しにきたのか?」
ガンオーが訪ねてきた。
プヨンは、デポン達から聞いていた、このあたりの鉱物を取りたいこと、近寄ると攻撃されて困っているが、危害を加えるつもりもなく、こちらにも何もしてもらいたくないことを、頭の中にイメージしてみた。
「そうか。以前、このあたりには、お前たちとは違う意思を放つ生き物がいた。よく鉱物を掘っていたな。その者たちは、ジーベンツベルクと言っていたが。その者たちは、我を崇めていた。400回ほど前の夏頃にいなくなってしまったが。今はお前たちというわけか」
「そのようなところです」
ガンオーは、以前、このあたりで鉱物を掘っていた生き物がいて、その生き物達がガンオーを祀っていたと言っているようだ。
「では、我に供物をささげよ。さすれば、汝らの守り神となろう」
「え?供物? 何をささげればいいんだ?」
慌ててユコナを見るが、ユコナも茫然としている。そもそも何も持ってきていないが、何を供物にすればいいかも、想像がつかなかった。
しばし、沈黙の時間が流れる。やがて、何もしないプヨン達に、ガンオーはしびれを切らしたようだ。
「供物をささげる気はないということか。ならば、立ち去るがよい」
先ほどと違い、頭に浮かぶ意識に、殺気のような負の感情が混じる。機嫌を悪くしたようだ。再び、周りの石のいくつかが、赤熱していくのがわかった。
咄嗟に後ろに飛びのき距離をとろうとすると、もう1つの黒い大岩が目に入った。
(そうだ、この岩同士をぶつけてやれば、砕けるのでは?)
そう判断し、黒い大岩をガンオーに向けて投げつけようと考えた。
「ハルストン」
投げようとしたが、直径1m以上はある大岩だ。
プヨンなら十分持ち上げられる重さだが、10トン以上はある。集中して持ち上げたが、距離が少しあることもあり、とりあえず、浮かび上がっただけだった。それでも、ユコナは十分驚いた顔をしているが。
「な、どう、浮かぶの」
ユコナが意味不明なことを言っているが、前に集中する。
持ち上がった石をなんとかガンオーに向けて動かす。少しずつ速度が増し、ガンオーに向かって飛ぶというよりは空中を移動していった。
ガンオーは、避けられないのか、なぜか、動かず、攻撃もせずじっとしていた。そして、まさにぶつかる瞬間、
「ガ、ガンコー」
「うっ」「ひゃぁっ」
さっきの会話時とは比較にならない強烈な意思を感じた。
ユコナも同様のようで小さい悲鳴を出す。後ろのほうで、デポン達の声も聞こえるから、今の意思は、他の人たちも感じたようだ。
ドガーン
黒い大岩は、ガンオーにぶつかった。ガンオーのほうが柔らかいのか、受け止め、めり込むような形でくっついてしまった。
勢いが弱かったからか、砕け散ることもなかった。
しばし、沈黙が訪れる。ガンオーは反応せず、プヨン達も、動くに動けず、立ち尽くしていた。
やけに長く感じたが、それでも、せいぜい1分程度か、再び、ガンオーの意思を感じた。
「ガンコ・・・、もう離さないぞ。今日から一緒だ」
(なんだ???)
ガンオーから殺気が消えていた。むしろ、歓喜の意思を感じる。プヨンとユコナは何度もうなずき合ったが、結局何も理解できず、様子を見ていた。
やがて、
「プヨン、汝の意思、しかと受け取った。そなたのおかげで、かねてからの願いが、大岩成就したぞ」
疑問符が浮かび上がるばかりで話しについていけず、プヨンとユコナは、ただ、見つめ合うばかりだった。




