鉱物の取り方 3
プヨンを先頭にして、少し遅れてユコナがついていく。慎重に2つの岩の1つに近づいて行く。
「ユ、ユコナ様、危ないです。お戻りください」
デポンが慌ててユコナを引き留めようとした。しかし、声掛けしただけだった。本気で止める気はなさそうだ。
(え?それだけ?危ないんじゃないのか?力づくでは止めないのか?)
デポンは、あわよくば、岩盤のようにうまくやってくれと考えてそうだ。プヨンは笑いそうになりながらも、デポンの意思を酌み取ることにした。
(さっきの話だと、弾き飛ばされるのかぁ。あとは、岩だよなぁ。石が飛んでくるとか?)
プヨンは、さっきのデポンの説明を思い返しながら、起こりそうなことを予想する。
(とりあえず、万が一後ろに飛ばされそうになったら支えられるよう、自分の背中を支えておこう)
「リフティング」
ものを持ち上げる魔法を応用し、背中を水平方向に支えられるように準備した。その時、
「ねぇ、プヨン、何か聞こえない?」
「え? 聞こえるって?」
急に後ろからユコナに話しかけられた。音や声はしないので、どういうことかと問い返そうとすると、
『こちらにくるな』
声がしたわけではない。突然、頭の中に意識が浮かび上がった。
一瞬、自分でそう思ったのかと勘違いしたが、あわててユコナを見ると、ユコナもプヨンを見て頷いた。
「もう少し行くよ」
気を取り直して、ユコナにそう言うと、より注意しながら、ゆっくりと近づいていった。
2歩、3歩、進む。
予測はしていたことだが、突然、プヨンは、体が軽くなり、浮き上がるように感じ、思わず声が出た。
「あ、あぶなっ」
鉱夫達が弾き飛ばされたと言っていた件だと瞬間で理解した。
(バターダウン)
咄嗟のことで、声に出せず心の中で魔法をイメージし、プヨンとユコナの体が浮かないように地面に押さえつけた。
「うわっ」「ひゃっ」
しかし、ユコナの安全を優先したから、プヨン自身はおろそかになり、数m後方に飛ばされた。
風圧ではなく、直接弾き飛ばされたようだ。体勢を整え、なんとか足から着地する。
ユコナも、同じように飛ばされたのだろう。悲鳴をあげるが、少し後ずさりしただけで、立っていることができていた。
「プ、プヨンさん、身が軽いんですね。大丈夫ですか?飛ばされないように気を付けてくださいよ」
「え?あぁ、大丈夫」
遠くから、見ていたデポンの声が聞こえ返事をした。
身が軽いのところで、一瞬、ユコナがびくっとしたようだ。さっきの衝撃では、ユコナはほとんど動かなかったので、寂しそうにデポンを見つめていた。
気を取り直したユコナに、
「飛ばされないように注意して、もう一度行こうか」
と聞くと、ユコナが、
「私も、飛ばされそうになったんだけど、どうして、プヨンだけ、飛んだのかしら・・・?」
と聞いてきた。
「あぁ、飛ばされないように、抑えつけていたんだけど、ユコナを優先したから、自分のが間に合わなくてね。どうして?」
「え? いえ、そうなのね。なんでもないわ。行きましょう」
何か気にしていたものがスッキリしたのか、ユコナの表情は明るくなった。
再び、ゆっくりと歩き出す。
『こちらにくるな』の意識は頭に浮かび、何度か、体に衝撃を感じたが、今度は十分に身構え、体を支えているためか、わずかに揺れる程度ですんでいた。
あと、10mをきった。
そこで、大岩の上に、うっすらと白い煙が立ちのぼっていることに気づいた。さっきまでは、そんなものはなかったはずだ。
同時に、大岩のすぐそばの地面の石が数個、真っ赤になっていることに気づく。
「ユコナ、気をつけろ」
振り返って叫ぶと同時に、真っ赤にとけた石がゆっくりと浮かび上がっていく。
溶けた石の一部がしずくのようにぽたっと垂れ落ちた。単なる火球と違って、実態のある灼熱の石だ。あれがあたると、溶けた鉄をあびるようなものだろう。
しかも、液体状になっているだけに、うかつに盾などでとめても飛び散るだけに思えた。
「プヨン・・・」
ユコナも気づいたのか、名前を呼ばれただけだが、何を言いたいのかはよくわかった。
(あれがあたると非常にまずい気がする)
予想通りだが、溶岩弾の1つが動き出し、先頭にいるプヨンに向かって飛んでくる。
「レピュテーション」
プヨンより先にユコナが反応する。おそらく、あらかじめ備えていたのだろう。飛んでくる岩の前に氷板を出した。
「デルカタイ」
やや遅れて、プヨンも溶岩弾を防ぐため、防壁を張った。
空中の窒素分を集めて冷やし、液体状にし、厚さ50cm程度の窒素の水壁を作った。窒素が気体から液体にすることで、体積が大幅に減ったため、まわりの空気が吹き込んでくる。一方、ユコナとは違い液体なので、厚みを一定にするのに骨が折れた。
溶岩弾が、まっすぐプヨンに向かって飛んできたが、ユコナが作った氷板にあたった。
しかし、先ほど、岩盤を割るためにこのあたりの水を大量にかき集めたからか、それとも、疲労のためか、
パキン
氷の厚みが薄く、溶岩弾があたった衝撃で割れた。
「えっ」
ユコナが驚きの声をあげる。反応できず動きが固まるが、溶岩弾はいくぶん速度を落としながらも、プヨンが作った液体壁にぶつかった。
ドジュー
溶岩弾の熱と液体窒素が反応し、白煙があがる。溶岩弾は液体の抵抗で急速に減速し、液体を突き抜ける手前で、ほぼ速度がなくなり、重さで下に落下していった。
続けて、何発か同じような溶岩弾が放たれたが、どれも、白煙をあげたあと液体中で失速して、地面に落下していった。
地面に落ちた石は、水圧でラグビーボールのような先のとがった形状になり、急激な温度変化の衝撃で多数の亀裂が入っていた。
「どりゃー」
目についていた赤熱化した石がなくなり、プヨンは、壁代わりに支えていた液体壁を、大岩に向かって浴びせかけた。
液体の窒素は大量の白煙を生じながら気化していくが、急速に冷やされた大岩は、頭からの湯気がでなくなっていた。
「どうする?」
ユコナがおそるおそる聞いてくるが、プヨンとしても、どうしたらいいかわからない。
「どうしようか」
プヨン・ユコナと、大岩は、お互い様子見をしながら、膠着状態になっていた。
すると、岩がブルブルと震えた。
「我は、ガンオーである。このあたりの岩場を長きに渡りまとめてきた。お前たちは、何者か」
突然に頭に意思が浮かびあがる。ユコナを見ると、同じように感じたようだ。
ユコナは、目で、返事してと訴えてきている。そして、プヨンも、ユコナを見つめ返す。
(どうやって、返事すればいいんだ)
まさか、生き物以外と会話できるなど、思いもしていなかった。




