放出系魔法の使い方
フィナと知り合ってから、時々フィナのところに行って話をするようになってきた。
今までは教会の裏で魔法の練習をしていたのが、最近は外やこの木のところでやるほうが多い。
魔法で水を出したり、水を氷にしたり、氷を溶かしたり、風を吹かせたりを繰り返し、その効果範囲も適当に大きくしたり小さくしたり、変化させ、いろいろと練習していた。
氷も単純に水だけじゃ面白くないのでドライアイスにするとか、炭素を燃やすのもあきてきたら水を分解して水素と酸素で燃焼させてみる。
水素はほとんど見えるような火が出ない。爆発しすぎないようにコントロールすれば、炎が出ないで熱だけが発生するので、慣れるまでは不思議な感じだ。うっかりすると、熱いところに触れてしまい火傷したりもする。
フィナもあまり魔法というものを間近にみたことが少なかったようで興味をしめしていたが、火はもとが植物だからか苦手というか潜在的な恐怖を感じるようだった。
一方でフィナは植物だからか太陽の光が好きそうだった。冬になって日光が弱くなってもあまり寒さを感じないようで、積極的に肌を日にさらす。端から見ていると異常に見えるが、本人は寒さも感じず、平然としている。
できることが増えるに従って、次のできないことに気づくようになっていく。
(火や水はけっこう出すの簡単になってきたけど、光をだすのはどうするんだろう。物質そのものを作り出したり、エネルギーを直接生み出すよりは楽そうな気がするけど。おそらく光子や重力子とかはやりかたは似ているかなって気がするなぁ。必要なエネルギーの大きさや性質も近いのかなぁ)
だんだんとできることとできないことの境目がなんとなくわかるし、それをするにはどのくらいのエネルギーをかき集めればいいのかもわかるようになってくる。
今日も昼からフィナのところにきていた。
フィナもプヨンに慣れてきている。ほとんど見ているだけだけど、普段なにしているのかとかの、とりとめのないことを話したり、特に何かをしていないときは日光浴でもしているようだった。
今日もそんなお試し魔法にいろいろと挑戦していると、急に空がくもってきた。
(これは、夕立でも降ってくるかな)
教会から近いから一度戻ることもできるけど、そのまま木陰に入って様子を見ていると、町のほうから女の子が2人走ってくるのが見えた。
こっちには気づいていないみたいだけど、後ろのほうを振り返りながら、そのまままっすぐこの木のところに向かってくる。
もうすぐ木につくというところでプヨンに気づいたみたいだったが、同時にぽつぽつと大粒の雨が降り出した。雨宿りにきたのだろう、いまさら引き返すこともできず、そのまま二人は木の下にかけこんでくる。
フィナはいつのまにか本来の姿に戻ったのか、まわりには見えなくなっていた。
かけこんできた2人は見た感じ自分と同い年くらいに見えた。黙っていてもあれなのでとりあえず声をかけてみる。
「こんにちは」「こんにちは。雨降ってきたね」
あちらからも2人とも挨拶を返してきてくれた。
とりあえず自分の名前を伝えたところ、2人も名前を名乗ってくれ、
「わたしはサラリスっていうの、こっちはユコナよ」
とサラリスと名乗った子が教えてくれた。
サラリスは、金髪の気の強そうな感じの子で、自分よりちょっと背が高い。一方のユコナは亜麻色の髪の毛を後ろで束ねていた。2人とも言葉遣いが丁寧で品がよさそうに感じる。
自己紹介のあと、2人で話すよりはプヨンに興味を持ったのかそれとなく話が続いていく。
2人は小さいころから仲良しで、姉妹ではないけどいつも一緒にいること、普段はこの町から馬車で2日ほどいったところにある王都に住んでいること、今回は祖母の療養についてきたとのことでユトリナの町に3日ほど滞在することを教えてもらった。
「ほんとは、今は礼儀作法の勉強時間なんだけどね。サラリスがいやになったので逃げてきたのよ。わたしは、それに付き合わされたの」
「え?ユコナだって、同意したじゃないの。もう、じゅうぶんよ。じゅうぶん」
どっちが先に逃げようと言ったかでもめているようだ。
(そういえば、この町以外のことって聞いたことなかったな)
生活の違いのせいなのか、2人が自分達とは違う言葉遣いで言い合いをしているのを聞きながら、プヨンは今まであまり自分が町から出たこともなく、話を聞いたことがないことを考えていた。
雨はかなりひどくなってきて、しばらく止みそうになかった。
どっちが先に逃げ出そうと言ったかの押し付け合いが引き分けに終わると、サラリスがプヨンに聞いてきた。
「ところで、プヨンは、ここで何してたの?」
「うーん、午後の暇つぶしもかねて、ちょっと魔法の練習をしてた」
「プヨンさんも魔法が使えるんですか?魔法ってなかなか難しいですよね。なかなか思い通りにできませんし」
と魔法を使えると聞いたユコナが、ちょっと驚いたように尋ねてきた。
プヨンの知っている範囲でも、教会の同年齢の子供あたりでは簡単な魔法であっても魔法が使える者は多くない。いいところは3割もいないだろうし、使えるという時点でちょっとすごいことなのかもしれない。
そうしたところから、ユコナの反応もなんとなくわかった。
もちろん、『も』とユコナが言うからには、ユコナも自身もある程度使えるんだろうなと予測できた。
「私らも魔法をちょっと勉強してるのよ。勉強ってのは嫌いだけど魔法は素質があるって言われたことあるのよ」
と、サラリスは私たちはけっこうできるアピールをしてくる。
(やっぱり、ちゃんと系統だてた勉強ってあるんだなぁ。2人ともどんなこと勉強してるんだろう)
教会のミリアも火をつける程度のことはできていたし、自分だってできる。まぁ、このへんじゃ魔法が得意不得意にかかわらず、みんな基礎教養として一般知識的な勉強はすることが多い。目の前のサラリス達が同じようにしていてもそんなに不思議でもないと考えられた。
そうくると、次にでてくる当然の話題として、
「2人とも、どんなふうに勉強してるの? 自分のような適当な独学じゃない魔法勉強なんでしょ? 俺はけっこうみようみまねでちゃんと勉強ってしたことないんだよなぁ。いったいどんなことするの?」
と、ユコナとサラリスに聞いてみた。
「なにって、自分の思いをいかにまわりに伝えるかとか、魔法のイメージをいかに強く思い描くかとか、適切な表現方法とか・・・見本を見せてもらって教わるとか・・・」
「イメージの思い描き方かぁ。いい表現とかあるんだ。そんな年が変わらない気がするけどなぁ。いっぺんきちんと勉強してみたいけど想像がつかないよ。表現って、例えば、『火よつけ』みたいな掛け声?」
「掛け声って何よ。キャスティングよ。スペルキャスティングって言いなさい」
どうやら専門用語もちゃんとあるらしい。お姉さん風にサラリスに上から口調でたしなめられた。ユコナも続けて、
「勉強は、まぁ、たしかに大事で成果もでるけど、なんだか退屈です。わたしは使うほうが楽しいかな」
と言ってきた。プヨン的には、ユコナのほうが共感できそうな気がする。
(まぁ、座学スタイルの勉強が好きなやつってあんまりいないか。どう考えても座学よりは使うほうが楽しいに決まってるもんな・・。魔法の勉強かぁ・・・・)
そんな話をしていると、サラリスはにこにこしながら、
「私ね火が出せるのよ。見てみたい?」
と聞いてきた。
(これは、まぁ質問ではないよね。わかりやすすぎる)
見たくないという返事はない。やらせてよオーラをばっちりだしているサラリスをこちらもにこにこしてみつめる。サラリスの期待を感じたことに加え、実際興味があったのもあって素直にお願いしてみた。
「うんうん、めっちゃ見てみたい」
「しかたないなぁ。わかった・・・・、見ててね」
期待通りの返事に気をよくしたのか、面倒くさそうなそぶりをしながらも、実はやりたくて仕方がないという雰囲気全開のサラリスが、何やら集中しはじめた。
両腕を左右にのばして空気をあつめるようなしぐさをしたあと、目の前で指をたてゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「我が指先に宿れ、燃え盛る炎よ・・・・」
そういうと指先に小さな光の点があらわれる。すぐに球形状の炎になり、さらにゆっくりと大きくなっていく。
サラリスは相当集中しているようで、まばたきもせず、ずっと炎を見つめている。力んでいるのか肩が震え、顔も真剣そのものだ。炎の大きさがソフトボールくらいになったところで、
「そして、彼方に向かって解き放たれよ。ブレイジング」
叫ぶように言い終わるとサラリスの指先の炎が前方に向かって動き出した。加速しながら炎はまっすぐ水平に飛んでいく。
やがて3mくらい進んだところで、炎の大きさが小さくなりはじめる。進み方もまっすぐだった状態からふらふらとしはじめ、5mを超えたくらいでさらに急激に小さくなりまもなく消えてしまった。
しかしプヨンは指先で出る火は何度も見たことがあったが、それが飛ぶのを見たのは初めてだ。屋内でやると火事になりそうだから当たり前だが、火の消えたあたりを見つめたまま、
「おぉ・・・、飛んだ・・・・」
「ふっふーん、すごいでしょ」
(たしかに、出した火を移動させるという発想はなかったな・・・。そうか、こういうこともできるのか)
満面の笑みのサラリスがこちらをみていた。もう、満面、褒めてほしいのを感じる。
「サラリスは、炎魔法が得意なんですよ。かなり素質があるらしく、よく褒められてます」
ユコナもサラリスの出来栄えから、さらに持ち上げていた。




