電気魔法の使い方 2-2
ルフトとレヒトの位置が、突然、把握できなくなってしまった。
空気と同じ温度になってしまったのか、熱を感知できず、完全にどこにいるかわからない。
レヒトも同様だ。もちろん、2人とも、姿を消しているので、目には普通の姿も見えていない。
(レヒトは、ユコナに氷魔法を教えたんだったな。だから、見た目の体温を下げたのか)
ユコナの言っていたことを思い出した。
おそらく、体の前の空気の温度を変化させたか、体の表面を冷やしたのだろう。
姿が見えないなら、
「ラジアリーアサップ」
自分の前方、180度の方向に、火球を放射状に斉射する。
(姿は見えなくても、100発打てば1発くらいは当たるだろう)
そう思ったが、思ったような反応はなかった。
結局、何にも当たらず火球は直進し、庭を飛び出る前に、打ち消して、キャンセルするしかなかった。
ルフトが何度か近寄ってこようとする気配は感じるが、こちらの攻撃を警戒しているのか、一定の距離とから様子見しているようだ。焦ってプヨンが動くのを待っているのかもしれない。
レヒトも、うかつに魔法を打つと居場所を教えることを警戒しているのか、目立った手を打ってこないまま、時間が過ぎていく。
どうしたものかと悩んだ瞬間、後ろから、再びこぶし大程度の氷の塊が3個飛んできた。
氷は実体化しているので目に見えた。あわてて、対抗で氷板を出して、打ち落とした。
続けて、飛んできた方向に火球を放ったが、すでに移動したのか、素通りして、地面に当たっただけだった。炎が地面に当たって砕ける。
どうやら、レフトは、手元で発動させず、遠隔発動をしたようだ。
(対抗はしないとな。そうだ、単発火球ではなく、軽く火炎旋風を起こして、酸欠にしてやろうか)
「シスターン」
周囲30m程度に対生成で作り出した水素に火を付ける。
最近は水素づくりもなれてきていた。対生成で基本の電子と陽子を作りだし結合させると水素だ。ここまではなんとか作り出せるが、水素以外は、条件的に無理があった。
できた水素は、電気火花で発火させて空中の酸素と水を作り、同時に反応熱と爆発で熱風が吹き荒れた。
バシュン
いつもとは違い、敵を倒すためではなく、酸欠にならない程度で威力をしぼった。
そのため、炎は出ないが熱風の小さな旋風が発生した。
「うぉっ」
熱風の中、どこかから叫びが聞こえた。
おそらくルフトだろう。しかし、声からすると驚きはしたようだが、重症というわけでもなさそうだ。
熱によるダメージは、レヒトがルフトの体を冷やすなどして防御しているようだった。
さらに、一瞬は位置がわかっても、すぐ移動しているだろう。そこに何度反撃を打ち込んでも当たらないと思われた。
(さすがに、ユコナ邸の庭先で、全力で仕掛けるわけにもいかないし、ルフト達も手加減しろと言っていたしなぁ。これ以上威力をあげるのはまずいよな)
もっと威力をあげることは可能だったが、当然、相手もダメージを受けるだろうし、周囲の環境への影響も強くなる。
荒野で敵相手ならともかく、やみくもにあげればいいというわけでもなかった。
(やはり、相手の位置を特定しないと、難しいかな)
プヨンは、ルフトがよく姿を消すため、以前から考えていた方法が2つあった。それを試すことにした。
そう考えている間に、先ほど放った、小規模な火炎旋風の熱が引き始めた。
ルフトは再び攻勢に出たようだ。地面を蹴る音や、呼吸などで、なんとか直前で気づく。
カンッ
コンッ
木剣をやみくもにふるうが、初歩を学んだ程度の剣術では、せいぜい牽制程度にしかならない。ダメージというほどのダメージはないが、何発かは、腕や、胴、足などに打ち付けられていた。
「こら、ルフト、しっかり打ち込まんか」
「いや、すまない。息が切れてしまって」
レヒトの叱責が飛ぶが、さっきの水作成時に酸素を減らして酸欠気味にした効果がでたのか、ルフトはかなり息が乱れているようだった。
一方で、プヨンは、体の表面の硬質化でダメージこそないが、攻撃を受ける都度、体勢が崩されたり、集中が乱されていた。
次の手に対して準備することができない、そこで、
「ラジアリーアサップ」
もう一度、ルフトが近寄るであろうタイミングで、放射状に火球を放ち、ルフトに避けさせて距離を取らせる。そして、
「キャパシティブセンシング」
まわりに格子状に電界を張り巡らせた。人の体は磁気を持っている。
そのため、移動すると、微量ながら電界が変化する。
これを利用すると、移動する生体の位置を特定することができると考えていた。これは、複数が対象でも位置特定が可能だ。
人や動物なども、体毛や特定器官などで、こうした変化を感じ取ることができる。
背後に立たれて、気配を感じたなども、こうした現象を感じ取っていることになる。
それをほんの少し応用しただけだ。原理に気付けばそう難しくはないはずだ。
動いていないと検出が難しい。少し待つと、急に動きだすものがあった。おそらくルフトだろう。
位置さえわかれば、空気の粘度もあげてあるため、ルフトの動きはずいぶんゆっくりとしている。
ルフトは不思議がっているだろうが、その動きを避けることは造作もなかった。
タイミングを合わせて、木剣で足を切りつけた。
ガンッ
太ももあたりをねらって、力いっぱい殴りつける。
ルフトは、先ほどまでと違ってこちらが避けると思っていなかったのか、予想外の反撃で打ち所が悪かったのか、
「あぐっ」
足がしびれてしまったようで、うずくまったのがわかった。
レヒトに注意を払いつつ、ルフトに近寄り、ルフトの頭上で剣を振りかぶる、
「降参しないと、この者をひどい目にあわせるよ」
レヒトに呼びかけると、
「うむ、存分にやるがよい」
「ま、待ってくれ」
ルフトは、叫んだが、
「リスワイフ」
ルフトの頼みを聞いてやった。1ミリ秒ほど待ってやったあと、遠慮せず、電撃を落としてやった。
「うぅぅ」
ドサッ
地面に倒れこむ音がした。ルフトは気を失ってしまったようで、姿が見えるようになっていた。




