電気魔法の使い方 2-1
いつのまにか、外は暗くなっていた。
今日は、月明りもないのか、建物から少し離れると漏れた明かりも届かず、地面は真っ暗だ。
どこに行くのか知らないが、ルフトはプヨンを連れていく。歩きながら、帰りに馬車で話をしたユコナの学校のことやそこにプヨンが行くことを話してきた。
庭の中央に、姿は見えないが、熱が感知できる。もう2人、だれか人がいるのに気が付いた。1人は近く、1人は遠い。
「流れからいくと、目の前にいるのは、レヒトさんですかね? 」
プヨンが庭の中央の人物に向かって話しかけると、
「そうだ。すぐに気づくとは、ルフトが言うだけのことはあるな。まぁ、そう特殊なことをしているわけではないから、気づく奴ならすぐに気づけるレベルではあるが」
そう言いながら、レヒトも姿を現した。
「わざわざ、こんなところで、2人そろって話をするということは、ユコナのことですか? 今後、目の届かないところが出るから、僕になんとかしろと?」
「まぁ、おおざっぱに言うと、そう言う事だ。俺たちは入れないからな。24時間、常に張り付いてほしいのだ」
「え?24時間? それは、ちょっと無理では? 聞いているとは思いますけど、もともとは別の人の護衛があるし」
「それはわかっているが、そういう油断がダメなのだ。こまかく理由は言えないが24時間だ」
油断って何に対してだろうか?
何か狙われるような心当たりでもあるのだろうか。どうしてもルフトは、サラリスではなく、ユコナを見てほしいように感じられる。
「できる範囲でということならできなくはないけど、それでいいのかな? でも、こんなところに連れてくるくらいだから、ただのお願いだけじゃないんでしょ?」
「ふふふ、察しがいいな。もちろん、断らせないという意味もあるんだが、お前が十分に守れるのか、少し2人で見てやろうと思ってな」
(え? 2人? 3人ではないのか?)
にやっと笑いながら、ルフトが言い放つが、プヨンは、気が付いていた。
ルフトとレヒト以外に、さらにもう1人、少し離れたところに人がいることを。
宙に浮いているようにも見える。距離があるので、木の上にでも立っているのかも知れなかったが、この1人は、直接、手を出しては来ないように思えた。もちろん、油断はできないが。
「わ、わかったけど、どうしろと」
「なーに、ちょっと、俺たち2人と少し遊べばいいんだよ。手加減してな」
ルフトは、そう言うと用意していたのだろう木剣を放り投げてきた。反射的に受け取ってしまうが、
「え?それって、ちょっとひどくない?こっちは、なんの準備もないよ」
(1人ならともかく、2人がかりの上に、自分たちに手加減しろとは、ひどすぎる)
もちろん、ルフトは、手加減してやると言っていたつもりだが、プヨンからすると、手加減して遊べととってしまっていた。
もちろん、ルフトもプヨンには、手加減してやろうと思っているので、プヨンの気持ちは意に介さず、
「問答無用だ。ちょっと怪我する程度だ。いくぞ」
そういうと、ルフトは、擬態効果なのか、姿を消して踊りかかってきた。もっとも、体温は残っているので、丸見えなのはいつも通りなのだが。
とりあえず、プヨンは、明かりを灯す。位置は丸わかりだが、まっくらなのもそれはそれで足元が心もとない。
「フォティン」
空中の窒素を励起させ、発光させる。目つぶしにしてやろうと頭上で発光させたが、満月程度の明かりにしかならない。しかも、発光色が赤紫だからか、まぶしいと思わせるには程遠かった。それでも、なんとか足元は見えるようになる。
最初は小手調べなのか、比較的動作が緩慢としており、ゆっくりと近づいてくる。さすがに、ルフトだ。剣も含めて何かしらで覆われているのか、目ではほとんど見えなかった。ほぼ完全に擬態化されている。
なんとか本体の位置を熱感知でさぐる。そこから打ち込みを予測した。
剣は連打ではあったが、擬態をいじするためなのか、速度も遅めで、ふつうに避けることができた。ただ、レヒトさんは、まったく動く気配がない。もちろん、3人目も。
「まぁ、最初は、こんなもんか。では、そろそろ」
ルフトの合図のような発言に、プヨンも身構える。
「よし、いくぞ」
ルフトが、低い声をだし、こちらに駆け出してきた。
「クレイアップ」
ルフトの気合の声と同時に、プヨンも空気の粘性をあげる。水中ほどではないが、空気がまとわりつくようになり、手足を動かすだけでも移動時の抵抗が大きくなる。ルフトの動きは3分の1程度に遅くなる。
「むっ。な、なんだ・・・」
ルフトも空気の抵抗の変化に気づいたようで、声がでてしまった。
ルフトを中心に発動しているので、ルフトがこちらに近寄ってくると、魔法の影響範囲によっては、自分も影響を受けてしまう。諸刃の効果ではあった。
動きはいくぶん遅くなったが、それでも、ルフトは、かなり剣や武器の使い方はベテランだ。動きに無駄がない上、筋力強化なども駆使している。
一方のプヨンは、以前アデルに少し教えてもらった程度で本格的に剣を学んだ相手には分が悪い。対応する時間稼ぎがなければ、さすがに体の動きではついていけないところだった。
ルフトが打ち込んでくるが、遅くなっているため、考えて避ける余裕がある。プヨンの動きも影響を受けて遅くなったが、ルフトの木剣の動きがゆっくりでギリギリで避けられる。
コーン、コーン
プヨンとルフトの木剣同士がぶつかる音が響く。相手のゆっくりな動きに合わせて、こちらも剣を出すだけだ。避け易くなった分、何度かそれを繰り返すと、余裕ができてきた。
「ルフト。なんだ、その腑抜けた動きは、もっとしっかりやらんか! 」
「いや、なんか、体が重いんだ。どうなってやがる」
ルフトの打ち込み速度が、ふつうに考えても緩すぎる。レヒトは、ルフトが遊んでると思ったようで、叱咤が飛ぶ。
そこに、こぶし大程度の氷の塊が3個飛んできた。それも速度が落ちているので避けることは簡単だったが、ふと気づいた。
さっきまでは、周りの空気に比べ体温は高いため、ルフトの姿が見えていたが、徐々に薄れていく。
そして、プヨンの目では、熱感知も含め、姿が完全に感知できなくなってしまっていた。




