領地運営の仕方 4
ルフトが馬をつけて運んできたワゴン車をはずし、留め具を折りたたんで、リキシャ―仕様とする。
その前にある御者席の真ん中にプヨンが座った。
今回行くのは、ルフトとユコナ、そして、身の回りや荷物の運びのため、男女、各1人が同行していた。
男性はワゴンの上に荷物を積み上げたり、ワゴンの準備をしているが、多少は護衛の心得もあるのだろう、防具を身に着け、背中には小さい弓を背負っていた。
女性は完全に身の回りの世話をするようで、丈夫そうな服装ではあるが、身のこなしが上品に見え、間違っても、武器を使ったり、護衛をするようには見えない。
「最初なれるまでは、ゆっくり移動するよ」
そういうと、プヨンは、そっとワゴン部分を押し、動かし始めた。
最初、ワゴン車が静止している状態では、動き始めるまでにそれなりの力が必要だったが、一度動いてしまうと少し楽になる。
あとは止まらないように、なるべく一定の速度で走るようにした。
町の出口につく頃には、曲がったり止まったりもなれていた。
「プ、プヨンさん、今日は御者をしているのですか?」
「うん。まぁ、ちょっとね」
レオンが物珍しそうに御者のプヨンを見ていると、ユコナも町を出る手続きのため、ワゴン車から降りてきた。
ついでにレオンにいくばくかの説明したようだ。町の外にリキシャ―で行くことを驚かれはしたようだが、禁止されているわけでもない。
「ユコナ様、お気をつけて」
無事、町を出る手続きを終えた。
「外でたら、わたし、横に座るね」
そういうと、ユコナはワゴンに戻らず、プヨンの御者席の横に座っていった。
天気も良く、気持ちよさそうだ。確かに外に座りたくなる陽気だ。
町を出てしばらくは、石の舗装路が続き順調だったが、やがて土の地面になると、整備はされていても、車輪の抵抗が増す。それなりに力がいるようになった。
「どう?やっぱりしんどい?」
「まぁねぇ、地面が土になったからなぁ。石畳にくらべ、押す力が3倍くらいはいるかなぁ。まぁ、でも、大丈夫だよ。このくらいじゃ」
「私も、町中だと押せなくはないんだけど、長時間はもつかどうかわからないなぁ」
土の地面になってからは、魔法で押すだけでなく、引く方が楽だと気づいた。あとは、たまに、道なりに沿って方向を変える程度だ。集中はしないといけないが、ほとんど身動きすることもなかった。ユコナと話す余裕もできる
「ユコナは、領地に行けといわれるくらいだから、いつかはそっちに戻るのかい?」
「さぁねぇ。どうなのかしら。ほんとうの国境付近は、誰も住んでない上に、いろいろな生き物や死に物が徘徊していて危険なのもあって、国が直接管理してるらしいのよ」
死に物。ユコナによると、それは、生き物に対して、死んでもなお意識の残るものの総称の1つらしい。
「私のところはもう少し内側の辺境地兼干渉地なのよね。世襲地だから、私が何かしら管理するのかもしれないけど、今は、ルフトのお兄様が、まとめてくださっているのよ」
「え、えぇ? ルフトの? お兄さんがいるんだね。それは、初耳です」
ルフトのことはほとんど知らない。家族のことなど話題にものぼったこともなかった。
「ま、まぁ、わざわざ言う機会がなかっただけよ。徴税、治安維持とか、いろいろあるけど、国法にのっとっているので、決裁はするけど、あとは型どおりだって聞いているわよ。それでもいろいろ問題はあるって聞いてはきたけど・・・」
「それで、一回見てこいってことだっけ?でも、それだけじゃないんでしょ?ほんとは?」
「やっぱりわかっちゃうか。なんかね、問題があるらしいのよね。そっちの状況確認と言われたけど、人々の愚痴を聞いて、できれば解決してきてねってのが本音っぽいのよね」
そこで、一呼吸おいて、
「だから、ね、よろしくね」
「何がよろしくなんでしょうか、ユコナさん。ぼくは、知りませんよ」
ユコナがすねすね顔になるのを笑い飛ばし、ユコナ張りの冷え冷え魔法で突き放しておいた。
道中は、ユコナと、今後の学校のことや、ユコナが急に領地視察に行かされることになった経緯、それについてのユコナの不安などをいろいろ聞かされた。
時折、ルフトがこちらの様子を見てくることもあったが、特に話しかけてくることはなかった。
徐々に、ワゴンの操作にもなれてきた。土の地面を走るようになると、前輪が取られやすくなるので、マックボードと同じで、少し浮き気味にしてやると走りやすかった。
ワゴン部分はかなり重いが、それも慣れてくる。まわりの景色を見る余裕もでてきていた。
「そういえば、ユコナは、尖晶石持ってこいって言われた? どうするつもりなの?」
「え、石?そういえば、持ってきなさいって書いてあったような気がする。スピン服用とかに使う石でしょ? 1000グランもだしたら、かなりいい石が買えると思うけど? 私もなるべくいいのがほしいから、実は、今日、現地に行ったら、保管してあるのを2、3個取ってこようと思っているの」
「あ、ずる」
「ふふふ。いいでしょ。プヨンも学校いくのなら、いくつかあげようか?」
(うっ。悩む。もらえるならありがたいけど、なんとなく、それはそれで・・・貸しをつくるみたいでためらう。まぁ、ユコナはそんなこと考えていないのだろうけど)
「しばし、保留にする」
「いいわよー、いつでもいってね」
善意でもあるが、なんとなく、ユコナにめぐんでもらうのも、何か引け目を感じてしまう。あとで利息がつくかもしれない。
まだ、時間もある。努力して、ダメだったら、改めて頼もうと思った。
その後も、ユコナとはずっと学校の話をしていたが、頭の半分は石のことを考えていた。
そんな高性能品はいらないはずだから、市販の安物を適当にもっていけばいいのだろう。少し多めにお金を出せば十分すぎるはずだ。
(いっそ、レオンのところで手に入れた、軍用パンツァー服が使えたらいいんだけどなぁ。やっぱり手抜きはしたくないからなぁ)
いくら考えても解決しないので、放置することにした。
ユトリナを出てから、すでに2つ、小さな町を通り過ぎている。1時間ほど経っていた。
ルフトが馬を寄せてきて、
「ユコナ様、そろそろ一度休憩しないと、息があがってきております」
一向に疲れた様子を見せないプヨンに違和感があるのか、不思議そうな表情をしながら、ルフトが馬を気遣っていた。
考え事をしていたからか、思ったよりプヨンのスピードがあがっていたらしい。
もちろん全力ではないだろうが、それでも馬は1時間走り続けたため、かなり疲れているようだった。
「プヨン、疲れた?かなり、予定より早い気がするけど。もう。3分の1はきてるし」
「いや、そうでもないかな」
途中からワゴン自体を持ち上げ気味したからか、予想よりかなり速く進んだらしい。それでも、プヨンの感覚としては、ちょっと早歩きした程度の疲労度だった。
結局、プヨンたちは、少し速く進んだ分、馬が疲れているようで、休憩が長くなっているような気がする。
1時間ほど移動は、町などの拠点ごとに一休みし、予定通り進んでいく。3つ目の町くらいになると、
「お前はいったいどうなっているのだ。疲れないのか? わしの馬の方がまいってきている。こっちがお荷物になるとは・・・」
最初は、多少なりともプヨンのことを心配してくれていたルフトが、よくわからない嫌味などを言うようになったころ、
「あれ? ルフトさん、あの尖塔の見える町は、ナイゲンかしら?」
「そうですな。あの町で4つ目ですし、ナイゲンですな 」
特徴のある尖塔が遠くからでも見える。おそらく町の教会のものだろう。
もう、町まで1kmないだろうというところまできたとき、
「プヨン、そこの横道に入れ」
ルフトにそう言われた。
言われた方向を見ると、道に沿って、それなりの長さの石造りの壁が見えた。
門が見える。扉は開け放たれているので、中に入る。
壁はけっこうな長さがあったが、中は特に何もなく、奥の方に2階建ての建物が見えた。
プヨンは、御者席を降り、大きく伸びをしてから、ワゴン車の扉を開けてやる。
ユコナは、ステップを使わずぴょんと飛び降りた。みんな、降りると体を伸ばしていた。
「何年ぶりなのかな。あんまり覚えてないなぁ」
ユコナが感慨深げに周りを見回している間、残りの者は、馬車から荷物を下ろしていた。そうするうち、館の方から、40程度の男女が駆け寄ってきた。
「久しぶりだな、レヒト兄さん」
「おひさしぶりです。レヒトさん、ミッテさん」
銘々が、お互いに挨拶をする。
どうやら、屋敷の管理をしている、ルフトの兄が、到着を知って、迎えにきてくれたようだった。
すでに、時刻は夕方、空が夕焼けで赤くなってきていた。




