フィナとの出会い方
「あたーらしい春がきた、薄着の春だー」
プヨンは5歳になった。
最近は昼間は教会を出ていろいろと歩き回れるようになっている。
今いる教会はユトリナと呼ばれる町の端にあった。そう広くもない町だが、町は国の主要街道沿いにあることもあり、中央の広い道にはそれなりの人の行き来がある。
街道には店が並び、次の町までの移動に必要なものを買い出しをする人々で賑わっている。そして1本奥の道に入ると人が住む家などが立ち並んでいた。町の外には畑が広がっており、少し離れたところには墓地やゴミ捨て場などあった。
行動範囲が広がったこともあり、最近は町を出てすぐの草原が格好の遊び場だ。今日もそのあたりを走り回ったり、適当に魔法を使って遊んだ後、丘のそばにある大きな木の陰で休んでいた。
寝そべってごろごろしながら、遠くを道沿いに歩いていく人を眺めて過ごす。人通りは多く、絶えることがなかった。
草原で火魔法を使うという後先考えない練習をしたが、威力よりはいかに火の姿かたちを思い通りに変えられるかに挑戦する。
かっこいい火の鳥の形にしてみようなどとイメージしてみるが、実際に細かい形をつくるのは難しい。かろうじて十字型になるくらいで、とても何かわかるような具体的な形にするのは難しかった。
ただこのあたりは植物が多いのと、さっきまで木の灰の後片付けをしていたこともあって、火の色を変えることはできた。紫の炎を十字型にだすことができたので、「いでよ、火竜」など、火竜もどきを出して遊ぶ。
(色はうまく炎の色を変える材料があればできそうだな。岩場とかで鉱物があると、もっといろいろできるかもな)
色は炎色反応に基づいて、材料さえあればわりと自由に出せていた。
精神を集中して意識でものをコントロールするとかなり疲れる。頭がぼーっとしてきたこともあって、そのあと、ちょっとうとうとしてしまったらしい。
大きな木の根元で寝てしまっていた。
しばらくして隣に何か気配を感じた。ふと横を見ると、2mくらい離れたところに同い年くらいの初めて見る女の子が座っているのに気が付いた。
「夢でも見ているのか?」
つい独り言をつぶやく。こちらを見ていたのか、目があった気がした。
まだ春先のわりに薄い布の服だけで座っている。
(寒くないのかな? そんな服装でつらそうに思うが。貧乏なのか?)
しかしよく見ると薄い布に見えるが透けてはいなかった。そう思っている間もずっとこっちを見ている。勇気を出して話しかけてみた。
「いつからそこにいたの? 何してるの?」
女の子は話しかけられると思っていなかったのか、一瞬びくっとした。こちらを見つめなおしたが、何も返事してこない。そこでちょっと立ち上がり、そばに近寄ってもう一度話しかけてみた。
「こんにちは。はじめて会うよね。そこで何してるの?」
すると女の子は反応をしめしてきたが、表情の変化もあまりなく、
「あ・・・、う・・・・、あの・・・」
何かを伝えようとしてくれてはいるが、うめき声らしきものを出すだけだった。
「このあたりに住んでるの? 名前は?」
と聞くと、女の子はこくんとうなずく。
「あ・・、あなたこっち見えてるの?・・・・名前ってなに?」
そう聞いてきた。見えてるのとわざわざ聞いてくるのも不思議だ。
「僕に見えてるかって聞いてるの? 見えない人なんていないでしょ。そっちだって僕が見えてるでしょ? 名前って普段人から呼ばれる名前だよ?」
何を言ってるんだろと思いながらも、聞かれたことに答えた。
「見える・・、人、少ししかいないよ」
どうもうまく言葉にできないみたいに見えた。もしくは自分の聴き取り方が悪いのか。
会話しようとしてしばらく質問してみたが、聞きたいことに対する返事が異なり、辻褄が合わない。
そこで以前、女神と言っていたマジノと話をしたときみたいに、この子の意識を感じ取れないか試してみた。あらためて、会話を試みる。
先ほどまで聞いた限りでは、けっこう前からここで座って周りを見ていたこと。気づかれて話しかけられたことにびっくりしていることはなんとなくわかった。
またこのあたりに住んでおり、名前というものがないとも言われた。みんな好き勝手に呼ぶらしい。一瞬なんとなく聞いてはいけないような気もして深く聞かないほうがいいかとも思ったが、あまりにも会話がかみ合わないところがあ、もう一度だけ聞いてみた。
「ねぇさっきここに住んでるって言ってたけど、ここってこの丘のそば? 見たところ家とかなさそうだけど?」
と聞くと、女の子は、もう一度うなずいて、丘の上にある大きな木を指さした。意味が分からず、プヨンは聞き返す。
「えっ? どういうこと?」
あの木を指さしてるのは間違いない。この木に住んでるってことなのか、中身が空洞とか。言ってる言葉の意味はわかるが、それが意味することが正しいと納得できず、聞き返さざるを得なかった。
「こ、この大きな木? この木を指しているの?」
半信半疑だ。しかし言葉通りの意味を確認するためにもゆっくりと頭で整理しながら聞き返してみるが、女の子は首を横に振って否定した。
ある意味ほっとした。そらそうだ。木に住んでるってないわと思う。
安心していると、女の子はさらに横の1mくらいの背丈の木を指さして言う。
「こっちだよ」
「こっち?こっちって、この小さい木?」
そう聞き返すと、女の子はこくんっとうなずいた。
(こ、これは。えー、ありえない。なんだそれ)
言ってる言葉の意味はわかったけれど、内容が信じられない。しばらく茫然としていたが、自分なりに整理して導きだした結論を聞き返した。
「こ、この木が自分だって言ってるの?」
そうだと女の子は再びうなずく。どうやらプヨンが理解した通りで、そうらしかった。
その後もしばらく女の子とのやり取りが続いた。聞けたことは、この女の子はこの木が自我をもったもので、姿を変えて歩き回っているということだ。その時の姿がこの女の子ということらしかった。
本人が言うには、そのあたりに生えている木々や植物とはちょっと違う特殊な木だそうだ。小さく見えるけど横の大木より長生きしてきたらしい。
だからこの丘が住んでいるところになる。言っていることはそういうことになる。
一応、人の姿として見せているつもりだが、この姿に気づいてくれる人がなかなかいないらしい。人がくると横に表れて座っているが、気づく人は少数らしい。見ようとしないと見えないとも言える。
にわかに理解に苦しむが、思念が物質に強く作用するような環境だと、人以外の木や動物などが自我をもったり、物質に何かしら影響を与えられるのだろうと考えることにした。
「な、なぁ、なんて呼んだらいいんだろう。俺にどう呼んでほしい?」
そう聞いたところ、
「名前は好きに呼んでくれていいよ。私のことが見える人はみんな好きに呼ぶから、バラバラだし。時々でいいから、ここに来てくれて話してくれたらとっても嬉しいな」
「じゃ、じゃぁ、なんて呼ぼうか・・・・。えー、じゃぁ好きなものから、ふ、『フィナ』って呼ぶよ」
そうプヨンが言うと、フィナと呼ばれた女の子は、照れたりうれしそうににこにこと笑顔で了解と返してくれた。
もうちょっと言葉ができたらいいんだけどなぁとプヨンは思うが、それはおいおい慣れていくにつれてよくなっていけばいい。
そうプヨンは考え、今後にいろいろと期待していた。




