かみの子の作り方 2-3
ユピテイル村についた。
レオンは、馬車を降り、まっすぐ村長宅に向かった。挨拶のためだ。村長に簡単な到着の報告と挨拶をすませる。型どおりだ。
「しばらく話に時間がかかるので、お二人はそのあたりを見てきてください」
そう言うと、レオンは、そのまま、警護などの話や、村のことについての報告を受け始めた。
「そうですね。レオンさんの言うように、プヨン、ちょっと見て回りますか?」
レオンのしている話の内容は聞かなくても問題ないだろうと、ユコナが、散策に誘ってきた。
プヨンとしても、退屈な話を聞くよりは、ぶらぶらと見て回るほうが楽しそうと思い、二つ返事で、いくことにした。
運んできた荷物をすべてひとまとめにして、村側の人に預けることができた。
身軽になった2人は、村のなかをあてもなくぶらぶら歩くことにする。
中央の広場らしきところには、少ないながらも露店などが出ており、酒場や飲食店も、祭りの時間にはまだ早いにもかかわらず、人通りは多かった。
「うわぁーやっぱり人が多いね。お祭り、楽しいから、かなり好きかなぁ」
ユコナはかなりお祭り好きのようで、まわりの陽気な雰囲気を感じて、自然に笑みがこぼれている。
もちろんプヨンも、見回りをしてはいるが、そんなものは、ただの名目くらいにしか思っていない。
見ているだけでも、十分楽しんでいた。
それでも、広場を一回りすると、見回りの名目上、村のはずれのほうにも立ち寄った。
そのうちの一角では、おそらく村の田畑の中央付近に位置するのだろうか、祭壇ができており、村の祭祀を取り扱う人たちが何人も儀式の準備をしていた。
2人は、邪魔しない程度に近寄って、遠巻きに見学をしている。
祭壇から、少し離れたところに、オロガ塚と名の付いた石造りの塚があった。
豊穣を祈る文言と雷神様への感謝を示す言葉が彫り込まれていた。雷が落ちたらしきところにも大きな石が埋め込まれていた。
村の外をぐるっと一回りして、戻ってくると、広場の隅で騒ぎ声が聞こえた。
どうやら、トラブルのようだ。男同士の言い争いのような声が聞こえる。
「どうしたのかしらね。一応、そばに行って様子を見ておきましょうか」
護衛という立場できているのもあって、ユコナは、義務を果たそうと、遠巻きに近寄って様子を見ていた。
「うーん、どうやら、酔っ払いぽいね。まぁ、こういうのだと、どこでも多少はあるよね」
プヨンも、何かあったらとめに入ろうと構えてはいたが、自分たちは正規ではない。
不用意に仲裁に入るのも何か違う気がして、様子を見続けていた。
すると、一方の男が、激昂したのか、突然、火球を数発、打ち放った。しかも、目の前の相手に。
まわりで様子を見ていた人たちが一斉に散り、騒然とする中、すべての火球を避けきれず、一部が命中してしまった相手の男は、火を消そうと地面を転げていた。
慌てて、地面で服の火を消しているところを見ると、火傷はしただろうが、そこまで致命傷でもなさそうだ。
「あっ」
それを見たユコナも、とっさに声が出て、慌てて駆け寄ろうとするが、それより速く、レオンが反対から飛びだし、火球を放った男を制止しようとしていた。
先日、サラリスと火球勝負をした時のような大型の金属製の盾を持っている。
ユコナは、それを見てから、倒れている男性に駆け寄った。ユコナも回復魔法が使える。男性の様子をざっと見てから、回復魔法をかけていた。
火傷程度なら、これで十分だろう。
「それ以上魔法を使うのはやめて、投降してください。暴れなければ、穏便にすませます」
レオンは、ユコナが治療している男性をチラッと見る。治療可能な様子から穏便に対応できるだろうと判断して、相手を説得する。
しかし、火球を放った男は、レオンの説得には応じず、よくわからない叫びをあげながら、レオンにも火球を放った。
レオンはそれを受けて、火球を盾で回避しながら、あっという間に男性に組み付き、地面に引きずり倒していた。
そのまま組み伏せ、身動きが取れないようにしている。
プヨンは、レオンをサポートしようと、そばに寄っていった。
「お見事ですね。どうしたらいいですか?」
「プヨンさん、ちょうどいいところに。変わって、こいつを抑えていてください。捕縛の指輪をはめてしまいますから」
そう言われて、プヨンは、レオンと位置を交代し、男を組み伏せる。
観念したのか、もう、じっとしていた。レオンは、腰の革袋から、ギメルリングを1つとりだした。2つの指輪を組み合わせたリングだ。
「その指輪は?」
「あぁ、魔法を使う者を捕縛するときは、これを使うんですよ。指輪が2つあるでしょう。1つは、魔法を弱める効果のある石が埋め込まれているんです。身につけると、自分の魔力で自分に魔法をかけるんです。魔法の効果が弱くなるように」
レオンは、男の指に、指輪をはめ込んだ。
「そして、2つ目の指輪で鍵をかけると、指輪が抜けなくなるんです。今、つけたときと同じだけの魔力をかけないと取れなくなるんですよ。この指輪を付けられると、使える魔力が100分の1くらいになるので、もっのすごっく、力の差がない限りは、まず指輪は外せませんね」
笑いながら、ものすごいを強調しつつ、レオンは指輪をロックしたようだ。これで、この男の魔法の威力は100分の1になったらしい。
100分の1。ふつうだと、もう、まともな魔法を使えないのだろう。
火球を使っても、指先にマッチくらいの小さな火が出る程度か、それ以下となっているはずだ。
「魔法が使えなくなって、効果が下がると、筋力も低下しますよ。だから、捕縛の指輪なんですけどね」
そういうと、レオンは立ち上がった。指輪をつけられた男は、村の人達に引き渡された。
筋力低下のせいか、なかなか立ち上がれず、村人の助けを借りてなんとか立ち上がる。
そして、足の悪い老人のようによたよたと歩きながら、どこかに連れていかれてしまった。レオンは、礼を言われ、その後の指示をしている。
一段落して、レオンは再び戻ってきた。
さっきの説明の続きなのか、革袋から、もう一個、ギメルリングを出してくれた。
護衛任務とかをしていると、必須アイテムなのだろうか、大きさも小さいから、複数個持っていても不思議がないが。
プヨンがリングを受け取る。
はめ込まれたリングの一方を押し出すとリングがはずれ、2つの輪に分離する。
1つは銀色、1つは銅のようで、それぞれに1㎜程度の小さい石がついていた。
「その石、小さいですけど、そこそこ精度や密度の高い、よい石が使われているんですよ。さっきのパンツァー服よりも高級品なんです。ちょっと試してみますか?」
「え、う、うん。どうなるのか、試して」
プヨンが答えると、レオンは指輪をとり、プヨンは右の中指に指輪をはめ込まれた。
とたんに、体が一気に重くなる。筋力強化の逆、筋力低下がかかったのだろう。
歩いたりはできそうだが、この状態では、走ったりしてもすぐに息が切れてしまいそうだ。
もちろん、走る速度もまともにでそうになかった。
「どうですか?プヨンさん。僕の魔力で、今指輪をロックしていますよ。プヨンさんの魔法の威力は、100分の1程度になっています。今、僕がかけた魔力と同じだけ込めないといけないので、大幅に出力の減ったプヨンさんでは、もう指輪ははずれませんよ。試しに指輪を外してみてください。外せないでしょう?」
そう言われて、プヨンは、指輪を引っ張ってみた。
スポッ
「あ、あれ? とれちゃったな」
「と、取れましたね・・・あれ。おかしいな。ちょっと待ってくださいね」
そういうと、もう一度レオンは指輪をはめ、何やら集中している。
「今度は、しっかり魔力を注入して、ロックしましたよ。これで、どうですか?」
さっきより、さらに少しけだるい感じがする。体が重い。さらに魔法の効果が制限されているように感じた。しかし、
スポッ
「あれ、やっぱり取れちゃうね」
「えっ。そうなんですか。おっかしいなぁ。この指輪、不良品なのかなぁ」
プヨンは、体が重く感じるから、不良品ではないようにも思ったが、レオンは納得がいかないようだ。
いろいろいじりながら、おかしいを連呼している。
「あれー、おっかしいなぁ。なんでだろう。めったにないんですけどね。こういうこともあるのかぁ」
「指輪、どうする?返したほうがいいよね?」
「うーん、不良品っぽいですし、まぁ、捨てるだけですけどね。ほしいならあげますよ」
「へー、いらないんだ。じゃあ、もらっちゃおうかなぁ。せっかくだし、しばらく、つけておこう」
道具としての指輪を見てみたくて、もらうことにした。
ユコナも、ちょうど、同じくして、治療を終え戻ってきていた。




