石の売り方
ユコナ、プヨン、ルフトの3人は、橋を渡り終えてしばらく動けなかった。
ようやく歩く元気がでてきた頃には、陽が傾き始めていた。再び、ルフトは、癖なのか姿を隠して後方にいる。
「ユコナ様、今日中にキレイマスに戻りませんと、不在が公になってしまいます」
「うっ。そ、そうだったわね」
今は、湖岸にいて、森からはそれなりに離れていた。反対側は、ひたすら草原が続いている。見通しもよく、もう少し草原を行くと街道沿いに出るだろう。歩いても、町まで、そう時間はかからない。足取りは重いが、少しずつ進み始めた。
「ねぇ、ルフトさん、さっき、2種類の石が取れたけど、これって、売れるんですか?」
ユコナが、それとなく聞くと、ルフトは後方に控えながら、
「もちろんです。今回のこの2つは認知度も高く、特に岩キャノンは、あの学園にあることは有名ですしな。どうやって取ったのか聞かれるでしょう。カンデイルのほうは、わりといるにはいますが水中生物な上に危険度が高いものです。しかも、見た限り石の透明度も高く、それなりの値がつくと思いますな」
「へー、プヨン、売れるんだって。どこで売れるんだろう。いくらくらいになるのかな?」
「あー、ユコナ様。最初はレスルで売るのがいいと思いますよ。安めではあるけれど、買い叩かれたり、足元見られたりもしないで、適正値で買ってくれますからな。個別の店と交渉するのは、相場がわかって交渉できるようになってからがいいですよ」
ルフトは、いろいろとユコナに説明していた。それにあわせて、「そうなんですね」「なるほど」などとユコナが相槌をうつ。じっくりと聞いたことはなかったので、プヨンも勉強になっていた。
ルフトがいうには、石の評価は、ABCD法というのが主流らしい。A:アック(精度)、B:ボディ(大きさ)、C:カラー(種類、石の性質)、D:密度などが主な指標で、これに地域の需要や季節性などで値が変わっていく。
プヨンにとっても、いろいろ聞いていて勉強になった。
「どうですかな?よろしいですか?何かご意見ありますか?」
ルフトはあからさまにユコナに向かって聞いていた。ユコナはなさそうだったが、
「ユコナが何もない空間に相槌打ってるとおバカな独り言してるみたいだから、説明の時は姿を出した方がいいよ」
そう言っておいた。ルフトは、微妙そうな顔をしながら、姿を現した。
「そういえば・・・」
プヨンは、ふと、もう一個聞きたいことを思い出した。
「試験の時にさ、スピン服っていう、傷を治す服を着た試験があったんだけど、あーいうのって、手に入るものなの?」
それを聞いて、ルフトが、
「スピン服? こういうやつか?」
そういうと、薄い水色の服を見せてきた。
「私も着ていますよ。ほら」
「程度はいろいろあるが、これ系の服を鎧の下に着るのは基本だろうが。お前は着ていないのか?戦闘になったら、どうするつもりだ。防具を買うときに横にあっただろう。まぁ、基本すぎて、あらためて勧められることはないかもしれんがなぁ」
プヨンは、常時回復を魔法でしていたので、気にしたこともなかったが、武器や魔法の戦闘などをこなす人達にとっては、必須装備なのだろう。
ユコナですら、厚手の布の服の下に、下着代わりのように、スピン服を身に着けていた。
「し、知らなかった。必須なんだ」
プヨンは、頭に思ったことを思わずつぶやくと、ユコナが教えてくれた。
「そうね。自力で回復できるならいらないかもしれないけど、大けがしたら、意識が集中できなくて回復できないこともあるし、意識が途切れたらそれこそ致命的よ。絶対あったほうがいいわよ。ただ、服の魔力補充は、基本的に自分か、自分が属するメンバー内でするから、回復量は本人の能力にかなり左右されちゃうんだけどね。もちろん、お金を払って魔力の高い人に頼むってこともあるけれど、それも多めに蓄えておけるだけで、回復の強度は本人によるところも大きいんだけどね。強い害獣駆除や護衛のときは、レスルとかでもお金次第で、ある程度の補充はしてくれるわよ。命には変えられないからね」
そう言われると、確かにそうだ。プヨンが考えても、回復準備は戦闘前にできる限りしておき、戦闘中は極力回復などしたくない。
あからさまにそんなことしていたら、真っ先に狙われるし、そもそもしてる余裕もないだろう。プヨンもなるべく早く買おうと思った。
湖から、キレイマスの町まではそう離れていない。3人は、歩き安そうな道沿いに出たので、少し遠回りになってしまったが、それでも1時間強で町に到着した。といっても、だいぶ陽が傾いてきている。
とりあえずだが、せっかく石も手に入ったのと、ルフトが用事があるとのことで、3人は、レスルに寄ることになった。
ここのレスルはかなり人が多く、今日も混雑していた。商人も多く、武器や道具類を中心に売買されたものを運び出しているようだ。
ルフトは、さすがに長くこのあたりを行ったり来たりしているのか、レスルにも知り合いがいるらしい。まっすぐに受付に行き、担当の女性マースを紹介してくれた。
一通り挨拶をすると、俺は用事があるといって、レスル内のどこかに行ってしまった。プヨンとユコナは、少しはずれにあるテーブルに移動し、事前に少し相談することにした。




