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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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試練の森の歩き方 4

 湖上は風もなく、水面は穏やかだった。それを確認してから集中力を高めていたユコナの準備が終わったようだ。


「じゃあ、やるね」


 そういうと、もう一度、ギャザリングを始めた。ユコナの周りの空気が急激に温度が下がりだす。打ち寄せていた湖の水が徐々に凍りだした。1分としないうちに、湖岸周りを完全に底まで凍らせていた。


「じゃぁ、橋を架けますね。ゆっくりとついてきてください」


 少し息を荒げながら、ユコナが言う。


「お、おぉ。わかった」


 それに対して、間抜けな声で返事をするプヨンだった。


 すでに、目の前、岸から数mの水は、完全に底まで凍っている。

 まだ、水深が浅いとはいえ、これだけの氷を作るのは相当なものだ。奪った熱はどこかに逃がしているのだろうが、逃げ切っていない熱のせいか、まわりの空気の温度が高くなった気がしていた。

 範囲数mの円内の氷、これだけでも、もう火球とは比較にならないエネルギー量だ。1万、いや、10万発でも足りないかもしれない。


 ルフトが特に面食らっていた。


「ユ、ユコナ様、これは・・・」

「さぁ、土台が融け切らないうちに行きましょう。ゆっくりですが」


 ユコナは、それには答えず、氷の上を歩き出した。


 少しずつ歩いていく。岸から3mほど離れると、土台部分を離れたのか、氷の厚さは10cm程度になった。横幅も2mはない。

 プヨンは氷の端によって、指でつまんで氷の厚みを確かめてみた。しかし、厚みはある程度あるため、ふつうに歩いているぶんには問題はなさそうだ。湖の中ほどまで行ってから、歩いている最中に割れるとかは、勘弁してもらいたかった。


 ルフトもそろそろと一番後ろをついてくる。強度を心配している上、歩くことに集中するためか、姿は出したままだ。


「少しずつしかできないんですよ。距離があると、効率が落ちちゃうので」


 近くで出す火球と遠くで出す火球では疲労度が違う。そのため、魔力の消費を抑え、足元のみを凍らせながらだから、ゆっくりと歩いているのだろう。それでも、ユコナはだいぶ息があがっていた。



もう、岸はかなり離れている。そろそろ100mか。半分くらいまできていた。


パシャ、パシャ


 プヨンは、先ほどから、後ろで水が跳ねる音がするのが気になっていた。魚か何かなのだろうが、定期的に音がする。そう思っていると、


「うぉっ。いたたたっ」


 急にルフトが声を出す。慌てて振り返ると、何やら背中に手を回している。よく見ると、10cmくらいの小さな魚がついている。ルフトは厚手の服を着ていたが、その布地越しに噛みつかれたようだ。


「何かに食いつかれているよ」


 むしり取ろうとしたが、強く噛みついているのか、なかなかとれない。


ベリッ

「いてっ」


 無理やりとると、ルフトに食いついていた魚は、革の腰当と腰の肉の一部を食いちぎっていた。

狭い氷上だから、行動もかなり制限されている。疲れてはいたが、ユコナは、急ぎ応急手当として、傷口をふさいでいた。


「こ、これは、カンデイルか? これは、まずい」


 ルフトが叫ぶ。どうやら、この魚のことを知っているようだ。


「知っているのですか?この魚」

 

 ユコナが聞くと、早口でルフトが答える。


「えぇ、ユコナ様。この魚は、カンデイル。または、ガンデイルと言われます。弾丸のように飛んできて、強く噛んできます。一度、食い破って体の中に入られたら、もう回復は難しい」


「い、いててっ」


 捕まえて、手に持っていたプヨンは、指先に食いつかれた。痛みで、声が出てしまう。


ブワッ


 指先に食いつかれ、反射的に火球を出して、カンデイルを黒焦げにしてしまった。

 頭部あたりは、完全に焼け落ちている。頭部に光るものがあったので触ってみると、黄色い透明感のある尖晶石が取れた。


「まずいぞ、そいつは、斥候だ。2、3匹様子を見にきて、そのあと、群れで襲ってくる。急いで対岸に渡るんだ」


 ルフトが叫ぶ。そう言われ、ユコナは慌てて、氷橋を再開する。が、かなり疲れているから、なかなか橋ができない。後ろで跳ねる水音が聞こえ、余計に気が焦っていた。


 プヨンは、ガードを固めながらも、以前の炎の剣をストレージから抜き出して構えていた。さすがに素手では、噛みつかれると危険だ。


 水面に多数の水紋が見えている。カンデイルが、パラパラ飛びかかるようになってきた。しかし、あれから、10mも進んでいない。


 ルフトも後ろでユコナをかばいながら、何度か剣を振るっていた。何匹か食いついてきたようだ。

切った魚が落ちていくが、石を拾えないのが心残りだった。


 そろそろ、ユコナの疲労が限界で、足元が怪しくなってきていた。

 やむを得ない、プヨンは判断した。ユコナの後ろに立つ。ある程度やり方は見ていたし、氷を作ること自体はさして難しいことではない。


 ユコナの背後に立ち、呼吸を合わせる。


「リーベンコンフォーム」


 ユコナの魔法の魔長にあわせて、シンクロさせた凍結魔法を上乗せする。ユコナが足元に作った氷に足し、そのまま対岸まで同じ厚みの氷の橋を作った。


「え?えぇぇ?」「おぉぉ、ユコナ様、さすがです」


 ユコナは、突然対岸までの氷橋があらわれ、驚きの声をあげたが、ルフトの歓喜の声にかき消された。


「よし、はしれっ」


 皆、いっせいに走り出す。プヨンは、後ろからユコナをそっと魔法で持ち上げて、軽くしてやった。


「ふーふー」「はぁはぁ」


 50mちょっとのダッシュ。最後の余力で走り切った。

 魔法は、怪我治療やそのサポートはできるが、根本的な体力、疲労の回復には、感じ方が変わるだけで、疲労自体がなくなるわけではなかった。ルフトですら、息を切らしている。


 ルフトの服に噛みついていたカンデイルをむしり取る。火魔法であぶってやると、魚が驚いて口を開けるので、簡単にはずせることがわかった。ルフトの治療をしつつ、あまり大きくはないが、燃やし尽くした魚から、黄色い石も数個回収できた。


 少し息が整ってきたユコナが、


「プヨン、たしか、森に入ってすぐ、湖に近づくなって言われたよね」

「うん。そう言っていたな」

「意味がわかったわ。ふー、森をまっすぐ戻るほうが安全よね」

「あぁ、そういえば、そうだったな」

「今度は、必ずクリアしてやるから」

「へ?」


(え?もう一回やるの?こりてないのか?もう、ユコナには付き合わないぞ)


 2人は、心の中でひそかにそれぞれの決意をしていた。



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