試練の森の歩き方 3
「プヨン、どうします? 何か対応方法を思いつきますか?」
緊張のせいか、ユコナの口調が変だ。無駄に丁寧になっているが、笑っている余裕はない。
「ないわけじゃないけど、加減できんかもよ・・・」
森の中、しかも学校の土地、大きな火は使えない。かといって、岩だ。ある程度の力はいる。できれば、一発で粉々にしたい。いろいろと制限がついてきた。
「デルカタイレイン」
空気中にある大量の窒素を液体化し、それを、大型化した岩キャノンに向かって雨として降らせる。液体窒素は、一部が白煙をあげ、気化しながらも内側に染み込んでいった。十分に中に入ったところで、
「デルカタイブレイク」
ドバーン
液体を気化する。液体から気体になった窒素は、一気に体積が膨張、まわりの岩石を内側からはじけ飛ばすことができた。
「よし、プヨン、いいぞ。石が再び集まろうとするところに、中心があるはずだ、それを取り出すんだ」
ルフトが姿をあらわしてそう叫び、岩キャノンの砕けた残骸のところに向かって駆け出して行った。プヨンも、慌てて、その後を追う。
石が集まろうとしているところは、見ただけでわかる。2か所、ごろごろと再び石が集まろうとする中心に、尖晶石があった。体を構成していた石はかなり細かく砕け散っていたが、この尖晶石はもともと1つの塊りだったからか、そのまま砕けず残ったようだった。
「よし、あったぞ。そっちも見つけたか」
「あったあった。大丈夫です」
ユコナも少し離れてついてきていた。2人のうち、プヨンの手にある尖晶石を見つけると、手から奪い取ってじっくりと眺めている。
「わたし、取り立ての新鮮な石を見るのって初めてかも」
ユコナが手にした尖晶石は、透明感のある赤色だった。
その後も、なるべく囲まれないように岩キャノンを迂回しながら、そして、避けられそうにないものは、同じ方法で破壊しながら少しずつ進んでいった。2kmほどの距離を進むのに、たっぷり3時間以上をかけ、ようやく、少し開けた場所に出た。すでに昼は過ぎている。
そこには、川幅10mくらいの川が流れており、両側は、河原が広がっていた。森の出口のところに立ち、様子を見ていると、
「どうする?川、わたる?川はそこまで深くはないから、渡れなくはないと思うけど」
ユコナは聞いてきたが、目の前を指し示す。ユコナもすぐ理解してくれた。
「かなりの数よね。岩キャノンの群れかぁ」
「河原だからなぁ。体の材料には十分すぎるくらいあるよな。どうやってあれだけできたのかはわからないけど」
進むか、戻るか、しばし考えていた。
「とりあえず、最初だし、石もいくつか取れたのなら、十分では?」
プヨンが、そう言うと、
「そうですね、川もありますし、これ以上進むのは難しいかもしれません。でも、戻るのは癪にさわりませんか?」
今日のユコナは気が高ぶっているのか、気が強い。好戦的なくらいに。
「考えがあります。川沿いに湖に出ましょうか」
それだけ言うと、ユコナは、河原には出ないで、森と河原の境界線を湖に向かって歩き出した。
もともと、森の横幅は1kmもない。河原はほとんど勾配もなく続いている。河口はすぐそこに見えており、そこから崖下に向かって、滝として流れ落ちていた。詳しい説明はないが、ダメなら戻ればいいと、プヨンもユコナについていった。
河口まできた。すぐ横を、川の水が流れ落ちている。ユコナも川の音に紛れて一曲歌って、音入れをしたあと、しばし、休憩をとった。
ちょうど崖上で見晴らしがいい。数m下には湖面が見えていた。ここからだと、湖の対岸は目と鼻の先と言える。直線だと300m以下だろう。かなりくっきり見えていた。
「案があるんだっけ?どうするの?湖岸沿いに戻るのかい?確かに森は引き返さないが」
一休みして、そろそろ出発する。3人はユコナに言われて、崖下に下りていた。
「違いますよ。もちろん、前に進むんですよ」
ユコナは、休んで元気になったのだろうか、キャスティングに入っている。
「前から、一度試そうと思っていたことがあるのよ。今こそ、そのとき」
「ちょっと待て、ユコナ、思っていただけなのか。確実じゃないのか?」
「大丈夫よ。何度か、お風呂場で練習したから」
よくわからないユコナの自信と、それに驚くプヨンだった。プヨンは、だまって様子を見るしかなかった。




