表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の使い方教えます  作者: のろろん
138/441

試練の森の歩き方


 プヨン達が試験をしている、ちょうど同じころ、ニードネンは、ネタノ聖教 帝国部のソレムリン研究所を訪れていた。


「これが、新素材の完成品か?」


 ニードネンは、メレンゲ教授に聞く。うやうやしく答える教授。


「さようです。ニードネン卿。ミグネシウムを最適配分とすることで、従来の数倍の魔力を蓄積、運搬することができます。その分、取り扱いも少し気を使う必要がありますが」


 例のストレージを利用して大魔力を運搬するための薬剤、マジノライトのエネルギー密度を改良した件だ。


 ニードネンは、メサル襲撃から帰還後は多忙を極めていた。特に他国との交渉事、調整に時間を割いていた。長時間の会議、書類整理などの事務が続き欝々としていたが、今日は久しぶりにすがすがしかった。


 理由はいくつかある。

 単純に国家間交渉がうまくいっていた。かねてからの計画であった、自分たちの所属する宗教組織、ネタノ聖教を中心とした数か国の連合形成の目途がたった。

 まぁ、もともと、各国の要職には、自分たちの同志達が送り込まれている。多少の駆け引きはあっても、皆の向いている方向は同じだ。


 もちろん、目的は、理想を夢見る者たちの、悠久に続く世界づくりを実現するためだ。スローガンは、選民の睡眠による臣民の統治。ここまでくるのに、数世代にわたって、ずいぶんと時間も手間も費やしてきた。その準備段階にいよいよ終わりが見えてきていた。


 これとは別に、愉快なこともあった。ニードネンを勝手にライバル視している、シータ、ルファの姉妹だ。


 ニードネンは先日のメサル襲撃で対象の確保に失敗した。それは、自分の責任だと思っていた。たしかに、自分が油断して十分な準備をしていなかった。それは認めざるを得ない。

 しかし、それをあざ笑って挽回すると言い切った者が、スゴスゴと引き揚げてきたのは、自分の失態を差し引いても十分滑稽だった。生き恥を晒すとはこのことだ。

 だが、ニードネンは、笑いをかみ殺して、ねぎらってやるつもりだった。誰にでも(俺以上のひどい)失敗はあると。


「すでに、試作品の準備ができております。すぐに効果を確認いただけますが、いかがなされますか?」

 

 メレンゲ教授の言葉で、目の前に意識が戻った。


「そうだな。せっかくきたのだ。当然、試させてもらうよ」

「そうですか、さぁ、こちらへどうぞ」


 ニードネンは、メレンゲ教授の説明はほぼ聞いていなかったが、問題ないと考えていた。教授の説明は、『エネルギーが数倍ためられる』ことを、美辞麗句を並べて、様々な言い回しで説明していただけだ。

 もちろん、教授が生み出した成果のほどを確認しなければならない。そして、ニードネンは、ことさら過剰に反応して、相手の満足感を惜しげなく高めてやるつもりだ。言葉1つで、経費もかからずやる気を出してもらえるのなら、これほど楽なことはない。ネタノ聖教渉外の取りまとめを担うニードネンには朝飯前のことだった。


 「しかし、薬剤改良の話があってから、けっこう時間がかかったが、まぁ、仕方ないか」

 「それは、申し訳ありません。エネルギーをたくさん貯めるにはたくさん注ぐ必要があるわけで。教区が誇る魔法兵団『シュラーフ』のメンバーは、皆100m級以上の魔法範囲を有するのですが、その精鋭をもってしても、必要な魔力を貯めるには、のべ1000人、60人態勢で2週間ほどかかりました」

「大量供給するには、もっと増員が必要というわけか」

「ご配慮いただければ、幸いです」


教授の暗に示された増員要請も受け入れつつ、これからの試し打ちに気がはやる。

(さぁ、久しぶりに、魔法の打ちっぱなしができるに違いない。試験にかこつけて、試験場を火の海にしてやろうか。それとも、池中の水の氷漬けや、雹弾でも試してやろうか)


 魔力の元が増えると、今までは十分な効果がなかった魔法もできるようになるだろう。ニードネンは、ここ数日考えていた新しい魔法の手順を何度も反芻しながら、案内される試験場に向かって歩いていった。




 昨日、入試のあとまっすぐ帰らなかったユコナ、プヨン、そして、ルフトも、学校の簡易宿泊所で一泊を過ごした。

 他にも、遠方からなのか、夕方から町に戻らなかった受験生や特待生達が、そこそこ泊まっていたようだ。

 

 朝食をとり、再び、3人は森の前に立つ。昨日、聞いた限りでは、森は、訓練所でもあるらしく、部外者も含め、出入りは自己責任の名のもとに自由だということだ。ただし、森のため、当たり前だが魔法の使用にあたっては火気に十分注意しなければならなかった。


 森の片側を見ると、山の斜面に沿って続いているのが見える。こちらに進むと、山の斜面を登っていくかたちになる。

 また、反対側を見ると、森は湖に面した崖まで続いていた。湖面からの高さは5mはありそうで、完全に絶壁となっていて、ここから崖を伝って降りるのは無理と思えた。

 その山と湖の間の1kmないほどの幅で、森が続いている。 森はそのまま湖岸に沿って対岸まで続いているが、対岸が見えていることからも、せいぜい3km先。ぼやけてはいるが、反対の森の出口側もうっすらと見えており、そう広大な森というわけでもなかった。


「では、わたくしめが、様子を見てまいります」


 ルフトが姿を現して、早速、森の中に入っていき、3分ほどで戻ってきた。道中で仕留めたのか、手には小さな獲物と果物を持っていた。


「小動物が大量におりますが、さして危険はありませんな。細いですが、道もあります。ここを通っていけば行けるのでしょう」


 何かの木の実をつまみながらそう言うと、率先して歩き出した。危険だと渋っていた昨日とは違い、積極さを感じる。


「プヨン、危険って聞いていたけど、問題なさそうね。さぁ、行きましょう」


 3人は、順調に歩いていく。もちろん、ユコナが一番乗り気に見えていた。


 森の中は、木々の間から日差しが透けているので十分に明るく、草木がない道らしきものもある。 いたるところに小さな動物がこちらを遠目に見ている。人なれしているのか、寄ってくることもないが、逃げることもなかった。食べられそうな木の実や果物もそこらじゅうで見つけることができた。動物たちにとっても豊かな食環境のようだ。


 まだ、疲れもなく、木陰の散策をするかのように、3人は順調に進んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ