入学試験の受け方 2-6
プヨンは、試験部屋の湿度が高く、ムシムシしていることが気になっていた。おそらく、水分を多量に含ませて、水魔法も使いやすくしてあるのだろう。
先制はヴァクストだった。ヴァクストは、火球1つあたりの大きさを下げて、数を出してきた。
握りこぶし程度の大きさの火球が20発程度、様子を伺うように、わざとらしくゆっくりと飛んでくる。
「ハイドランリーベン」
空中の水分を凍らせて、薄い氷の板を作り、自分に命中しそうなものは打ち落としてやった。
無から原子を作るには核融合なみのエネルギーが必要だが、さっき、能力が落ちているとはいえ、かろうじて水滴ができていた。
その対生成に比べれば、空中の水分を凝結するくらいは、さして、エネルギーは必要でなく、十分な枚数が作れていた。
氷板で防がれたのを見て、ヴァクストは、少し考えているようだったが、その間にもキャスティングをしていたようだ。
地面に落ちていた石ころが多数浮き上がり、プヨン目掛けて飛んできた。魔力で弾き飛ばしたようだ。氷や炎を飛ばすのと同じで、それが氷のかわりに石ころを飛ばしてきただけで、初歩的な魔法だった。
その石礫の大群と一緒に、ヴァクストがかけよってくる。
しかし、当然、あたると、痛い。本能的にも体で受け止めず、避けてしまう。そこを狙われた。
「うりゃー、くらえっー」
ちょうど、飛び跳ねて着地しようとしたところを、弾かれた。
石のかわりに人を飛ばしたようだ。ただ、威力制限のせいなのか、石の重さと人の重さの違いなのか、数mほど飛ばされた程度だった。
ちょっと着地をミスしたが、手をついたときに、手のひらを擦りむいた程度だ。そして、それも、プヨンのジーピーエスの効果か、スピン服の効果かわからないが、傷がすぐにふさがっていた。
同じことをされそうな気もしたので、
「ハープスト」
プヨンは、自分の体を地面方向に押さえつけた。これで、ちょっとやそっとじゃ持ち上がらなくなるはずだ。
もちろん、プヨンも動きにくくなるが。2度、3度、ヴァクストが同じ手を使うが、ほとんど効果らしい効果はなかった。
さらに、ヴァクストは、炎を火球ではなく、3本ほど、糸状のようにして鞭のように振り下ろす。自由自在に動きはするが、常時発動だからか、エネルギーを凝縮する火球よりは、見た目だけのように見えた。
かすった程度では、ダメージはなさそうだが、服の色が心配なので、避けはする。
そのうち、攻めあぐねたのか、ヴァクストが挑発してくる。
「じっとしてるだけじゃ、つまらんだろう。お前は攻撃ができんのかー」
ちょうどそのタイミングで試験官から声もかかる。
「よーし、あと3分だー」
いろいろやられてまだ2分なのかという安心感もあったが、何も見せないのでは試験にならない。そう言われると、試験のこともある。一度何かを見せようと思った。
「じゃぁ、いくよ。アップドラフト」
火球と似ているが、地面付近の空気のみを温めて上昇気流を作ると、自転の影響、コリヨリの力を受けて空気が回転する。そう時間もかからず、小さな竜巻ができた。
ヴァクストの声があがる。
「おぉ。風か、なかなかやるな。しかし、風くらいじゃ・・・受けて立つぜ」
小規模な竜巻が天井に届いた。室内にもそれなりの風が吹いている。それが自分に向かってくると想像して、ヴァクストは踏ん張っている。
「ブルーワール」
その竜巻に炎を投げ込んでやった。完全燃焼しているのか、炎は赤から青白い色になりつつ、小さな火災旋風となって、ヴァクストを襲う。プヨンからも15mと離れていないので、こちらにも熱気が迫ってきた。
「こらー、なんだそれはー、規模がおかしいだろう。反則じゃないのかー」
たしかに、レッド鉱のせいか、プヨンの魔法の威力はかなり減衰していた。出せる威力は1万分の1くらいかもしれない。
ただ、プヨンも自覚はしていなかったが、もとがあれば、大幅に威力が落ちても、その結果がこの程度ということなのだろう。疲れは増えていたが、ふつうに発動できていた。
「ちょ、ちょっと待て。なぜ、ここでそんなものが出せるんだ。すぐに避けろー」
試験官からも慌てた様子で声がかかる。
言われなくても、ヴァクストは大慌てで避ける。
すでに目の前に、青い竜巻が迫っており、熱気が伝わってくる。もちろん、念のため、逃げた方向に竜巻を曲げてみる。
「ま、待てって。なんで曲がるんだよ。こっちくるなー」
ヴァクストは、なんとか避けきったところで、すぐにプヨンは竜巻を消滅させた。室内なので、無酸素状態にしてしまうとかなり危険だ。
ヴァクストは、数秒走って避けただけだが、かなり疲労しているのがプヨンにもわかった。
天井を見上げると、プヨンが作ったブルーワールの炎の竜巻の通ったあとが、すすけて、黒くなっていた。




