入学試験の受け方 2-5
対戦相手が、昨日の同部屋のヴァクストとわかり、どこにいるか探してしまう。相手も同じようだ。お互い目があってしまった。
ヴァクストは、道具屋で、親の反対を押し切ってまで、魔法を学びたいようなことを言っていた。お互いを観察して、品定めをする。
単に魔法が好きなだけではなく、ある程度、自信があるのだろう。緊張した雰囲気もなく、堂々としていた。
1番組から順番に試験が始まった。
部屋は2つあるようだったが、呼ばれると部屋に入り、1組あたり6、7分くらいで部屋から出てくる。
さっき説明のあったスピン服の色合いでおおよその結果が推測できた。少なくとも一方の服は、緑から黄緑や黄色などに色が変わっている部分がある。
ただ、試験後は疲労はしているようだが、試験官の言うように、重症となっているようなものはいなかった。
そして、プヨン達の番がきた。
2人並んで部屋の前に立つ。そして、ヴァクストが扉を開け、その後に続いてプヨンが入った。ヴァクストは、後ろを振り返り、プヨンを見た後、
「プヨン、すまないが、俺は、落ちるわけにはいかないんでな。手加減はしないぞ。もちろんお前もしないだろうがな」
と、声を掛けてきた。よほど自信があるのか、落ち着いている。
プヨンも緊張はしつつも、頷いて返しておいた。
部屋の中は湿気が高くむわっとしていた。まわりを見ると、30m四方くらいで、天井は高さ10mくらいある、大きな部屋だったが、部屋の中は明るいだけの、殺風景で何もなく白い壁で覆われているだけだった。
中には別の試験官がいて、2人に声を掛けてきた。
「よーし、2人は、それぞれ、部屋の印のあるところに立ってくれ。試験時間は5分間だ。武器はもっていないだろうが禁止だ。魔法なら、何をやってもいいぞ。それを見て採点する」
定位置に立ち、15m位離れて向き合うと、すぐに『はじめ』の号令がかかった。
時間もそう長くあるわけではない。
早速、ヴァクストから数発の火球が飛んでくるのが見えた。火球の大きさだけ見るとそんなに魔力制限されているようには見えなかったが、なんとなく、サラリスの火球に比べるとスピードが遅い気がした。
距離もあり、なんなく避けられた。
「今のはあいさつ代わりだー、いくぞー」
ヴァクストから声が飛んでくる。声の感じから、避けたことにムッとしているようだが、かわらず強気で元気いっぱいのようだ。
ここで、プヨンは、ちょっと試してみたいことがあった。
さっき、試験官が言っていた、魔力の制限がどのくらい効いているかだ。効果を見るため、なるべく十分に気を練ってゆっくりと集中する。
その様子に、次の攻撃をしかけようとしていたヴァクストは、エネルギーの流れでも感じたのか、次の行動を中断して身構えていた。
「シスターン マイステン」
いつもの対生成の水素合成から水を作る。いつもなら、風呂桶程度、100リットルは水を出せていた。
空中から搾りだすのではなく、無からの対生成で作るため、エネルギーだけなら、MC2法則にのっとって、ちょっとした地震にも匹敵するのだが、
ポタポタッ、ポタッ
プヨンの手の平の先から、水が垂れた。しかし、バケツはおろか、コップの水にも満たない。おちょこ1杯程度だけだった。
確かに、普段からすると、数千分の1になっている気がする。
「クククッ。なんだそりゃー、身振りだけは一人前だと思ったが、その程度なら、水が不得意な俺だってできるぜー」
そう言うと、ヴァクストは、何やら呟いていたかと思うと、
「そりゃー」
パシャパシャ
プヨンと同じくらいの量か、少し多いくらいの水を出していた。。
「な、なんでだーー。いつもなら手桶程度はだせるのに、なんだこの少なさは」
ヴァクストが叫んでいる。おそらくヴァクストも普段に比べると威力が減少しているのだろう。
影響範囲が30mというと、ちょっとでも魔法の素質があるものなら、上限にぶつかっているはずだ。これが、部屋のレッド鉱製とかいう魔力制限壁の効果なのだろうか。
「しかたない。威力が伴わないが、ここは、俺のテクニックを見せつけてやろう」
そういうとヴァクストは、一度下がって距離をとり、構えなおしてきた。




