入学試験の受け方 2-3
「よーし、俺はプルーフという。今から次の試験、エイミーアテマスについて説明するぞ」
試験官は、名乗ると、すぐ脇に立たせてある台座から、MHボールを引き抜いた。
さっき、プヨンに教えてくれた、例の緑色のボールだ。
「こいつは、MIP、いわゆる、マジノイランポテンシャルを示すMHボールだ。こいつは・・・」
プルーフは、さっきと同じように、爪先に火をともし、ボールにかすめさせた。部分的にボールの表面の色を部分的に変え、黄緑の線の跡がつく。
「こんな風に、わずかでも魔法がかすめるだけで色が変わる。さらに、威力に応じて、もっと赤くなっていく。この表みたいにな」
そういいながら、壁の色見表を示す。大半は、じっと聞いていた。さっき一度聞いているはずのプヨンがキョロキョロするが、同じように周りを見ているものは2、3人くらいだった。みんな知っているのだろうか。
「次の試験部屋は、一番奥まで100mあるが、部屋に入るとこの台が一定の間隔でたくさん並んでいる」
プルーフは、横の台を叩きながら言う。
「お前たちは、これに向かって好きな魔法を放て。チャンスは5回ある。5回のうちで、もっとも遠くの色が変わった台が、お前たちの点数だ。ただし、5回全部はずすと0点だからな、5回は上手に配分するように」
要するに、確実に点数が欲しければ近いところ、高得点が欲しければ遠くを狙えばいい。でも欲張りすぎると0点もあるから、高得点を狙った冒険は段階的に挑戦すべきなのだろう。
「そして、一番奥の100mの台には、このアダムス君人形が置いてある。この学園マスコットに命中させて、頭のボールの色を変えたら、最高点100点。満点だ」
そういうと、プルーフは、アダムス君と呼ばれた人形を台に縛り付けた。
(いいのか?マスコットを燃やしちゃって)
「よーし、じゃぁ、紙を渡した順からいくぞ。1番は、えーっと、プヨンか」
さっき、1番にここに来たのはプヨンだ。プヨンは、指示された扉を開けて、中に入った。
プヨンは、魔法の威力の方はそこそこ自信があったが、方向とかの精度については、あまり得意ではなかった。
的のボールの大きさは、直径10cmくらいか。100mはおろか、50mでも、確実性はなんともいえなかった。
扉を抜けて中に入ると、中にいた試験官の女性が近寄ってきた。プヨンは試験結果の用紙を渡す。試験官は控えと、手元の用紙を確認していた。
その間に試験場を見る。目の前には半径2mほどの丸い枠があり、その先に、砲丸投げのように一定の角度で扇状に広がっていた。
その中に、距離と方向がバラバラの台が置かれている。近い距離で同じ方向に台が並ばないようになっている。そして、10mごとに円弧がかかれており、どのくらいの位置にあるのかの目安もついていた。
「えーっと、試験番号0078のプヨンね。説明は聞いているわね。じゃぁ、そこの丸い枠の中から、好きなように5回打ってね。制限時間は5分だから、5分以内に5発よ」
「ちょっと質問があります?」
「え、何?」
「魔法ってなんでもいいんですか?」
「えぇ、そう聞いたでしょ。例えば、そうね、魔法で起こした風や凍らせた氷をぶつけたら黄色くなるし、回復魔法だと青くなるわよ」
「なるほど。わかりました」
「じゃー、スタートね。今から5分よー」
そう言われ、プヨンは、丸い枠内に立った。どのくらいが合格ラインかわからない。命中精度は、以前、サラリスとかと試したりしたことはあったが、どの程度あるのかはよくわかっていなかった。
「とりあえず、5回チャンスがあるから、まずは20mかな。アサップ」
なんとなく、先ほどの説明も火で対応していたので、深く考えず、火球をだした。しかも、火球の大きさも標準的な10cmちょっとの球形だ。火球自体は大きさにこだわらなければ、特に難しくもない。
ふつうに放たれ、まっすぐ20m突き進み、そして、命中した。さすがにこれははずしたくなかったから、少し安心できた。
「じゃぁ、次は、30m」
これも、少し軌道がぶれたが、なんとか命中した。
ただ、さすがに、最終の記録が30m程度だと、心もとない。一気に距離をあげることにした。
少し冒険して70mを目指したが、しかし、これは、外してしまった。
プヨンとしては、やはり70mくらいは記録を出しておきたかったが、火球は50mくらいからぶれはじめる。
なんとか、遠隔で操作して軌道を修正するが、70m離れたところにある10cmの的だ。もう少しのところで、はずれてしまった。
「へー、70mまで届くのね。なかなかやるわね」
精度は別にしても、試験官は届いた距離そのものにも、興味を持ったようだった。
。
先ほどの様子を見て、やはり、自分は50mくらいが限界なのかと、少し謙虚になった。
「よし、今度は50m」
緊張がより強くなりすぎたこともあったのか、これも軌道を修正しながらあてようとしたが、うまく飛んでいかない。もう少しというところで、はずれてしまい、4発撃って、最高は30mだった。
プヨンは、かなり焦っていた。なんとか、記録を出したかったが、40mや45mにしてもあたる保証はない。どうしたものかと考えていた。
「はーい、あと2分よ」
考えたところで、狙いをつける位置が多少変わる程度で、実力が大幅に向上するわけでもない。といって、点数は大幅に伸ばしたかった。
結局、あれこれ考えたが妙案もなく、このまま、もう一度撃つしかなかった。何mの台を狙うか、決めかねる間にも時間は過ぎていく。
「あと1分。どうするのー?」
再び試験官の声が聞こえる。それでも、思いきれなかった。
残り30秒程度。このまま時間切れになると思い、焦りだしとき、ふと気づいた。
「すいません、もう一回聞きますけど、魔法であればなんでもいいんですよね?」
「えぇ、そうよ。あと28秒。急ぎなさいよー」
精度を試すとは言われたが、方法は自由だとも言われた。プヨンは、方法を決めた。方法がなんでもいいんなら、
「デルカタイ マイステン」
大きな爆炎の魔法を使おうかと思ったが、火をめいっぱい使うと危険だろうと判断し、冷やす方向にする。
火球とは反対に、空中から急激に熱を奪い取り、それを発散させることで、雨を降らせることにした。液体窒素の雨だ。
100mのところにある、アダムス人形を狙って、その周囲に雨を降らせる。
窒素が液体になることによって体積が減ったところにまわりから風が吹き込み、ちょっとした暴風雨になった。空中の水分や二酸化炭素も氷の粒となって降り注いでいた。
「な、何を?あ、あんなところに雨を降らせるなんて」
試験官は目を丸く見開いて、雨を見続けている。驚きの内容が、発動した距離なのか、雨が降ったことなのか、そこはわからなかったが、表情がわかりやすかった。
プヨンは雨をすぐに止めたが、それでもアダムス人形を中心に30m程度の範囲に数秒間降り注ぎ、100m以外の台もいくつか範囲に入っていた。
台は冷やされたため、空気中の水分などの氷が付着していた。
窒素を液化するために奪った熱は、室内には残さなかったため、部屋全体の温度が下がり、雨が降った場所から離れたプヨンのところでも、かなり冷気を感じていた。
「しゅ、終了です。さむっ」
試験官の終了宣言を受けて、試験は終了した。
振った窒素雨が再び気化して、白い煙を上げている中、試験官が確認にいく。
しばらくすると試験官の叫びが聞こえてきた。
「あーー、アダムス君が凍り付いている・・・」
プヨンは様子を見ていたが、ここからでも、一番遠いところに置かれていたアダムス人形のボールが草色から濃いオレンジ色になっているのがわかっていた。
しばらく待っていると、試験官が戻ってきた。
「0078、プヨン、記録100mね。必ずしも当てる必要はないのよね。やるわね」
ニコッと笑いながら、そう告げられた。
(精度とは言いながらも命中させたわけじゃないけど、これはありなんだな)
遠くで別の作業員が色の変わったボールとアダムス君の交換しているのを見ながら、プヨンはそう思った。




