入学試験の受け方 2-1
プヨンとその他大勢は、先導する教官についていった。昨日同部屋だった、ヴァクストやマウラーもちらっと見かけることができた。受験生は、途中で、ざっくりと前半と後半に区切られ、2つのグループに分けられた。
「よーし、前半分は、こっちにこい。前は、先にエイミー試験だ。後ろは、あっちだー」
教官からの声がする。プヨンは後ろにいたので、持久水試験を先にするようだ。導かれて、やがて、小さな部屋についた。40人くらいいるだろうか。プヨンは、その中でも一番後ろで聞いていた。
「よーし、あらためてだが、俺がこの試験の主担当のナゲルだ。お前たちが入学したら、武器の使い方を教えてやる。特に、槍だ」
ナゲルと名乗った教官は、武器、特に槍が得意と言うだけあって、腕周りがすごく太い、がっしりした男性だった。40前後のように見えた。
「この試験は、すごく(説明が)簡単だ。ここに鉄鍋がある。これには3リットルの水が入る。お前たちは、1人ずつ、これをもってそこの小部屋に入るんだ。この水を満タンから空にするか、もしくは、空から一杯にするか、どちらかを決めろ。かかった時間で点数が決まる。5分でできなかったときは、できたところまでが点数だ」
試験は単純明快だった。説明が終わると、まわりがざわざわとし始めた。直接、話をしているわけではないが、体を動かす音やため息などが聞こえてくる。プヨンもそうだが、皆、どちらにするか悩んでいるようだった。
(水3リットルを、すべて気化させればいいってことかぁ。火球でいえば、1000発分、ジョギングなら3時間くらいの運動量かぁ)
さて、どうしようかと、ざっくりと方法を考える。が、すぐには決めきれなかった。
ナゲルは、腕を組んで、だまって立っている。いつも、この試験では、数分は、考える時間を与えることにしていた。ただ、ナゲルは、知っていた。
(この試験は、水を出そうとすると、このあたりの水の取り合いになるんだよなぁ。水を気化させて、なくならせるほうが確実は確実だ。まぁ、焦ると制御できなくなって、水蒸気で火傷したり爆発状態になって危険ではあるんだが。どっちにしろ出せるのは、まぁ、せいぜいコップ1、2杯程度がせいぜいなんだよな)
毎年繰り返される光景を思い浮かべていた。
プヨンもナゲルと似たようなことを考えていた。水を気化させる方が楽だとは思うが、うまく制御しないと一気に体積が膨れ上がる。あまりに急激にやると、これはこれで、水蒸気爆発のような危険もあると予測できた。
そうこうするうちに試験が開始された。
「よーし、じゃあ、今から5人ごとにしてもらうぞ。最初の5人希望者、手をあげろ」
最初はやはり緊張するのか、みな様子見をしているなか、プヨンは即行で、手を挙げた。ふと見ると、あっちでマウラーも手を挙げている。お互い目が合い、ニヤッと笑ってしまった。
(そらそうだよな。このあと次の試験があるなら、さっさとやって休憩するに決まってる。まわりのやつらは余裕なのかなぁ)
そんなことを考えていると、
「よーし、じゃあ、お前ら4人決定な。あと1人は?」
そうナゲルが声をかけると、もう1人、手を挙げるものがいた。これで5人決定だ。
早速、プヨン達5人は、試験部屋に案内された。部屋の扉がそれぞれあるが、扉の間隔がやけに広く空いている。
「じゃぁ、それぞれ、扉に入って、あとは、中の者に従ってね」
そう言われて、プヨンは、一応ノックして中に入った。
中に入ると、室内を一望できた。ほとんど何もないが、大きさは20m四方くらいはある。天井も3m以上の高さがある。その部屋の中央に、簡易のかまどのようなものの上に置かれた鍋があった。
目に入ったものは、それだけだ。
ただ、部屋の広さには合点がいった。火を使って水を蒸発させるには空気がいるし、空中から水を取り出すにしても、ある程度広くないと困るに決まっている。
「水を出すか入れるか、どっちにするか決めた?名前はー?」
かまどに気持ちがいっていて、すぐ横に担当の女性がくるまで気づかなかった。水差しみたいなものも持っている。
「あ、プヨンです。よろしくお願いします。水は、鍋に入れるほうで」
試験官は、名前を聞くと、用紙をくりながら、プヨンを探す。
「えーっと、プヨンね。あったあった。じゃぁ、準備はいらないので、はじめると言ってください。時間を計測しますね」
そういうと、試験官は、コンロから10歩ほど離れていった。
「わかりました。じゃぁ、はじめますね・・・シスターン」
プヨンは、いつもの対生成で水素を作り、水素と空中の酸素を反応させて水をつくる方法をとることにした。
ボボボボボボボボッ
水素と酸素が一気に反応すると爆発するので、気を付けながら適量を反応させ続ける。それでも、けっこうな爆風が出る。結合により発生するエネルギーは、次の水素作成に流用して、上手発生と冷却のバランスを取りながら安定させていく。
「はい。完了です」
鍋にいっぱいの水が貯まった。鍋の淵いっぱいまで水がきている。時間にしたら8秒くらいだ。一気に反応させるとふっとんでしまうので、思ったより時間をとってしまっていた。
紙に視線を向けていた試験官が鍋を見る。
「へ? 水を空にするんでしたっけ?私、今、水いれましたっけ?」
「え? いや、僕が入れましたよ? もう終了でいいですか?」
「そ、そんな。こんなに速いはずが・・・ととと、時計を、止めていない。ひゃー」
ユコナも以前、大量の水をだしているのを見たことがあったがあのときもそれほど時間はかかっていなかった。せいぜい数十秒くらいだったか。しかし、試験官には予想外にはやかったのか、測定に失敗して、かなり戸惑っていた。
「2、20秒・・・み、見てなかった・・・」
「えーー、それはないっすよ」
「も、申し訳ないです。えー、ど、どうしようか」
20秒が、合格基準なのかはまだわからないから、それでいいとはプヨンとしては言えない。
「じゃあ、もう一回やりますね。次は、水を空にしますよ。シスターン ヴェポラッブ」
今度は、水を気化させる。水が気化すると、体積が大きく膨れる。だいたい1700倍になるため、鍋からすさまじい勢いで風、水蒸気が吹き出していく。
「1、2、3、4、5、6。終わりました。はい、6秒。まぁ、7秒でもいいですかね?」
「そ、そんな、水を簡単に出したり消したりなんて。しかも2回も」
「7秒でいいですか?」
「は、はい!」
教官は、時間をきちんと測っていなかったこともあって、反射的に勢いよく返事してしまう。あわてて、台帳にも記録しているようだ。
それを確認して、
「では、失礼しまーす」
「は、はい。お疲れ様です。この控えの用紙をお持ちください」
プヨンは記録用紙の控えを受け取った。
急に敬語のようになったおかしな試験官に挨拶されながら、プヨンは部屋を出た。




