回復魔法の使い方2
4歳の誕生日を祝ってもらった。ろうそくに火をつけるのも消すのも、もちろん魔法だ。
最近は、水も多少なら出せるようになっていた。
まわりも飲み水程度の量であれば、コップに水を出して飲んでいるし中には直接口の中に出す者もいた。出る水も井戸水とかと変わらないふつうの水だ。あたりまえだけど。
水はどこからくるのか、どうやって出しているんだろうと最初こそ考えていたが、普通に考えればすぐ理解できた。
一番ありそうなのは空気中に含まれている水分を絞り出してるんだろう。そうすると水の出し方は、たっぷりと水分を含んだ空気を冷やすか、地中の水分を吸い出すのがはやそうだ。
空気を温める冷やす方法、エネルギーのやり取りを実際にできるまで多少時間がかかった程度で、一度出せたらあとは簡単だ。
空気中の温度を下げる。空気中の分子の振動レベルを下げ、水蒸気から液体に変えてやる方法だ。飽和してあふれた水を集め、そのあとは一度奪った熱を使って空気の温度を戻してやるだけのことだ。
エアコンのドライ機能の除湿のような感じか。相転移とかを直接利用できると、もっと効率的になるのかも知れない。方法はいくつもあり、より効率的な方法を見つけるための試行錯誤が続いた。
(でも、短時間で大量に水を出すのは難しいかなぁ。その時の天候とかにもけっこう作用されるし、どのくらいの量までだせるんだろう。まぁ、今はそんなたくさんいらないけど。思念でマジノ粒子を用いて直接水を生み出すというのももちろん方法としてはある。ただ、それができたとしても必要なエネルギーは膨大だ。すごく効率が悪くて疲れそうで大量は無理だと予想できた)
最近は多く安定して水を出す方法がないか色々と考える。実際やるとなるとそうそううまくいかなかった。
行動範囲が広くなり、けっこう動き回れるようになったのもあって、この2,3か月ほどは、メイサの治療を見る機会が減っている。
かわりに最近は3年ほど前に連れてこられた子で、ドリスという1個年上の男の子とよく遊んでいた。あとは6つ上のミリアという女の子や1つ下のテニスという男の子と過ごす時間が増えている。
まぁ遊ぶと言っても話をしたり追いかけっこなどをしたりといったごくふつうのものだけど。
そうした遊びの中でも、ミリアは火をつけることができるらしく火魔法の出し方を教えてもらったり、考え方を話しあったりすることもあった。
もう一つ、最近このあたりで走り回ったり、木や壁に登って思ったことがあった。意志の持ち方、集中力の使い方で、体が軽くなったり走るスピード速くなる気がする。飛び跳ねる高さもなんか違っていることに気付いた。
カタロと呼ばれていた時もある程度の重力の軽い星、重い星などいったことがないわけではなかったが、ここではかなり体重が軽く感じられた。
現に4歳のプヨン程度でも、めいっぱい高く飛ぼうと念じてジャンプすると、50cmくらいまで飛び跳ねられる。大人だと2m以上の高さまでは飛べるのを見た。
走るのもずいぶん早く走っている気がする。まぁみんなそうだから慣れてしまうとそんなもんかという程度だったが。
そこそこ大きな石など一見重そうなものでも、強く念じればある程度は持って歩けた。
もちろん軽く感じるけれど木や石がもろかったり、密度が小さかったりするわけではない。よくはわからないけど、実際に軽くする何か違う理由があるようだった。
そんなある日、そうやって遊んでいるとドリスがつまずいて岩場でこけてしまった。擦り傷ができてしまっている。傷自体はたいしたことないがプヨンはふと思った。
「なぁ、ドリス、怪我した?ちょっと見せてよ」
「あぁ、いいけど、ちょっと痛い」
こけた場所が悪かったようだ。石の角があたり、皮膚がえぐれて血がにじんでいた。プヨンはかねてから思っていたことをこの機会にとばかりに頼んでみた。
「なぁ、この傷ってさ、治してみていい?」
「なおすって、どうやって?メイサ様みたいにかい?」
「うんうん、そんなとこ。いいかい?」
一瞬いやそうな顔をしながらもドリスが頷いてくれた。プヨンに治してもらったら怒られなくなるというのもあるのだろう。プヨンは膝をついてメイサがいつもやっているように手をかざしてみる。
(メイサはいつもここでお祈りしてるんだよなぁ。祈りの言葉はある程度は覚えてるけど・・・。傷は皮膚が擦り剝けただけだから、近くのきれいな皮膚をコピー再生するようなイメージでいいのかな。怪我してる人を見たこともあるけど、中の骨とかも構造も違いはなさそうだし。メイサはリパリ―と言ってたっけか)
「リパリ―」
頭の中で皮膚コピーの手順を考えたとおりに、指先を患部にあててなぞってみた。指先がうっすらと光っているような気がする。
「どう?痛みは?」
ドリスに聞きながら治療する。ドリスはもう一度傷の部分を見ようとしたが
「あ、あぁ、どうかな。・・・・あれ、怪我してたのどこだっけか?」
もう傷がなおっていたようだ。
「へー、実は今まで試したことがなかったけど、思ったよりうまくできた。痛まない?」
「うん・・・痛くは・・・ないかなぁ。ありがとう」
ドリスは驚いていたが、それ以上は特に気にしてないようだ。今まで人の怪我の治療はなかなかやる機会がなかったけど、どうやらうまくいったようだった。
体の構造が複雑なのに再生できちゃうのが不思議ではあった。
ものを燃やしたりするよりはずっと難易度が高そうなのにできる理由。おそらく、人は特に意識しなくても傷は治る。もともと組織を再生する機能は備わっていることになる。
構造はわからなくても自力修復する、もとの組織をコピーしてるからできるんだろうと納得できた。
コピー機でコピーするのに、原稿の中身を理解しなくてもできるようなものだ。
皮膚や骨、細胞の構造とか細かい中身がわかっていなくても、複製するイメージでできた。
ただそうすると次の疑問が湧く。メイサは骨のような骨格も治していた。あぁいうのも、残る組織や無傷の体組織の構造を見ながらコピーすればいいのだろうか。
メイサなりにどう考えているのか今度聞こうと思った。
みんなと遊ぶのが一段落したあと、早速メイサのところに戻ってみた。
ちょうど赤毛の剣士の治療をしている。一目見てわかる、けっこうひどい打撲だ。
「アデルさん、じっとしててください」
「いてーんだから、しかたねーだろー」
「二度と痛く感じないようにもできますが」
「は、はい。じっとします」
この急に大人しくなった剣士はアデルと呼ばれていて時々治療にくる。
もう初老に近いが剣の腕がたつらしい。ちょっとした害獣がでたり盗賊が出たときは応援に呼ばれるそうだ。そして無理して怪我をしてやってくる。自分にもよく話しかけてくれていた。
「アデル、また、怪我したの?」
「おー、プヨンか。うん、ちょっと今度のは強かった。ふっとばされたときに、腕を打撲してしまった。はっははー」
豪快に笑いながら返事をし、自慢代わりかわざわざ痕を見せてくれた。
見た感じではあざができている程度に見えたけど、こんな怪我もメイサにかかればそう長くない時間で治ってしまう。ほんとに医者いらずだ。
少しするとアデルの治療が終わりメイサの手が空いた。様子を見ながら聞いてみる。
「メイサって、時々、大けがして、手とか足がおかしな形になっている人をなおすよね。あれってどうやってるの?」
「あー、もとに戻れって強く思うのよ。人の体の中には固い部分があるのよ。それが折れているの。だから折れた棒をもとのようにくっつけてあげるのよ。」
そう言いながら、メイサはプヨンの肘から腕にかけて骨に沿って指で何度もなぞる。
構造はプヨンの理解と変わらないようだ。骨が折れているのもわかるし、それをつないでいるのもわかった。血もでるし、血管つないだり神経とかもつなぐのは、もともとの治癒機能を応用しているんだろうか。自分なりに折り合いをつけて理解する。
「ふーん、どうやってできるようになったの?」
「実際に怪我した人を見たり、他の人の治療を見せてもらったりよ。プヨンも何度も見ているから様子は覚えてるんじゃない?」
「どんなものでも治せるの?」
「それは無理ね。少なくとも元の体が残っていないと無理ね、治せない。もちろん死んでしまっても治せないよ」
「切れたりちぎれたりしたらダメなんだね?治せる人はいないのかな?」
「できる人はいるけど、わたしは見たことないなぁ。町の専門の人とかね」
「そうかぁ。じゃぁ大けがだと簡単には治せないんだね。まぁそうだよね」
できることできないこと、完全にわかったわけじゃないけど、これ以上は聞いても難しい。少しずつ試していくしかない。
聞けることは聞いたし、プヨンはみんなのところに戻り、メイサはまた治療をはじめた。




