入学試験の受け方 3
男性2人、女性1人の教官と思われる3名が部屋に入ってきた。食堂と思われる大部屋の奥が1段高くなっており、そこに男性教官が立つ。プヨンとターナは部屋の隅に立ち、教官と思しき男性の話を聞こうとする。周りもざわめいていたのが、一気に静かになっていた。
「みんな、よく来てくれた。俺は、ここの教官をしているロイテンだ。こっちはハイルンとミーノだ。よろしくな」
ロイテンはみるからにがっしりとした、どう考えても魔法を使うようなタイプには見えなかった。ハイルンと呼ばれた男性と、ミーノと呼ばれた女性は、名前が呼ばれるタイミングにあわせて一礼した。
「今日は、この学院を受験するために集まってくれてありがとう。皆の入学を楽しみにしている。
試験は明日だから、今日は疲れを残さないように、しっかりメシ食って、ゆっくり寝て、体調を整えてほしい。明日は8時半集合だから、寝坊するなよー」
それだけ言うと、3人は壇上から降り、脇の方にさがっていった。入れ替わりに大皿に乗られた食材が運ばれてくる。見ると、肉や野菜を串にさしたものが積み重ねてある。バーベキュースタイルのようだ。机の上には鉄板も置かれている。これで焼いて食えということらしかった。
ところどころから、
「おー、焼肉だー。豪勢だな」「おーし、めっちゃ食うぞ」「おいしそう」
などと言った、喜びの声が聞こえてきた。
皆が食事の内容を理解したところで、再び、ロイテンから声がかかる。
「念のため言っておくが、生焼けでは食うなよ。腹壊すと明日大変だからな。こっちからも焼けているかはしっかりチェックするからな」
みな、うんうんと頷きながら聞いている。すでに、視線は、ロイテンではなく、目の前の食事に注がれている。さらにロイテンの説明が続く。
「それから俺は優しいから炭も用意した」
その声に、まわりからも、歓声があがる。しかし、
「炭1個は水10gと交換だ。他の交換レートはここに表があるから、炭がいるものはこれを見てくれ。もちろん、この部屋からでるのは禁止だ」
と、説明が続いた。
ここで、どよめきが走る。
「え?」「どういうこと?」「は?」
など、口々に、理解できないというような言葉をつぶやいていた。
「では、食い過ぎない程度に、自分たちが食べられるだけ食べてくれ。以上だ」
そうは言われても、みんな、食材を目の前にして固まっていた。
食材と鉄板はあるが、燃料がない。しばらくすると、皆、徐々に理解しはじめたようだ。要するに、自分たちで焼けるだけ焼いて食えと言われたのだ。
状況が理解されていくにつれ、あちこちから怨嗟の声が聞こえる中、ターナが聞いてきた。
「プヨン、どうするの?」
もちろん、回答は明白だ。
「どうするって、食べるでしょ?」
「それはわかってますって。どうやって食べるかでしょ?」
「それは、もちろん、火で焼いて・・・」
「だぁぁーーどうやって焼くのか聞いてるんでしょ」
ターナに怒られた。
ターナをおちょくるのもほどほどにして、
「まぁ、ちょっと炭をもらえる表を見に行こうよ」
ターナを誘って、燃料をもらえるか、交換表を確認しに行った。
「えーっと、炭1個で、水10gか。空中から水を出すなら、火球5発分くらいかぁ。これって妥当なんかな?」
「そんなの考えたこともないわ」
ターナも表をしげしげと見つめていた。
「10kgの重りを20秒間持ち上げる?水10gを渡すか、水30gを氷にする・・・。なによこれ」
「交換レートらしいよ。たぶん、まぁ、肉焼くのに相当する魔法量?得手不得手があるから、優しいのかも」
「えー、火をつけるだけならいいけど、全部魔法で焼くなんてないわ」
「俺は、まぁ、ふつうに焼こうかな。肉とってこよ」
ターナは、プリプリしながらも、炭の交換所の方にいってしまった。
肉は大皿に山盛りになっていた。野菜と肉が交互に串にささっている。1本あたりは、そんなに大きくない。せいぜい、2、3口で食べきれるような大きさだった。
少し離れた位置から、まわりの受験生の様子を観察する。
おそらく、狩りなどの遠出の際やったことがある経験者は、労力がわかっているのだろう、あまり迷わず、食べきれるまたは焼ききれる量を取っているようだった。
逆におどおどしているタイプは、後先考えずに山盛りか、びびって、2、3本というのが多かった。
「まぁ、そうは言ってもバカ食いするわけじゃないから、適量よね」
(肉を焼くなら、200℃くらいかなぁ。ちょっと火加減の調節を試さないと)
プヨンは、焼き方を考えながら、つい独り言がでてしまった。
そう言いながらも、プヨンは、肉串を10本程度は選んで皿に盛った。このくらいは問題なく焼けるし食べられるだろう。
ターナは、まだ戻ってくる様子がないので、適当に空いているテーブルを探すことにする。先に鉄板を温めておく方が、よいだろうと思い、うろうろしていた。そこで、ふいに声をかけられた。
「プヨン、やっぱり、ここにいたのね。別に探していたわけじゃないけどね」
聞き覚えのある声だった。




