入学試験の受け方 2
扉を開けて、ターナとプヨンは、2人して中に入った。
入ってすぐは吹き抜けのようになっており、上にあがる階段も見える。天井をみると、シャンデリアというほど大きくはないが、飾り細工のついた照明のようなものが見えた。
「受付は、あっちっぽいね」
ターナが示す方を見る。正面は、クローク兼受付にでもなっているようで、職員らしき人が見えるが、受付周辺に生徒側と思える人はいなかった。それ以外は人はまばらだ。
受付らしきほうに歩いていく。途中に大きな扉があり、そこからはけっこうな人の話し声も聞こえる。それなりの人数がいるらしいことがわかった。
入ってすぐは広間のようになっており、受験生だろうか、プヨンと同じかそれより少し年上くらいの若いメンバーが多数と、数人だが大人、おそらく学校側の人間と思われる人たちがいた。
学生は、プヨン達と同じ試験組なのだろうか。服装や立ち振る舞いなども同じような感じだった。
奥に手続きをするための臨時のカウンターらしきものがある。船が着いてからずいぶん経つからか、今は、手続きをしているものは誰もいないようで、ターナと目配せしてカウンターのほうに移動した。
カウンターのまわりでは、数人が立ち話などをしていた。
「あの人たちは、同じような受験組かしらね」
チラ見しながらターナが聞いてくる。プヨンも、チラッと様子を見たが、特に興味はもてなかった。まぁ、ライバルと言えばライバルなんだろうが、そこまで意識しても仕方がない。特に親近感も嫌悪感もなく、彼らにはさして興味は持てず、ちょっと頷いただけだった。
「いこうか」
「えぇ」
ターナもさすがに緊張しているのか、口数も少ない。受付にはヒルマと同い年位だろうか、若い女性職員が座っていた。ようこそといった簡単な挨拶をして、必要書類を出すように言われた。
このあたりも準備していたため、2人とも、名前を書き、書類を渡し、あまり込み入った会話をすることもなかった。
「夕食は17時からですけど、そこの食堂は自由に入れます。大半はそこにいると思いますよ」
そのほかにもいろいろ説明を受ける。特に明日の朝の集合などは、詳しく説明された。
「以上で終了です。夕食までは自由ですし、いろいろ見学していただいてもいいのですが、学校の敷地からは出ないでくださいね。それと、魔法の使い過ぎにはご注意ください。危険ですし、疲れると、いろいろと差し障りますので」
妙なところで、暗に魔法は使うなと釘を刺された。今晩は、まだ入学もしていない状態のため割り当てられる寮などもなく、生徒以外が訓練に訪れたときの大型の宿舎のほうに泊まるようだ。
「どうする?とりあえず部屋とやらを見に行く?」
特にあてがあるわけでもないのでプヨンが聞くと、ターナは、
「うーん、部屋っていっても、別にそんな大荷物ないでしょ?どうせ寝るだけだよ。それより学校内を見て回らない?」
と返してきた。
「それは構わないんだけど、たぶん、入口にあったような、ちょっと魔法を使うような仕掛けがあるんじゃない?疲れるほど動き回るなってことなんだろうけどね」
「あぁ、まぁ、使い過ぎに注意しろと言ってたけど、大丈夫でしょ。そういうところは避けて、軽く見て回るだけだしいいでしょ」
先ほどは、扉に対して押すタイプの魔法を使って扉を開けたが、今度は引くタイプの魔法を使い、外に出た。建物周りをぐるっと回ってみる。
「学校の裏って、しばらくは草地だけど、あの裏の絶壁を超えるのって無理よね」
学校の裏は、膝から腰くらいの草が生えた、単純に手入れされていない草地のようだったが、その奥、500mくらいで、完全に切り立った数十mの高さの岩壁になっている。
「そうなんかな。確かに、あまりに絶壁すぎて、登れないよな」
「あっちの森も、けっこううっそうとしているね」
建物の左側は、岩壁と湖の間がうっそうとした森になっている。
「敷地から出るなと言われたしなぁ。もしかしたら、そのまま町の方に戻れるのかもしれないけど、今から行く理由もないよな」
「だよね。なんか、へんな動物の鳴き声も聞こえるし、入りたくないし」
学校裏の山や森は危険だから入るなと言われたが、建物と校庭、訓練場などは壊したりしなければ、自由に見てもよいと言われていた。そちらを散策し、緊張感をほぐす意味もあって、まだ知り合って間もないターナではあったが、お互いの知っている学校情報などを交換し続けた。
宿舎の位置なども確認して、しばらくして、さっきの食堂前まで戻る。食堂はふつうの扉だった。問題なく中に入れた。
食堂の中はかなりの人数がいるのか、混みあっていた。100人以上いるように見える。最終の船で到着した受験生たちも、すでに手続きを終え、食堂に集合しているだろうか。
適当に空いている席などに座ったプヨンだが、周囲を観察しているだけだった。顔見知りそうな者同士で話し声も聞こえるが、ターナも話しかけてこなかった。
「そろそろかしら、きたわね」
ターナの声ではっとして、視線の先を見ると、入口の反対、奥の方に、3人の職員らしき人たちが歩いてくるのが見えた。




