入学試験の受け方
2人して校舎のある高台の下に立って上を見上げている。だからといってターナは困っているわけではなさそうだ。
「ねぇ、まさかとは思うけど、この岩場登るの?」
登る気もないくせにターナが言う。ちらっと、右の方を見るので、釣られてみると、確かに岩壁を登っている人がいた。受験生だろうか。
「まさか、それは、ないでしょ。はははー。 ビセップスルー」
筋力強化で気合を入れる。
「とりゃー」
おそらく、普通の人でも、ちょっと強化魔法を使えれば、高さ2mくらいは余裕のはずだ。
以前アデルとかもよく使っていたが、戦士系で鍛えていれば、4mくらいまではふつうに飛び上がっていた。
そこからは、個人差はあるが、いくら魔法で強化しても限界があったが。
プヨンは、難なく、崖上に飛び上がった。そして、ターナをみくだし、いや、見下ろしていた。
ターナがどうするのか、興味があったこともあり、様子を見ている。
「じゃー、私もいくわよ。霊魂を司る偉大なる神、タナトスよ。我が願いを聞き届けよ。ツターナトス」
「ぶふっ」
思わずプヨンは、ターナのキャスティングに噴き出しそうになってしまったが、ツターナは、無事にトスされ、崖上に着地した。
「次はわたしっと」
掛け声は聞こえたが、キャスティングは何か言っているようだが、聞こえなかった。
ターナがそう言うと、ターナは非常にゆっくりとだがふわふわと浮き上がった。
ジャンプしているのとは、ちょっと違う。飛ぶというほどでもなく、ゆっくりと宙に漂っているような感じだ。しかし、やたら、ふらふらとしていて安定していなかった
2mくらいを上がりきるのに、1分弱ほどかかっていた。
ふわっと優雅に地上に降り立とうとしたが、もうちょっとのところで、バランスを崩してよろめいてしまっていた。
それを、まじまじとプヨンが見つめる。こういう浮遊魔法は見たことがなかった。
「な、なによ。なんか文句あるの?」
ターナは、浮遊の動きの遅さを気にしているのか、見つめるプヨンに文句を言ってきたが、
「い、いや。そういうわけじゃ。そんなふうに浮かぶのを見たことがなかったもので」
プヨンのコメントが好意的に受け取られたのか、ターナは機嫌をなおし、
「ふふふ。アルフには優雅さが必要なのよ。浮かぶのはバランスが難しいのよ。墜落は最悪だからね」
たしかに、マックボードのように横に進むだけなら、押すだけである程度進むが、浮かぶとなると、重心がずれるだけで回転して、激突してしまいそうだ。
着地も、うまく降りる必要があるだろう。プヨンは、ターナが浮遊できることに素直に感心していた。
とりあえず、校舎なのだろうか、建物の前についた。まわりを見渡すが、特段何もない、ありふれた庭だった。
ふと見ると、建物の入口はあつい扉があり、その前に女性が1人立っている。2人はそちらのほうに近づいて行った。
「ようこそ。受験生の方は、あちらで手続きをしてください」
当たり前だが、立っているのは教官か学校の関係者だろう。会釈し、促されるまま、扉をあけようとしたが、
「扉は、あついので気を付けてください」
と注意を促された。
たしかに、厚くて重そうな金属製の扉だった。これも、筋力強化だろうかと身構えるが、
「あちっ」
ターナが取っ手を持とうとしてて、慌てて手を引っ込めていた。重い扉だろうと思って、力いっぱい握りしめようとしたようだ。
ちゃんと説明してくれたのに、立っている女性を睨みつけるターナ。
「そこまで熱くないんですけど、これ、最初、扉が熱いことを知らない人がくるとびっくりしちゃうんで、説明することになってるんです。説明するのは、試験時の今日明日くらいだけですけど」
(けっこう嫌がらせなのか鍛錬なのか、いろいろあるんだな。これは、気を付けないとな)
ターナは、扉に触れたとき、指が熱いと思ったようだが、反応がはやかったからか、手にダメージは受けていなかった。
ただ、もう一度扉を触るのもちょっとためらっているようだ。
もちろん、チラ見しても、立っている女性からのアドバイスはなさそうだった。
プヨンも、試しに指で触ってみる。
何度かつついてから、指で触れてみるが、何もしないでじっと触っていられるのは1秒くらいが限界だ。
触った感覚からしたら、70~80℃くらいといったところか。
あとで治療すればいいやと、試しに我慢して長めに触ってみた。
すると、熱いとは感じるが、不思議と手にダメージがなく、火傷にはならない。
実際に熱いわけではなく、魔法かなにかの方法で、扉が熱いと感じさせられているようだった。
「プヨン、どうするの?布でも巻いてあけてもいいけど、なんか邪道よね」
ターナは、なんとなく、ただ開けられればいいとは考えていないようだ。
押すだけで開きそうに見えるが、さすがに金属扉で重さもありそうだ。熱いと感じることを考えると、取っ手を力いっぱい握るのはためらってしまっていた。
もちろん、プヨンもどうするか考えていた。熱くはないが、熱いと感じさせる扉ということであれば、体に熱が伝わらないように断熱性をあげたり、扉の温度を冷やし、実際の下げてしまうのも何か違う気がしていた。
少し考えたが、手っ取り早く開ける方向でいく。失敗したら、また、考えればいい。
「エッシッヒ」
扉に向かって右手を近づけ、ゆっくりと魔法で扉を押し出す。
重そうな扉ではあったが、しょせんは、人が開けられる重さだ。ゆっくりと扉が開いていった。横に立っていた女性も、満足そうに笑っていた。




