入学試験前日 4
「じゃぁ、まぁ、とりあえず、お昼ご飯を獲ろうか」
「え、昼ごはんはあるの?よ、よかった。ちょっとおなかすいていたのよね」
ターナは、お昼ご飯の言葉に反応した。どうやら、ほんとにお昼ご飯狙いだったようだ。機嫌がよくなった。
「ないよ。とりあえず、メシは今から、狩るつもりだった」
「そ、そうなんだ。いつも食事はその場で手に入れるんだ?慣れてるんだね」
そう言われて、ふと思った。もともと町移動自体の経験が初めてだ。
「そう言われたら・・・、実は一人で町を移動するのってはじめてなんだった・・・」
レスル依頼中は、たいてい燻製肉や瓶詰程度の保存食を持っている。そして、途中で見かけた獲物を狩ることができて、それを食べることは何度もあった。
今回も同じように考えていたので、現地調達できればラッキー程度に考えていた。
それを聞いたターナは見るからに失望していた。ターナは、気持ちが表情にすぐあらわれるようで裏がない。見るからに「こいつバカだね」とわかりやすい顔をする。
「そ、そんな。声をかける相手を間違ってしまった模様。それでいったいどうするつもりなのですか?」
最後にぼそっと、「こんな使えないヤツに声をかけてしまうとは・・・」と聞こえたような気がしたが、そこは、大人な対応をすることにし、聞こえなかったことにした。
「えー、そうだね。今から狩ろうかな。上空にサンダーバードがいるから、あのあたりで」
「さすが、初めてですね。素人丸出しです。あんな上空にいるのに無理でしょう?」
ターナは上空を見上げながら聞いてくる。たしかに数羽が旋回しているが、かなり上空だ。
森の一番高い木より上、70m、あるいはそれ以上はありそうだった。ターナのどん底の笑顔がまぶしくて目を向けられないくらいだ。
「アサップ」
とりあえず選んだ1羽に的を絞って、数発の火球を放つ。
しかし、上空を飛んでいるサンダーバードだ。届きはしたが距離があるため数秒はかかる。サンダーバードは知能も悪くない。当然のように軌道を読まれて簡単に避けられてしまった。
「はぁぁ、お昼が・・・」
(しかし、あの距離まで届くとは、まんざら使えないわけではなさそうです)
火球が命中せず、ターナの露骨な失望の表情。しかし、見た目は複雑な表情に変わっていた。
こちらの攻撃がかわされた一方で、サンダーバードが反撃をしてくる。プヨンの周りに軽い稲妻が数本走り、そのうちの一発がプヨンの腕に当たってしまった。
こちらも感電はしたが、一瞬ピリッとした程度だ。サンダーバードとの距離やプヨン自身の魔法抵抗もあり、威力はかなり弱っていたようだ。
昼ごはんがさらに遠のいたターナの表情が露骨に暗くなる。しかし、複雑な顔もしていた。
(こ、こいつ。いくら上空で距離があるとはいえ、サンダーバードの雷撃を意に介さないなんて)
ただ、鳥の方にとっては、食うか食われるかではない。おそらくプヨンを食うことはできないだろう。かかわってもデメリットしかないため、一撃を食らわせた後は逃げ始めた。それを見て、プヨンは焦る。
(くっ、こいつめ。これは、控えめにしてやったらダメだな。おかずがなくなってしまう)
「し、しかたない。くらえっ。シスターン」
さらに上空に逃げようとしたサンダーバードの一匹に的を絞り、そのまわりに水素を発生させ、即座に火をつけた。いつもの水素と酸素から水を作る魔法だが、今回は水目的でなく、水素と酸素の反応時の熱を利用する。
ズバーン
サンダーバードを中心に、半径数mにわたって、短時間だが赤い炎が噴き出し爆発が起こる。爆発によって発生した爆風の余波、数十m離れた地面にも届いて、木の葉などが舞い上がった。
ターナは、上空を見上げ、突然の炎と風に目を丸くしていた。
「あ、あの距離で、どうして。爆発したわ。相当、距離で威力が低下しているでしょう」
何を慌てふためいているのか、まともな言葉になっていないが、驚いているのは十分感じ取れた。
そこは、あえて無視して、
「どうよ。ふふふ。赤い炎をあれだけあびれば羽毛は燃え尽きているよ。むしる手間が省けたはず」
ついでに中までうまくやけていたら、一石二鳥だ。
ヒュルルードスン
空から焼けた鳥がプヨン達から少し離れたところに落ちてきたので、走って拾いに行った。
地面に落ちて、鳥に着いた木の葉などを取り除くと、石の上に置き、
「ヘブンシオ」
空中の水蒸気を300℃程度まで加熱する。その加熱水蒸気を鳥肉に吹き付けることで、蒸し焼きのようにした。
火球では火力が強すぎる上に安定して持続させるのが難しいため中まで火が通らないで表面ばかり焦げてしまう。この方法だと、余計な脂も落とせ、パリッと仕上がる。焦げすぎないように素早く焼くには、このくらいがちょうどよかった。
ちょうど、100mダッシュだが10秒しか続かない威力(速度)と、持久走で3分走ることの違いのようなものだ。空中の水分を利用し、加熱水蒸気とすることで、ちょうどよい火加減の魔力を供給し続け、オーブンのように10分くらいでうまく肉を焼くことができた。
「よし、できたっぽい。食べる?」
ターナは、無言で、プヨンが鳥を焼くところを見つめていたが、黙ってコクコクと頷いた。




