訳あり依頼の受け方 6
ニードネンは、ノビターンに言われ、今日はAHIのメイン研究所、ソレムリンにきていた。AHIは、ネタノ聖教の魔法研究部門の略称だ。
あらかじめ連絡していたこともあり、ニードネンが指定時間に着くと、メレンゲ教授と、おつきの研究員達数人がうやうやしく出迎えてくれていた。
教授は、背が高いがっしりとした体格で、一見すると肉体派に見えるが、魔力の貯蔵、運用に関しては、この研究所の第一人者だった。
先日、メサル襲撃の際に、ニードネン達が使用していた、ストレージを使った魔力運搬方法を考案したのは、この教授だ。
まずは、とりとめのない時候の挨拶と先日のメサル拉致の件、お互いの情報を交換し、ニードネンは本題を切り出した。特に、そのさなかに、相手方からも予想外の威力の魔法を受け、そして、こちらの魔法は防がれたことを説明する。ノビターンに言われなくても、ニードネンはなんらかの対策をするため、近いうちに相談にくるつもりだった。
「・・・それで、教授、何か報告があると聞きました。わざわざ、どのようなことで?」
「それは、こちらのほうで」
メレンゲが率先して奥の実験棟に案内してくれる。部屋に入ると、奥の薬品保管庫から、3つの薬品瓶を取り出し、ニードネンの目の前に並べていく。
メレンゲがおもむろに説明をはじめた。
「ニードネン卿含め、ストレージで魔力を運搬、使用する方法を使える方々に朗報なのです。従来は、左の緑の液体です。こちらに比べ、この中央の薄緑、右の赤は、約3倍の量を蓄えることができるようになりました」
「お、おぉ。実は、今日は運べる魔力量をもっと増やせないか相談に来たのだ。で、どうやるのだ?」
ニードネンがメレンゲをせっつく。もちろん、そうするほうがメレンゲの自尊心をくすぐり、やる気もでると計算づくだ。ニードネンの顔を見て、自分の成果が認められたとメレンゲも満足げに頷き、さらに説明を続ける。
「方法は同じです。ただ、従来の薬品に、マグネシウムを加工したミグネシウム粉末を一定の濃度で混ぜることで・・・」
メレンゲ教授の得意気な説明が続く。それを聞くニードネンも満足していた。結果が出ているのだ。多めに盛られている、くどい説明も喜んで受け入れられた。
昨日に続き今日も、プヨンはレスルにきていた。メサルも同席している。
レアは一緒にくると言い張っていたが、途中でメサルにダメと言われ、泣きながら帰っていった。よほどメサルに護衛として選ばれなかったのが堪えていたようだ。そもそも女性では限界があるためだと、容易に想像できることだが。
しかし、レアはすぐに戻ってきていた。こっそりつけてきている。プヨンはそのことに気づいたが、あえて見て見ぬふりをしておいた。
レアは、結局レスルまでついてきて、今もレスルの待合室の隅で警備員をしている・・・はずだ。メサル達は気づいていないのか、同じように気づかないふりをしているかまではわからなかったが。
レスルでは、ホイザーとメサルからいろいろと説明をしてもらった。
護衛の内容や休み、報酬、どのくらいの期間か、どんな学校なのか、学校では何をすればいいのか。ふつうに依頼として受けるとして、尋ねておきたいことはだいたい聞くことができた。
ざっくりと要約すると、万が一の時の連絡役、証言役であり、安全は学校にいる時点でまず大丈夫で、護衛らしいことは発生しないはずとのことだった。
学校の名前が魔法・看護学校となっているが、一般教養程度の知識科目や、これも一般向け程度の剣や弓などの物理武器の使い方もある、実践派向けらしい。
(学校かぁ。勉強かぁ。勉強が好きで好きで学校いくのって、ふつうないよなぁ。どっちかというと、知識よりは資格みたいなもんか。まぁ、自分で授業料払わないから、いいんだけど)
「プヨン、俺は、プヨンをただの護衛として雇うつもりはない。共に学び、特に回復関係についての共同 研究者としてだ。対等な立場で接してほしい」
メサルは、最後にそう自信の思いを伝えてくれた。
「そ、そうなのか。雇い主としてでなくて?」
「あぁ、もちろんだ。ただ、俺は身体的な戦闘とかはかなり向いていない。そういうところは助けてもらうことはあるかもしれないが・・・」
メサルは、雇用主として使用人のようにあれこれ命令しようとかは思ってないらしい。そういった点も、プヨンとしては、行動の自由が広がるので、受け入れやすかった。
最後に、ホイザーは、長期の依頼でもあるので、契約書を出してきた。プヨンは署名をし、これで依頼主との契約が完了した。
そうして、話が一段落すると、ホイザーが、レスルの登録証を持ってきた。それをメサルが説明する。
「これは、プヨンが蘇生魔法を使った証明だ。回復がAAAAとなっているだろう」
あらためて、登録証を見ると、たしかにそうなっていた。
「なんで、わざわざ?そんな設定があるって聞いたことなかった」
「設定はあるよ。そもそもそういう人材がいないから、使ったことがないらしいだけで。ただ、昨日言ったが、蘇生魔法があることを信じないものが多数いる。だから、頼んで作ってもらった。何かあったら、レスルの登録証なら公的に示せるからな」
ホイザーを見ると、ホイザーはなんとも言えない顔をしていた。
「まぁ、そもそも、設定はあるものの、ここのレスルはAAAまで発行したことがないんだがな。どうしてもと言うし、一応事実ではあるのは確認したし、非公式と公式の間くらいに思っておいてくれ。問い合わせがあったら、裏付けの説明はしてやるよ」
「よし、プヨン。じゃぁ、これを受け取っていてくれ」
そう言われて、プヨンは、今までの古いものを返し、入れ替えで登録証を受け取った。ただ、そんな状態なら、うかつに見せても簡単には信じてもらえそうにないし、いちいち説明するのも面倒だったけれど。
「そして、最後に言っておくことがあるが・・・」
ホイザーがあらたまって切り出してきた。
「今までの話は、プヨンが学校に入学できたらの話だ・・・3週間後に試験がある」
「そっか、試験か。まぁ、入学には試験があるのは仕方ないかもな」
「だから、今までの話は、すべて試験が合格したらの話だ」
それは、そうだろうな。プヨンもその点は理解できた。それに頷くと、ホイザーは部屋の奥に行った。
ドサ、ドサッ
そして、ホイザーは奥の書棚から、本を数冊出してきた。1冊はそこまで厚みがないが、全部で10cm近い。
「な、何これ?」
「試験は実技が中心ではあるが、筆記もある。試験までに覚えてくれ」
沈黙がおこる。プヨンは、2人を交互に見る。
「ま、待って。勉強って、暗記とか?そんなん無理」
「うんうん、気持ちはわかる。だが、これはなんだかわかるよな。落ちたら違約だ」
ホイザーが契約書をひらひらさせながら言う。プヨンは、メサルの方を慌てて見るが、
「すまない、プヨン。俺は、特別推薦枠で、簡単な実技しかない・・・」
「は、はめられた」
「本は、あとで、無料で教会に届けておいてやるからな」
ホイザーの声に頷くのが精いっぱいだった。




