訳あり依頼の受け方 5
「すでに聞いているだろうけれど、直接、自分の口から説明しようと思ってね」
メイサから説明を受けた『メサルの護衛』という依頼。メサルは、その背景を、説明してくれた。先日の襲われた件の背景から、なぜ、プヨンが指名されたかまでだ。
メサルが言うには、襲われる件は寝耳に水ではなく、もともとそういう気配、噂があったこと。だから、移動に護衛を手配していたらしい。
そして、自分たちが今いるところ、教会組織には、味方だけでなく、おそらく通じているものもいるだろう。だから、どこか安全な場所にいる必要ができたということだった。
どうやら、その安全な場所というのが学校のことらしい。
(身を隠すのに、なんで学校なんだ?かえって危険では?)
そうプヨンは思ったが、その点についての説明はなかった。
今いる場所が危険だから、居場所を変えるということが重要なのだろうか。それとも、その学校は何か安全になる理由があるのだろうか。
まぁ、メサル一人の意向でもないだろう。説明の意味はわかった。もちろん、プヨンとしては、それは良案だ、素晴らしい案だと納得したわけではないが。自分も危険にかかわるのならなおさらだ。
そう思って、快諾しかねていると、メサルがなぜかにじり寄ってきた。
「実はな、プヨン。今回の件でお前を指名したのは、あのときの回復魔法を見たからなんだ。正直、俺は驚いた。あの時お前がやったことを直接みたのは、うちのペリンと俺、ユコナさんだったか。あれを人から聞いただけではきっと理解できなかっただろう。あのときいたのはプヨンを入れて4人だが、いったいどうやったんだ?いったい、どこで学んだのだ。また見せてほしいんだ」
もう1人いたペリンは、とりまとめをしていた女性のことだろう。どこでと言われても、なんとなく可能性があっただけだ。といって、イチかバチかで試しましたとは言えないが。
「そうそう頻繁にあんな状態になってたまるか。それに、あれは死んだわけじゃない。ちょっと動かなくなったから、動かせるかためしてみただけだ。」
「おぉ、そうか。ちょっと止まったから動かしたのか。またちょっとやってくれるか?」
どこまで真剣なのか、冗談で言っているのかわからないが、適当に流せそうな雰囲気でもない。
「あれは、心臓部分をメサルが治してたからできたんだ。1人じゃできなかったよ」
もし、心臓や頭部を治す状況になったとしたら、プヨンは自信がない。形は整えられるかもしれないが、こうした臓器はうまく動くかわからない。
でも、メサルは治すことはやってのけていた。動くきっかけがなかっただけだ。
プヨンは、実際、直接、体の中身を見たこともほぼなく、直接触れた経験などゼロ。触った感触すら知らない。こんな構造だという中身に関するざっくりとした知識があるだけだ。この体の構成の知識という点に関する技術レベルはメサルのほうが高いと思われた。
「いや、あれは、毎回成功するとは限らない。五分五分くらいだろう。失敗すると・・・」
「失敗すると、どうなるんだ」
「おそらく、完全に失敗すると(いずれ火葬するから)灰になるかな。そして、2回失敗すると、(時間的に考えて魂が)ロストされる。5分以内が許される時間。10分では、ほぼ無理だと思う」
実際、5分も経つと、心肺蘇生の確率は大幅に下がる。
「そ、そうなのか。そんな短いのか。で、やらなかったら、どうなるんだ? 」
「え? そ、それは・・・たぶん・・・」
「たぶん?」
「・・・たぶん・・・数分で、ロスト・・・」
「できるのにやらないという選択肢はあるのか?」
「・・えーー。ない・・・かな。まぁ、心臓が動いていない場合が前提だけど」
「そうか。なら、今後も存分にやるがいい」
メサルの許可がでた。まぁ、どっちにしろ死ぬなら当たりまえだが。
「実はな、俺は、あのレアを救ってくれたことを神に感謝した。それを、皆に伝えたのだ」
「え?伝えた?」
(え?俺の能力をみんなに言ったという事か?)
プヨンの動きがとまる。メサルは何を言いたいのか。
「だが、プヨンの件を理解しているのはたった6人だ。他にも説明したんだが、ごく一部以外、誰も信じなかったんだ。そんなものできると聞いたことがないと。怪我した当のレアですらだ。あいつは俺が神に祈り、奇蹟で治したと思って大喜びしていたが」
(そ、そうか。じゃぁ、眉唾と思っているんだな。それはそれでよしとしよう)
「はっきり言おう。誰にも言ったことはないが、俺は、以前から蘇生魔法を研究しようとしていたんだ。うかつに試すわけにもいかず、ほぼ禁忌に近いからなかなかできなかったが。だが、これで、希望が見えた」
「俺は、プヨンの力を皆に知らしめるべきだと思う。そして、俺もそれを身につけたい」
「そ、そんなことはしなくていいよ。それは、大丈夫。気持ちだけで十分だ。知らしめなくていいよ」
(余計なことしないようにさせないと。ここは、のんびりといけばいい)
「え?そうなのか?それだけの知識があるなら・・・」
「わかった。メサルに協力するよ。うん。ともにやろう。でも僕は教える苦手だ。見て学んだら、自分で広めればいいよ」
メサルがするぶんにはいいが、自分が注目されるとかは面倒この上ない。協力はしてやってもいいが、プヨンとしては、メサルが勝手するならどうぞという程度だ。
「本当か。条件は聞いているだろうから、この依頼を受けてくれるんだな。俺を導いてくれ。これも神の御導きに違いない」
(あ、そうだった。引き受け前の条件とかをいろいろと聞きに行くところだったのに。は、はやまった)
「あ、待った、ちょっと、まだ、条件を・・・」
「うぉぉー、可能性が見えたぞ。絶対やるぞ。うぉー」
メサルは一人で盛り上がっていた。もう、ダメとは言えない。
(聞いてない。こいつダメだ。今さら、詳しく聞いてからとか、条件しだいでとか、言うのムリ。明日、レスルいくしかない)
プヨンは、今聞くことは諦めた。




