訳あり依頼の受け方 4
後ろから急に別の声が聞こえた。
「レア、ここにいたのか。急に飛び出していくから、探したよ」
(この声はメサルだ。た、助かった)
「あ、あ、あ、お兄様・・・」
レアは、構えていた剣の先を地面に向ける。
「そこにいるのは、プヨンか。レア、どうしたんだ・・・」
「い、いえ。その。あの・・・」
先ほどまでいたって強気だったレアが、しどろもどろになっているのがおかしかった。が、プヨンは黙って聞いていた。
「わたしのほうが、お兄様を守れるという事を示そうと思いまして、その・・・勝負を」
「なんという、軽率な・・・。プヨン、大丈夫なのかい?」
メサルは、レアのほうを一瞥しただけで、プヨンのほうに寄ってくる。
ガラーン
レアの剣が落ち、大きな音がする。レアは、メサルに怒られたのが堪えたのか、放心して立ち尽くしていた。
プヨンは、わざとよろよろと立ち上がる。腕のところをさするようにして、痛がるふりをしている。
切れ目の傷口をくっつけ、さらっと最後の仕上げをしておいた。服は破れて血はついているが、これで元通りだ。
「いや、だいじょうぶだよ。怪我はしてない。もうちょっと遅かったら危なかったけど」
レアをチラ見しながら、レアの落とした剣とさっきの剣のかけらを拾った。
それを聞いて安心したのか、メサルはレアの方に向きなおり、何をしたのか問い詰める。
「わ、私ほど、お兄様を大切にするものはおりません」
「だって、プヨンは頼りないです。こんな弱さでは、お兄様を守れるはずないですし・・・」
「プヨンがお兄様にもらった大切な剣を壊してしまいました」
堰を切ったようにまくしたてる。
なにやらいろいろ弁解らしきことをしているレアを横目で見ながら、プヨンはレアの剣と欠けた部分を掴む。
はがれたところを見ると、剣の欠片は大きくはがれただけで、粉々になったわけではなかった。断面が同じで、あわせるとぴったりとくっつくようだ。
「これなら、なおせそうかなぁ。まぁ、くっつけるだけなら」
かけらの部分を指でつまんでいると、かけら部分が高速で微振動しはじめた。
「フリクションウェルディング」
超音波溶接を応用し、金属同士などを融点に比べ比較的低温で結合させることができる方法だ。
高速振動により切断面の不純物も除去され、同時に振動摩擦で加熱されていく。
振動するかけらを剣に押し当てることで、数秒で接合させることができた。
「よし、まぁ、こんなもんか」
接合面を見るが、もう、ほとんどわからないくらい元通りになっていた。プヨンは剣を持って、諭すメサルと説明するレアのやり取りを他人事のようにのんびりと眺めていた。
剣の修復が一段落して、ふと見ると、ちょうどレアが走り寄ってきた。プヨンが持っていたレアの剣を奪い取り、メサルに見せようとする。
「ほら、見てください。お兄様の剣をダメにしたんですよ。ほらほら」
メサルもそれにつられ、剣を見るが、
「ふーん、どこなんだい?」
「あ、あれ?あれれ・・・」
レアが慌てふためくが、剣は見た目は完全に元通りになっていた。欠けた位置もわからない。
理解できないが、これではダメだと、すぐにレアが次の手を打ってくる。
「プヨンの剣は未熟です。この程度では、お兄様は守れません。私の方が適役です。ほら、さっきも私の攻撃を受けて・・・あれ」
プヨンの腕の切り傷を見せようとしたが、傷は治っていた。ただ、服が裂けていたところはそのままだった。裂け目も血がにじんだあとがついている。
「プ、プヨン。大丈夫なのかい?」
「あぁ、うん。大丈夫。無事だよ。ちょっとかすっただけだから」
「そ、そうか。乱暴な妹ですまない・・・」
そういうと、メサルは、レアに向きなおり、
「プヨンに怪我がなかったからよかったが、そんな乱暴なレアはダメだ。プヨンと話があるから、しばらくあっちにいっててくれ」
初めて見る。いつも大人しい口調のメサルが、珍しく、強い口調でレアに告げている。そして、レアは完全にフリーズしている。ゆっくりと顔が変わっていく。まるで微速度撮影のように、泣きそうな顔にかわっていった。そして、
「うわーん、いやだーー」
絶叫しながら、レアは駆け出して行った。
「すごいな、時間制御魔法の一種かい?」
まるで高速度カメラの映像を見るかのようなレアの表情変化を思い出し、プヨンは吹き出しそうになっていた。プヨンがメサルにそう言うと、
「そうだな。なかなか、見事にきまったな」
プヨンの顔を見て苦笑しながら、メサルは頭をかいていた。




