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魔法の使い方教えます  作者: のろろん
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訳あり依頼の受け方

先日、プヨンが襲われてから数日が経っていた。プヨンは、特にトラブルもなく、平穏に過ごしていた。

 あの女性2人が、プヨンやユコナに何かしかけてくることはなかった。もちろん、プヨン達も不用意に出歩かないようにしていたのもあるが。


 そうしたある日、

「プヨン、メイサ様が呼んでるわよ。かなり急いでいたわよ」

 

 朝、のんびりしていると、突然呼び出しを受けた。一体何ごとだろう。メイサに呼ばれるなんて、久しくなかった。


 いぶかりながらも身支度を整え、すぐにメイサの部屋に向かった。なぜか、みんなプヨンに優しそうな目線を向け、目が合うと、ありがとう、などとお礼を言われることもあった。プヨンには何のことかさっぱりわからなかったが。

(ありがとうって、なんだ?)


「プヨン、入りまーす」

 ノックとほぼ同時に扉を開け、メイサの待つ部屋に入った。執務部屋の机の椅子にいつものように腰かけたメイサがいる。なぜか、険しい表情をしている。

「そなたが、温泉帰りのおとこか・・・楽しんできたようですね」

「うっ・・・そ、それが何か? 」

 

 先日、レスルの仕事にかこつけて温泉に行った件で何かあったのか?あれはあれで、それなりの苦労をしたのだが、もちろん、メイサは知る由もない。

「あのとき、プヨンが持って帰ってきたのは、温泉饅頭だけだと聞きました。本当ですか? 」


(いったい何が言いたいんだろう)

 プヨンは、ドキッとした。

「え、えぇ。それが何か? 」


 バンバン

 

 メイサが机をたたく。

「自分ひとりだけ温泉を満喫して・・・。お肌によい温泉の元とか、お肌によい効果のある石鹸とか、周りにも分け与えようという気はなかったのですか? 」


 お肌のところでメイサから何か得体のしれない気が感じられた。よる年波のせいか、メイサもいろいろと試練の時を迎えているのかもしれない。

 ここは穏便にすまそう、そうプヨンは考えた。


「お・・・おぉぉ。そ、それは気が回りませず、申し訳ありません。・・・次回かならず・・・」

 

 そう答えたところ、メイサは突然席を立ち、机をたたく。


 バンバンッ


 先ほどより音が大きい。


「な、なんと、そなた、そんな次回などと悠長なことが許されると思っているのですか。しかも一度ならず二度も楽しもうとは・・・そんなことが許されると本気で思っていたのですか・・・。あなたには、もう少しいろいろな教育、特に慈心、思いやりの心が必要に違いありません」


 メイサは、一瞬激昂したが、しかし、すぐに落ち着きを取り戻し、椅子に座りなおした。

「今日呼んだのは、その件ではありません。プヨンに伝えねばならないことがあります」


(ち、ちがうんか。いったい何なんだ)

 プヨンが、メイサの意図を掴みかねていると、

「プヨン、あなたは、ネタノ聖教の司祭様の護衛兼学友として、キレイマスにある、ナインカトラズ魔法看護学校に入ってもらいます。来月試験があります。パスしてください」


 メイサは、まるで10年間一言も話さなかったかのように、一言一言かみしめながらゆっくりと話す。


「え?なんですか、それは?そもそも、何のために?学友とは誰の?」

「費用はすべてあちらもちで、報酬などのやり取りはすべてレスル経由でやるとのことです。ただし、入学する以上は入学試験にパスする必要があります。それが採用条件になっています」

(メイサ、ぜんぜん聞いてないし・・・)

「し、試験?そもそも、護衛するような訓練もしたことないし、自分が人を守るとか無理でしょ?しかも試験で採用とか・・・」

「相手はネタノ聖教のメサル様ですが、なぜかあなたを指名してきました。これは決定事項です!」


 メサルと言えば、先日の温泉行の護衛の依頼主だった。たしかに、体が悪いとか言っていたから、補助がいるのかもしれない。

 しかし、学校となると短期ではないだろう。かなり長期の依頼になる。自分のために学校に通うだけでも大変だというのに、他人の護衛をしながらとは、かなり負担の大きい依頼に思えた。ただ、仕事をしながら自分自身への教育効果もあるとしたら、それはそれで利点の多い仕事とも思えた。


 さて、どうしたものか。拒否はできないが、だからと言って、気安く引き受けるとも言えない。


 しばらく、プヨンとメイサは見つめ合い、お互い次の言葉を待つ。


「プヨン、私が、なぜ、あなたを学校に送るかわかりますか?」

 メイサが沈黙を破って、ゆっくりと話しかける。顔は笑顔だが、なぜか目は笑っていない気がした。拒否することができない雰囲気を、あらためて強く感じる。

「・・・い、いえ。メイサの深い考えは、自分にはよくわかりません。しかし、わかるように努力しようかなと・・・」


 途端に、キッと、メイサの眼光がするどくなり、睨め付けてくる。

「私の考えを知る必要はありません。これは、あなたの能力を伸ばすことにつながり、きっとよい効果をもたらすはずです。のんびり仕事と学校を楽しんできなさい!そして・・・わたし・・・おん・・・ま・・きます。」


 後半から、急に声が小さくなる。最後はちょっと聞き取れなかった。

「そして、私たちは、お礼にと言われた温泉旅行を満喫してきます」

(ふぅ、一番大事なことをちゃんと言えました。私はすべての条件をプヨンにも正直に言いました。あぁ、よかった。言えた)


「え、えぇ?最後、今、小声で聞き取れなかったよ?」

「た、たいしたことではありません。レスル経由の内容です。一度、レスルにも行って詳しく聞いてきなさい。プヨン、よろしくお願いします」


 メイサはなぜか、先ほどの厳しい顔からうってかわって、何かをやり遂げたような満足気な顔をしていた。

(そう、人は変わっていくのです・・・私も聖職者ではあるのですが。ふふ)


 メイサは、何か、感慨深げに自分の手元の契約書を見つめていた。


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